第156話 予言


『結局また、全員で移動する事になっちゃいましたねぇ。ま、こうなると予想してましたけど』


「だなぁ……これで良いのかって感じではあるが。あの子達、青春時代をRedoの為に全部使う気でいるのかね……」


『わぁお、おじさん臭い台詞です事』


 リユとそんな会話をしながら、酒を傾ける。

 コレは俺の個人的な事情だし、皆を付き合わせるのは申し訳ない。

 でも残していくというのも不安がある以上、この形が最善であるとは分かっているのだが。

 どうしても……こう。


「はぁぁ、気が重いよ」


 なんて呟いた瞬間、ピコンッと通知音が。

 おや、皆から何か連絡でも来たのかな?

 などと思いつつリユを手に取ってみたが、コレといって通知なし。

 はてと首を傾げてしまったが、もしやと思って別の端末を引っ張り出してみれば。


「“ゴースト”、これは?」


『マスターからの連絡だ』


 つまり、急に居なくなったescapeからの連絡と言う事で良いのだろう。

 死んではいないが、もう会う事は叶わないと言われた仲間からの連絡。

 本来なら泣いて喜びそうなモノなのに。


「……はぁ?」


 思わず、変な声が出て来てしまった。

 だって、その……内容が。


 審判の日が訪れる。

 それまでに部隊を整え、準備を終えろ。

 生き残る為には、全てを使え。

 均衡は崩れ、世界のルールが変わり始める。

 これまで以上の強敵が、黒い獣の行く先を阻むだろう。

 戦え、生き残れ。

 それしか、祈願を叶える術は無し。

 見えているモノが全てだと思うな、全てを疑え。

 その先に答えはあり、守るモノが見えて来る。

 取りこぼしてしまった何かを嘆くよりも先に、守るモノがあるはずだ。

 健闘を祈る。


 だそうです。

 あ、はい。

 ゲームとかにある預言書かな?


「……ゴースト」


『これでもRedoに関わる情報を伏せ、フィルターに引っかからない様にした結果だろう。……厨二病なのは元からだ、すまない』


「いや、わかんねぇってコレじゃ! 結局何!? 何に警戒すれば良いの!? アイツ結局どこ行ったんだよ!」


 思わずゴーストをベッドに向かって投げつけてみれば。


『投げるな、黒獣。電子機器は大切に扱え。ほんの些細な事でトラブルが発生し、いざという時にエラーを発生しても責任が取れない。それは持ち主の怠惰が招いた結果であり、我々電子機器はツールに過ぎない。加えて言うなら、我々が置いてある部屋の温度は出来れば一定に――』


「こういう時だけは良く喋るなお前! おいnagumoの端末! お前は何か無いのかよ!? こういう予言っていうか……こう、Redoに関わる何かを教えてくれたりしないのかよ!?」


『いと、おかし』


「使えないなオイ! あとお前の名前いい加減教えろよ!」


『主は……“なぐもん”、と』


「お前は御当地マスコットキャラクターか何かか!」


 もう一台のスマホもベッドに投げつけ、思わず大きなため息を吐きながらガシガシと頭を掻いていれば。


『審判の日、ですかぁ……何か世界的に、もしくはRedo内で大きな変化が起きるって事ですかね? 均衡が崩れてルールが変わるって辺りが、そう言う事な気がしますけど。どうにも抽象的な言葉で想像出来ないですねぇ……どう思います? マスター。これって実家に向かうのを止めろと言われている気がしないでもないですけど』


「こういう時だけ真面目に考えるよな、リユ。普段は一番ふざけてるのに。けどこれじゃ予想だけで、答えに辿り着けないんだよなぁ……」


『ま、そうですねぇ~。でも予想を立てるのは大事ですから、ほらほらマスター。そっちの二台と遊んでないで、予測と推測はしておきましょう? ソレがあれば、警戒しておく事は出来ますから』


「あ、はい」


 と言う訳で、リユと一緒にescapeから送られて来た文章に対する推測を並べ始めるのであった。

 これで良いのかって気にはなるし、意味あるのかって気分ではあるのだが。

 リユの方は意外と真面目に考えているらしく、今まで以上に無駄口が少ない。


『審判の日ってのは……正直何か起こってみないと分からないと思いますけど。他に関しては戦闘に備えておけって事ですよね?』


「これまで以上に辛い戦闘が待っているから、より一層強化しておけって事だよな? やっと落ち着いたのに、またポイントが使い辛くなったな」


『ソレだけじゃないですよ。守るモノが、とか。見えてるものが全てじゃない、とか。多分コッチに関しては家族の事を言っているのだと思いますけど……気になるのが、取りこぼしてしまった何かがうんたらかんたら。コレってもう既に何かを失っているか、またはこれから失うって事なんですかね?』


「そうでないと祈りたいが……家族の身の安全を確認するの、もっと急いだほうが良いかもな」


 リユと共に内容を解読しようかと試みたが、やはり答えに辿り着く事は出来ず。

 どこまでも予測の範疇を出ない話し合いになってしまう。

 たったこれだけの情報で、今後の予定を変える様な真似は出来ないかな……なんて、思い始めた所で。


『マスターマスター、ものっ凄く馬鹿な発言をしても良いですか?』


「そんなのいつもの事だろ、どうした」


 改まって、おバカ発言を宣言するリユ。

 今度は何だとばかりに、そちらに視線を向けてみれば。


『映画とかゲームの話になってしまうんですけど……結構“審判の日”って表現される事が多いんですよ。まぁプロローグとか、歴史に出て来る様な内容なんですけどね?』


「うん? そうなのか。で、それがどうした?」


『簡単に言いますと、物語のステージとなる状況を整えた日、として表現される事が多いです。第三次世界大戦が起きた、とか。何かしらの変動が起きてこういう世界になった、みたいな。そう言う意味で考えると……もしかしたら、escapeが言いたいのは』


「これからそういう大規模な何かかが起きる、と?」


 ウチの端末が、物凄く怖い事を言い始めたのだが。


『やけに盛大な区切りを最初に持って来ているのに、後半でルールが変わるとか言い直している所が引っかかるんですよね。もしかしたらその災害か何かが起こった後に、Redoの方でも変化が起きる。とかなのかなぁって』


「そりゃもう絶望的だな」


『ですねー、わっはっは。未来こわーい』


 と言う事で、せっかくescapeからヒントを貰ったのにろくに生かせぬまま。

 会話は雑談にシフトしつつ俺達の夜は更けていくのであった。

 アイツが消えてから暫く経ったが……今連絡が来た事に、何か意味があるのだろうか?

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