第153話 兎は不吉か、御守りか
「ハハハッ! ホラ、逃げ場が無いよ!?」
「なんだコイツ! オイ後ろの奴を早く何とか――」
「無理だっての! こいつ全然攻撃が通らねぇ!」
相手のパーティが慌てふためいている。
私が敵陣で暴れ回り、雫ちゃんが威嚇射撃。
これまでの相手と違い、現状そこまでの脅威を感じていない。
だったら、rabbitの攻撃では簡単に相手を殺してしまうかもしれない。
なら、相手が降参するしかない環境を作れ。
「リズ」
『スキル、“時を駆ける者”を使用します』
一気に加速し、散らばっていた相手を一か所にまとめる。
全体を見ろ、私の役割りはそう難しい事じゃない筈なんだから。
「速っや!?」
「いやいやいや、何だよこの二人!」
「馬鹿っ! お前等固まり過ぎだ! 一掃されんぞ!」
慌てふためく相手を威嚇しながら、あえて回避させ盤面を整えていく。
距離を取ろうとする相手の前に飛び出し剣を振れば、敵は後退する。
反対側にも回り込んで、相手の逃げ道を無くして行けば。
「ハハッ! 今の状態で私が全弾発射したらどうなるかねぇ?」
相手のパーティは行き止まりの路地に追い込まれ、その正面で全武装を展開するrabbit。
更に“蜘蛛の巣”のスキルを使い、完全に相手の足を止めた。
仲間の隣に立ち、クスクスと笑い声を上げてから。
「負けを認めてくれるなら、ここで止めても良いですよ? どうします?」
余裕を見せつける言葉と態度を選びながら、相手に微笑み掛けてみれば。
「待て! 撃つな! サレンダーする! 今送るから、ちょっと待ってくれ! 頼むから止めてくれ!」
相手のリーダー格が大慌てでそんな声を上げ、全員武器を手放してから端末を取り出し操作を始めた。
良かった、何とかなった。
私と雫ちゃんだけだったけど、ちゃんと生き残れた。
しかも、自ら勝負を挑んだ状態で。
『マスター、敵プレイヤー全員分のサレンダーを受け取りました』
「了承して、リズ」
『了解』
そんな訳で、目の前から消えていくプレイヤー達。
お、終わったぁぁ。
「ぶはぁぁぁ……」
「お疲れ。でもアレだな、笑い方が前の黒獣っぽい。二重人格かと思ったぜ」
「だって黒獣の真似してるから……私はやっぱりあそこまで豪胆になれないよ」
「いやぁ? 案外様になってた気がするけど。ま、勝ちは勝ちだからな。いいんじゃね?」
ケラケラと笑う雫ちゃんと、完全に座り込んでしまった私。
一戦する度にこれでは、正直お話にならないのは分かっているのだが。
疲れるのだ、常に余裕ぶった態度で戦闘を続けるのは。
でも弱い所ばかりを見せても、最後まで相手に希望を持たせる事になってしまう。
だからこそ、私の戦い方としてはコレが最善なのだろうが。
「やっぱ、唐沢さんみたいに上手く行かないなぁ……」
「fortもそうだけどさ、お前等Redo内で本名出し過ぎ。もっと気を付けろよ」
「うっ! 確かに……あれ? でも私達がこの場で黒獣の名前を出すのも結構危険じゃない? 関係者だって一発でバレちゃう様な……」
「確かに……余計狙われるかも」
思わず、二人してため息を溢してしまうのであった。
唐沢さん、と言うか黒獣。
この周辺ではかなり有名だもんねぇ。
※※※
「んはぁぁ……デイリーも終わったし、夜の激戦区に巻き込まれる前に帰るかぁ」
疲れた様子の雫ちゃんが、身体を伸ばしながらそんな事を言って来た。
いくつかの対戦を終え、全てサレンダーを貰っての勝利を収めた私達。
私の特訓、という意味合いが強かったのだろうけど。
でも、十二分に意味はあった。
どうしたら相手からサレンダーを貰いやすくなるか、向こうが勝てないと思わせる戦場の作り方とか。
そう言う所も、色々と勉強になったのは確か。
此方の戦い方に付き合って、誰一人殺さなかった雫ちゃんには感謝しかない。
