第155話 どこかへ行くなら
「皆にちょっと話があるんだけど……」
再び勉強会の時間、ふと唐沢さんがそんな事を言いだした。
改まって、いったいどうしたのかと思ってしまったが。
でも、思い当たる節はある。
「一度家族の元に戻って、無事を確かめて来ようかと思ってるんだ。それから……前回のQueen戦で記憶を弄られてね、もしかしたら顔を見れば改善されるかもと思って」
やはり、その内容だったかと納得してしまった。
でもそれは、唐沢さんがこの地を離れると言う事。
Redoに異変が起こっている今動く必要があるのかと疑問に思ってしまう反面、こんな状態だからこそ余計に心配なのだろう。
「んー、いーんじゃねぇー?」
分かっているのかいないのか、雫ちゃんは勉強しながら気のない返事を返しているが。
「あぁ、その為の車って事ですか。確かに、電車とか使うより安全ですもんね」
巧君の方もコレといって不安はないのか、普通に返事をしている。
もしかして、不安に思ってるのって私だけ?
「あ、あの二人共? ちゃんと唐沢さんの話聞いてた? 今まで一緒に戦ってくれてた黒獣ってプレイヤーがしばらく居なくなっちゃうって言われてるんだよ? 私達はどうするかって話合いになる場面じゃないの?」
慌てて二人に声を掛けてみれば、巧君からは驚いた顔を、雫ちゃんからは呆れたため息が返って来た。
え、何その反応。
「まだそんな甘っちょろい事言ってんのかよ、理沙は。Redoプレイヤーなんぞ、自分の事は自分で守るのが鉄則だろうが。その為にここ最近私と組んで、戦闘に慣れようとしてんじゃねぇの? ていうか、何か迷う必要ある話だったか?」
自分の身は自分で、というのはちゃんと理解しているし、唐沢さんに頼り過ぎなのも理解しているが。
えぇと?
「僕も正直、何を迷っているのかちょっと疑問に思っちゃいました……だって、え? 付いて行くんですよね? パーティですし、僕達も絶対にこの場に残っていないと不味いという状況ではありませんから。お留守番する意味はあまり無いのかなって……あれ? もしかして僕何か勘違いしてます? 唐沢さんが一人で行かないと不味い、とかだったりします?」
なるほど、そう言う事か。
つまり二人は、当然の様に付いて行くつもりでいるようだ。
もちろん私だって付いて行きたいし、唐沢さんの記憶に問題が発生しているのなら改善するのに協力を惜しむつもりはない。
だが、こうもあっさりと行動方針が決まるとは思っていなかった。
「あの、皆本気で言ってる? 東京を離れる事になるし、また遠征だから危険だって――」
「うるっせぇなぁ黒獣。私達学校だって行ってないから、何も問題ねぇだろうが。それともアレか? 奥さんに浮気心配されるとかある訳? だったら実家に近付く時は、私等ホテルとかで待機するけど」
唐沢さんの声に対し、ケッと吐き捨てる様に呟く雫ちゃん。
確かに彼女の言う通り、今の状況だったらあまり問題はないのかもしれない。
学校に行きなさいよと言われれば、確かに問題ではあるのだが。
それでもRedoに関わっている以上、命の方が大事なのだ。
「家族の時間まで邪魔しようとは思いませんし、余計な問題が増えない様に行動するつもりです。いくら唐沢さんが強いと言っても、やっぱり単独行動は不安が伴いますし。いざという時、すぐに手を貸せる位置に居た方が何かと都合は良いのかなって」
巧君も、もはやそのつもりらしく。
あははっと軽い声を上げながら、唐沢さんに笑い掛けていた。
私以外は賞金首として登録されているのだ。
だからこそ、より唐沢さんの気持ちに対し自然と寄り添えるのかもしれない。
常に周りから狙われるって、それこそ普通のプレイヤーとは天と地ほどの違いがあるだろうし。
「皆を付き合わせる様で、物凄く申し訳ないんだけど……場合によっては、しばらく向こうに居る事になるかもしれないし」
「それでも、私達は付いて行きます。私の場合は残されるのは怖いって意見もありますけど……それでも、パーティですから。協力させて下さい」
最後の一人として、しっかりと言葉にした。
私だって、協力すると、一緒に居ると決めた人間なのだ。
だったら、個人の都合だからと言って一人で旅立たれては悲しいと思ってしまう。
それに私自身、彼が遠い場所に居るのは不安を覚えてしまうのだ。
いつだって助けてくれた“黒獣”というプレイヤー。
何だかんだ言っても、絶対に助けてくれる相手。
だからこそ、彼がどこかに行くなら。
私も一緒に付いて行きたいと、そう思ってしまったのだ。
これもまた、私が死にたくないというだけの我儘なのかもしれないが。
「あの、皆本当に良いのか? また前回みたいな、勝負を挑まれてばかりになるかもしれないし。知らない土地に行く以上安全の保障は出来ない。それに学校だって……」
「だぁから、学校行ってないし問題なくね? 全員宙ぶらりんの状態なんだから、好きに使えば良いじゃねぇか。このパーティのリーダー、おっさんなんだろ?」
「大してお役に立てる事は無いかも知れないですけど、お手伝いさせて下さい。唐沢さん」
若い二人は、そんな恰好良い台詞と共に同行を申し出るのであった。
そして彼は、私の方に視線を向けてから。
「理沙さんも、それで良いのかい? 君は普通に学校に行ける環境が……」
「私だけ置いて行ったら、それこそ泣きます。怖いので引き籠ります」
「それは問題だね……」
と言う事で、私達のパーティの次の行動方針が決まったのであった。
目指すは、唐沢さんの実家! って、結局どこなんだろう?
北海道とか九州って言われたら、またちょっと困っちゃうけど。
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