殺人鬼の異世界転生記録~殺害欲求のあるサイコパスが異世界転生して好き勝手やってたら、いつの間にか世界の未来を背負っていました~

やきとり

第1章 少年期

プロローグ

 東京の夜景を一望できるビルの屋上。

 その屋上のフェンスのうえに、俺はいま立っている。



「はやく、降りなさい!」



 飛び降りようとしていた俺を止めるのは、一ダースほどの警察官。

 拳銃を向けながら、鬼の形相で俺を見ている。

 みんな、俺に死なれては困るらしい。

 その割にはしっかりと拳銃を構えているのだから、なんだか見てて面白い。

 それもそのはず……俺を捕まえれば、大きな手柄になる。


 なぜなら俺は、男女合わせて六十九人の人間を殺害した殺人鬼だから。


 初めに殺したのは、俺の妹だった。

 俺が大学一年生のとき。

 殺害理由は、とくにない。

 強いて言えば、我慢の限界(?)って感じだな。


 というのも、元から俺は生き物を殺すのが好きだった。

 捕まえた虫をピンセットで潰したり、飼っていた犬の首を斬り取ったり。


 人を殺したら刑務所行きだ。そしたら、これ以上動物を殺せなくなる。

 だから、人を殺すのは我慢して、その我慢を発散させるように、ずっと動物を殺してきた。


 だけど、少しづつ年齢を重ねていくにつれて欲求を抑えられなくなった。

 誰だって、エロ漫画ばっかり読んでたらAVに手を出したくなるでしょ?

 それと同じ感覚だ。

 やっぱり人間という生物は格別で、どうしても殺したくなってしまった。


 だから、殺した。

 俺の殺人童貞は、大好きな妹にあげた。

 殺される方は苦痛かもしれないけど、俺は「初めて」を妹にあげられて満足した。


 妹の悲鳴や、真っ赤な返り血、刺し傷から漏れだす臓器……その一つ一つがまるで夢の景色のようで、ただただ美しかった。


 それからというもの、俺は一か月に一人だけ人間を殺した。

 殺害方法を変えながら、自分のご褒美として殺していく感じだな。


 なるべく沢山の人間を殺せるように、俺は警察に捕まらないように努力した。

 死体はチェンソーでバラバラにするか、灰になるまで燃やすか、処理は徹底して行われた。


 その努力が実を結び、俺は五年以上も捕まらなかった。

 さすがに警察側も俺を怪しんでいたけれど、それでも証拠不十分として扱われた。


 その頃から俺は、自分の才能に自信を持ち始めた。



「俺って天才だわ~このままいけば、ずっと殺せるんじゃね?」



 六十人以上殺しているのに、捕まる気配が無い。

 さすがの俺も調子に乗った。

 いや、この状況で調子に乗らないやつがいるか?

 いるわけないっしょ!


 というわけで、次第に死体処理を怠るようになった。

 以前までは血の一滴も残さないように頑張っていたのに、バラバラに斬り刻むことすらしなくなった。


 これが、命取りとなった。

 正直、俺は警察を舐めていた。

 どうせ捕まえられないだろうって思っていた。


 そしたらこのざまだ。

 突然、警察が家にやってきたのだ。

 捕まるはずがないと高を括っていたせいで、俺は警察から逃げる手立てを用意していなかった。


 警察に追われながら、俺は東京の街を走り回った。

 刑務所に入ったら、もう二度と人を殺せない。人間はおろか、動物を殺すことすら出来ない。

 そんな生活を過ごすのは、なんとしてでも避けたかった。


 だから、捕まるまえに死のうと思った。



「なぁ、刑事さん。最後に教えてくれないか?」


「黙れ! とにかくこっちに来なさい!」


「どうして人を殺しちゃいけないんだ?」



 刑事たちは、虚を衝かれたように動揺した。

 やっぱり、そういう態度に出るよな。


 きっと、人を殺しちゃいけない理由なんて、みんなには必要ないんだと思う。

 サッカーに興味の無い学生がサッカーに手を出さないように、音楽を聴かない大人が音楽ライブに参加しないように、”行動を実行しない理由”なんぞ、本当は考える必要がないのだろう。


 ただ純粋に、しないものはしない。

 そういう事なんでしょうね。


 だったら、俺みたいな人間は、どう生きればいいんだ?

 一か月に一人殺した程度じゃ、社会の害じゃないのに。

 病気、災害、事故……ひと月に亡くなる人間は、少なからずゼロ人ではない。

 つまり俺が一人殺しても、日本の人口と比較すれば塵のようなものだ。


 さらに、俺が今まで殺してきた人間たちは、一人も漏れなく自殺願望を持っていた。

 望まぬ死を与えようとは思っていない。

 自殺サイトから募集を募れば、かなりの人数が集まるのである。

 よく考えてみれば、自殺したい人間がこんだけの数いるという事実の方が、実はヤバいんじゃないのか?

 そういう根本的な原因を解決したほうが、社会のためなんじゃないの?


 俺は、どこで間違えたんだ?

 やっぱり、海外に渡って紛争地域や戦争地帯に参加すればよかったのかな?

 殺人が認められる場所に行くべきだったのか?


 だけどさ、俺はやっぱりこの国が好きだったんだ。


 俺はただ、自分の欲望の最低限度を満たせれば良かった。


 いまは多様性の時代なんだろ?

 だったら俺の価値観も認めてくれよ。


 どうして、人を殺しちゃいけないんだ。



「まぁ……そんなこと言っても無駄か」



 俺はそう呟きながら、ビルの屋上から飛び降りた。


 来世があるなら、次は生き物を存分に殺せる世界がいいな。

 




 

 

 



 



 




 

 


 

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