「巧君はまだ戻って来てないみたいだし、皆もすぐ食べられる様にご飯買ってから帰ろっか」
「相っ変わらず、緩いなぁ……このパーティ」
なんて会話をしながらゆっくりと歩き出した。
やはりまだ街中を歩き回るのは怖い。
でも巧君にも言われた通り、警戒し過ぎても自らが疲れてしまう。
探知や阻害のスキル持ちが身近に居たから、いつの間に贅沢になってしまっていたのだろう。
以前は、こうして身を晒して生活していたのだから。
「しっかしアレだな、理沙はいざって時に“とっておき”の武器を持っておいた方が良いな。どうしてもサレンダーを貰えない相手が登場したら、逃げるしか選択肢が無くなっちまう」
「あぁ~確かに。どうしてもの事態に対応するの、今の私じゃ攻撃力的な意味で無理かも。前にドロップしたレールガンもescapeに渡したままだし……」
「はぁ!? あれドロップしたのお前かよ! 確率からしてあり得ねぇだろ!」
「そうは言っても、出たんだもん。でもescapeは居なくなっちゃったし、どうしたものか……」
「あれ? でもアイツの端末は残ってんだろ? だったらデータとして、まだ端末の中にあるんじゃないか?」
「え、そういうものなの?」
「少しは勉強しろよ……基本プレイヤーのアイテムは端末管理、端末を無くした奴はアイテムのコンバートも出来ねぇの」
些か不用心だとは思うが、そんな会話をしながら帰り道を歩いていた。
そうか、もしかしたらレールガン残ってるかもしれないのか。
後で唐沢さんに相談してみよう、“ゴースト”の所有権は今彼にあるみたいだし。
「まぁそっちは追々として、今日のご飯どうしよっか」
「だからいちいち緩いって言って……」
会話の途中で、二人してピタッと停止した。
なんか、やけに良い匂いが漂って来るのだ。
そちらに視線を向けてみれば、そこには。
「「たこ焼き!」」
ショッピングモールの入口に設置された露店で、何かのイベントらしくたこ焼きを売っていた。
迷わず列に並び、二人揃ってワクワクしながら待っていれば。
「巧君の分はもちろんとして、唐沢さんは近くまで来るかな?」
「あーうん、来るんじゃね? おっさん、心配性だし。あと一人のおっさんも来るかも」
「ゲンジさん? あの人まだ二十歳って言ってたし、おじさんでは無いんじゃないかな?」
「私達からすりゃおっさんだっての」
「私からするとほんのちょっとしか違わないから、ちょっと複雑」
「あぁもう面倒臭いな……どうでも良いから人数分買って行こうぜ。メールでも送っておけば間違いなく回収に来るだろ」
なんか、凄く久々に普通の会話をしている気がする。
それに雫ちゃんも馴染んでくれたみたいだし、思わず表情が緩んでしまった。
「おっちゃん! たこ焼き五人前!」
「お、元気の良いお嬢ちゃんだね。こりゃオマケしちゃおうかなぁ?」
「一個ずつくらい多くしてくれても良いぜ!」
「だははっ! 内緒だぞぉ?」
順番が回って来た瞬間、雫ちゃんが元気な笑みを見せてみれば。
店員さんも悪乗りしたらしく、彼女の冗談に付き合っていた。
確かにね、この子可愛いし。
もっと言うなら目立つ見た目に、言葉は荒っぽい癖に人懐っこい。
きっとRedoと関わっていなければ、茜と一緒にもっと多くの人に囲まれていた事だろう。
あの子も、凄く人気者だったから。
思わず友人の事を思いだし、緩い笑みを浮かべてしまえば。
「理沙! なぁ理沙! これ超旨そう! もう一船買って皆で分けようぜ!」
「ん、そうしよっか」
「おっちゃん! もう一船追加!」
「あいよぉ、ちょっと待ってな。すぐ作ってやるからなぁ!」
そんな会話をしながら、私達の一日は過ぎていくのであった。
本当、雫ちゃんが“こっち側”に来てくれて良かった。
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