第121話 決戦の合図


「久しぶり、というにはあまり時間が経っていないかな?」


『はい、お久し振りです』


 以前此方に接触して来た相手、近藤 修一。

 RedoネームをButlerと言っていたが。

 彼に連絡を取ってみれば、見事にワンコール以内で通話に出るという徹底ぶり。

 流石は社長秘書、社会人してるねぇ……なんて感想を抱きながら、会話を続けてみれば。


『流石はescapeと黒獣、と言った所ですね。Queenは貴方方の対処で手一杯の様で、此方の追跡まで手が回っていない様です。お陰で私も無事、そして部下達もまだ探りを入れられていない様です』


「別に君達の為にやっている訳ではないけどね。それで、君は何処まで協力してくれるのかな?」


『我々も覚悟は出来ています。今回で全てを終わりにする為に反旗を翻す覚悟も、内部から妨害する為の準備も整っています』


 どうやら相手も結構な覚悟があるらしく、彼に協力している社員にも緊急指示が出せる状態にあるらしい。

 まさに革命って奴だね。

 いつだって権力者の最後は、身内からの裏切りで奈落に落ちるものだ。


「では、協力者達に伝えてくれ……一切手を出すな、と」


『え?』


「もっと分かりやすく言おう。此方の予定を君に伝えるから、関係者はその日絶対に会社に近付かない事。全員欠勤でも何でもしていてくれ、ハッキリ言って邪魔になる」


 今回の攻略に、知りもしない仲間のプレイヤーは邪魔でしかない。

 彼等を守りながら戦う義理も無ければ、ゲーム内で敵味方を見分けるのは非常に困難。

 だったら、最初から居ない方が良い。


『良いの……でしょうか。我々も多少なり戦力に――』


「いらないよ、その為の準備も済ませてきた。だからこそ、Queenが居なくなった“その後”に目を向けてくれ。俺達は城を落とすだけで、君達の城を占領するつもりはないのだから」


『それは、つまり……残された者達と、“子供達”を私に任せるという事でしょうか?』


「それが、君の仕事だろう? 俺達は侵略者であって、彼等を保護する義務も義理もない。後始末をしてくれる人が居る方が、こっちとしても楽なんだよ」


 今回の城攻めで、全員死んでしまうのなら放っておくが。

 まぁ、そこまではいかないだろうしね。

 色々と後処理をする方が面倒だし、そういうのを気にするであろう面々も揃って居るのだから。

 だったら、押し付けられる相手に任せてしまった方が圧倒的に簡単だ。

 俺達は何処まで行っても、個人的な目的しかない集団なのだ。

 なら、余計な事を抱え込む必要は無い。


『ありがとう……ございます。残った者達は、責任持って私が保護する事を誓いましょう』


「そう、そうしてくれるとコッチも楽で良いよ。それじゃ、もう少し協力してもらおうか。今から、君の知っている全ての事を話してもらう。良いね?」


『はい、なんなりと質問して下さい』


 決戦の日が近い。

 その為今回ばかりはしっかりと時間を作り、根掘り葉掘り相手の情報を聞き出していくのであった。

 さぁ、楽しくなって来た。

 俺が求める、Redoの真実に近づく瞬間が訪れたのだから。


 ※※※


「はぁぁ……あの鬱陶しい賞金首は、今日どんな感じかしら? まだこの近辺のプレイヤーを狩り続けているの?」


「いえ、社長。本日はその……まだ一つも報告が上がっておりません」


「何ですって?」


 近藤の代わりに秘書として付けた相手が、そんな言葉を吐いて来た。

 ここ数日で、騒がしい程に報告が上がって来る相手だったというのに。

 今日は、一切戦闘報告なし?

 周囲のプレイヤーが減り過ぎた影響だったり、捨て駒が黒獣に恐れを為してログインしないとかだったらまだ良い。

 しかしながら後者だった場合、私という、というかこの会社そのものを敵に回す事を認識している筈だ。

 だったら、無理矢理にでも戦闘に参加しそうなものだが……この不気味な静けさは何だ?

 もしも今日はあの賞金首がログイン自体を行っていないというのなら、それは。

 準備が整った、という事ではないのか?


「今すぐ周囲のプレイヤーに彼等を探す様に伝えなさい。ウチの社員も出して、徹底的に調査を。間違いなく、相手は近くに居るわ」


「は、はいっ! 子供達に関しては……どうしますか?」


「あの子達は守備の要よ? 会社から離れさせないで、調査なんて下っ端のする事なんだから」


「了解です……ですが、今日に限って欠勤者が多くて。人手が足りるかどうか……」


「はぁ!? こんな時に何を言ってるの!? 無理やりにでも呼び出しなさい! リアルの通常業務は後回しで良いわ、とにかく今はRedoの事を最優先に――」


 部下にそう指示を出した瞬間。

 PCのモニターがブツッと音を立てて真っ暗になり、“sound only”という表示が。


『やぁ、随分と忙しそうじゃないか女王様』


「……escape」


 今までの文章のやりとりとは違い、通話として音声が聞えて来る。

 想像していたよりも、ずっと若い男性の声。

 彼が直接連絡を取って来たと言う事は、やはり。


『君が必死に守っている“キング”を落としに掛かろうと思ってね』


「貴方は、どこまで知っているのかしら?」


『さぁ、どうだろうね? しかし俺だって人間だ。知らない事も多いし、知っている事も多い。お互い真に協力出来れば、より高みへと目指す事が出来たかもしれないけど』


 相手は軽い笑い声を上げながらそんな事を言って来るが……全く、どの口にが。

 明らかに彼は、私の事を拒絶している。

 私という存在そのもの、私の在り方を拒否している。

 協力する気など、はなから無いとありありと伝わって来る程に。


「コチラの知っている事を共有すれば、貴方は今からでもコッチに付いてくれるのかしら?」


『ハハッ、確かに俺の知りたい事をそっちは知っている様だ。でもさ、もっと早い手段を思いついたんだ。手間を取らず、君という異分子を取り込まずに済む方法』


 やはり、コレも運命というモノなのだろう。

 相手は間違いなく、recorderレコーダーの存在を掴んでいる。

 正確な情報かどうかは分からないが、nagumoの様な特殊な存在を囲っている事には気が付いているのだろう。

 そして私が彼を求めた理由と、結局私達は最後には奪い合う立場にあると理解している。

 それが分かるくらいに、彼の声には“敵意”が乗っていた。


「お互い、駒の準備が出来たって事かしら?」


『あぁ、その通り。ゲームを始めよう、Queen。俺は、君から全てを奪う事にしたよ。だってRedoは、“そういうゲーム”だろう?』


 彼の言葉と共に、私の端末に“承認制”の決闘が申し込まれた。

 決戦の日は、今日。

 更には今この瞬間、という事なのだろう。


「甘く見られたものね、若造が」


『だったら勝ってみせなよ、オバサン』


 この戦闘を承認すると同時に。

 全社員に対してRedoにログインする様指示を出すのであった。

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