第154話 自らの行動と責任


「ふ、ふふふ……」


『マスター、キモイですよ?』


「いやだって、リユ。自分の車を買ったのなんか、本当に久しぶりなんだぞ?」


『そうですねーよかったですねー。帰って来たら皆に夕ご飯用意してもらっていたのも嬉しいですねーたこ焼き美味しいですねー』


「何だよ、不満があるなら言えよ。良い車だったろ? それに理沙さん達も仲良くやっている様で良かったじゃないか」


『G T R に! 私は乗りたかった!』


「やっぱり黙れ、そのまま静かにしてろお前」


 と言う事で、頂いたたこ焼きをパクつきながら缶ビールで一人晩酌。

 旨い、実に旨い。

 昼間の間は理沙さんとrabbitの事を気にしていたと言うのに、どうやら仲良く休日を過ごされた御様子で。

 いや、平日なんだけどね?

 そして巧君に関しては俺と一緒に、中古車だからと隅々まで車を調べるという仕事に明け暮れていたのだ。

 あの子、車を買うって事で短い間に色々と調べたらしく。


「プラグはいつ変えましたか!? 諸々の劣化具合も見たいのでリフトで上げてもらえませんか!?」


 なんか、物凄く頼もしかった。

 俺なんか車の外装内装だけ見て、おぉ~良いじゃん。とか思っていたのに。


「唐沢さん、タイヤが古いです! ヒビが結構酷い事になってますよ! 店員さん、コレ乗り出しまでに新しいタイヤに代えるとしたらいくらかかります!? 時間は!?」


 整備士かな? と言いたくなる程隅々までチェックし、あっちもこっちも直してから納車してくれるのか? という言葉を連ねていた巧君。

 もはや最後の方は、彼が店側と交渉していたくらいだ。

 その結果、表示価格プラスアルファにはなってしまったものの。

 納車時には結構なお得な値段で色々とパーツを変えて貰える事になったのは確か。


「いやぁ……凄いな、巧君」


『熱量がヤバイですね、まさに男の子。納車も急いでもらえる様で、助かりましたねぇ』


 そんな会話をしながらたこ焼きをパクつき、ビールをグビグビ。

 車も決まったし、後は待つだけ。

 新しい車を持つってだけで、妙にワクワクしてくるのだから不思議なモノだ。

 社会人の時も、Redoのプレイヤーになってからも。

 こんなにワクワクする事なんて、あまりなかったからな。

 やはり趣味に金を使うのは良い。

 家族の為に金を送るのも、税金とかで金を使うのも仕方ない。

 しかしながら、やはり自分だけの為に金を使える瞬間とは。

 やっぱり気分が高ぶるモノだ。

 こういう“無駄遣い”にも匹敵する様な行為、独り身の時以来かもしれない。

 などと思いつつ、缶ビールを傾けていれば。


『兄貴、一応“実家”方面も調べてみましたけど。やっぱり都内と比べればプレイヤーは少ないっすね。とはいえ、あまり穏やかではないのは事実っすけど。どうします? 俺はこっちに残ってプレイヤーを探りますか?』


 そんな内容のメールが、端末に届いた。

 本当に、良くやってくれる。

 それ以外の感想が浮かばないくらいに、ゲンジは働いてくれている。

 だからこそ、本日に関しては多めにポイントを割り振っても良いのかもしれない。


『いつ、動きますか』


「近い内に、としか言えないな。皆の安全確保も、まだ済んでないし……」


『マスター』


「分かってる、分かってるんだよ。そんなのいつまで経っても終わらないって、Redoが続く限り……でも」


『分かってます、大丈夫ですから。そんなに自分を責めないで下さい』


 リユの言葉を聞きながら、もう一口ビールを呑み込んでから息を吐いた。

 俺達は既に、抜けられない底なし沼に半身を埋めてしまっているのだ。


「納車までに、皆の連携と戦法を考える。正直、俺の苦手分野だが……協力してくれ、リユ」


『仰せのままに、マスター。しかし相手が納得するかどうかは別です、その時のプランも考えておいた方が良いかと』


「つまり……その、理沙さん達が俺に付いて来てしまう事態って事か?」


『十分にあり得るかと』


「いやいや、だって相手は皆学生だし。こんなおっさんの里帰りに、本当に付き合うとはとても――」


『十分に、あり得るかと』


 分かっては、いたのだ。

 俺は彼等彼女等と関わり過ぎた。

 あの子達にとっての“黒獣”という存在が、どれ程大きくなっているのかも。

 それでも、普通に生きて欲しかった。

 そう思っていたのだが。


「この遠征に付き合わせる事で、皆の人生を狂わせてしまわないかな?」


『既に狂っているんですよ、Redoと関わった時点で。だからこそ、関わったのなら。責任を取るべき……とは言いません。だって自己責任ですから』


「意外と無責任というか、随分放任だな」


『当然です、それがRedoです。誰かに責任を押し付けられるのなら、押し付けてしまえば良い。しかし自らの判断さえ相手に責任を負わせて、更に追及してくるのなら。それは自分から“殺してくれ”と言っている様なモノです。なら、気楽に生きましょう』


「具体的には?」


『マスターのしたい様にすれば良いと、私は思います。パーティに関して気を使い過ぎる必要も無ければ、彼等の人生の責任を取る必要も無いのです。それは、彼等が選んだ道ですから。Redoとは本能を剥きだしにしますが、それと同時に……その行動の責任は自らに振りかかります。自分のケツは、自分で拭けって事ですよ』


「随分と頼もしいお言葉だな」


 ハハッと呆れた笑い声を上げながらビールを飲み干し、グシャッと缶を潰してみれば。


『貴方は貴方の責任を取れば良いだけです。プレイヤーネーム“AK”、通称“黒獣”。貴方には、どんな責任が伴っていますか? 最初から、変わっていない筈です』


「家族を、守る事……だな」


『なら、ソレを実現しましょう。それが貴方の願いなのですから。例え他の全てを犠牲にしても、ソレを叶えるのがマスターの願いです。なら、叶えましょう? Redoとは、そういう世界です』


 やけに怖い言葉を残しながら、リユは笑う。

 だと言うのに、何故だろうか?

 コイツが、無理して笑っている様に感じられるのは。

 心にも無い言葉を紡いで、俺を安心させようとしている気がするのは……何故なのだろうか?

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