第120話 久しぶりのガチャ


「さて、随分と黒獣おじさんが稼いで来てくれたから、各々アバターやスキルは強化出来たことだろう」


 幹事か何かの様に、escapeがそう宣言する訳だが。

 本日も旅館、つまり浴衣。

 コイツが偉そうに宣言する度に、浴衣がはだけていってだらしない恰好になっている。

 理沙さんだけは、若干視線を逸らしてるし。

 仕方ないね、残念なイケメンが盛大な演説しながらトランクスチラ見えしているし。

 隠せ隠せ、格好悪いぞ。


「と言う事で、そろそろ相手の本拠地に乗り込む算段が付いたと言って良いのだが……俺達は、Redoというゲームをしている。それは間違いないね?」


 おかしな事を言い始めたescapeが、此方に質問を投げかけて来た。

 まぁ、そうですね。

 という事で、頷くほか無いのだが。

 相手は満足そうな笑みを浮かべ。


「現実的な事を言うと、全員のステ振りも考えて、生き残れるだけの可能性を考えて、色々作戦を考えて! 俺は、疲れました!」


「でしょうね、正直すまんかった。お前ずっと皆のパラメーターとマップと資料睨んでるもんな。お疲れ、酒飲むか?」


「飲む。が、しかし。もう少しさ、こう気を抜けるイベントを用意するべきかと思ってね」


「あー、現実から目を背けたい的な?」


「簡単に言うと、そこの若いの二人がいつまでも暗い雰囲気を放っているから鬱陶しいんだよね。黒獣だけに戦わせて良いのかーみたいな、いい加減ウザい。だからここらで一つ、宴会でも開こうかと思って」


 これはまた、珍しい。

 コイツが、というかescapeと呼ばれるハッカーがそんな催しを計画するとは。

 実の無い事には興味ないって雰囲気だったのに、まさか慰安的な席を用意するなんて。

 コイツも社交的になって来たのかと思わず関心してしまい、ウンウンと首を縦に振っていれば。


「簡単に言うと、景気づけに皆でガチャ引こうぜって会なんだけどね? あ、黒獣には期待してないから大丈夫、勝手に鉄球増やして? 俺が期待してるのは、神引きJKだけだから。これで良いスキルとか引ければラッキー的な? そっちも合わせて、スキルの最終調整かなぁ」


「おい、結局欲望駄々洩れじゃねぇか」


「余ってるスキルとかも、必要な面々に譲渡する必要があるから。今回のガチャで新スキルが出ても、勝手に適応させないでくれよ? 二人共」


「なぁ今二人って言った? 何でお前はコッチを一切見ない?」


「あ、大当たりのスキルだったら本人にしか使えない様なのが出るだろうから。そっちは勿論当人が使ってくれて良いよ」


「ねぇ聞いて?」


 という事で、今夜の夕食時に皆でRedo端末を取り出す事になった。

 どうやら理沙さんと巧君の端末にも、十連ガチャを回す分のポイントは残っていたらしく。

 俺に関してはずっと戦闘続きだったので、皆に分けていないポイントはそのまま。

 何度も回せる分の数字が残っている。

 もし皆ハズレだったら、此方のポイントを譲渡してもう少し回してみても良いかもしれない。

 という事で。


「一応俺なりに考えて、今回対応できるであろうポイント割り振りはしたし。皆それだけ強化されているだろう、しかしながら……是非、今の事態を有利に進められるスキルを引き当ててくれ。では、いこうか!」


 escapeの言葉と同時に、皆一斉に十連ガチャを回した訳だが……。


「あ、え? これ結構良いモノが出たんじゃないですか!?」


 声を上げたのは、巧君。

 此方に見せて来る画面には、最新式の掃除機が表示されていた。

 なるほど、大当たりだ。

 せっかくなら自動で掃除してくれる様なロボットの方が良かったのかもしれないが、これは良いモノを引いた様だ。

 あくまでも俺の感覚では、だが。


「ま、そう景気よく良いモノは当たらないよね」


 そんな事を言いながら此方に画面を向けて来るescape。

 そこにはハンドガンなどの銃火器に、PC部品等など。

 なるほどどうして、ガチャってのは人によってハズレでも景品に偏りがあるらしい。

 もしかして、こっちもその本人に必要な物が排出されたりするのだろうか?

 “当たり”景品に関しては、当人にまるで関係ない物品は出ないって話だったしな。

 そんな事を考えながら、理沙さんのモニターに視線を向けてみれば。


「えと……スキルが、当たりました。“鈍重化”って、何ですかね……?」


 これですよ。

 思わず俺とescapeが目を見開いてしまった。

 普通さ、相手のスキルをいくら奪おうとも自分が使えるスキルってなかなか無い訳で。

 適当な物を適応しても、邪魔にしかならない訳ですよ。

 だというのに、この子は。


「マジですか……理沙さん」


「い、いや。ホント、コレどう言う感じになるのか全然分からないというか」


「鈍重化って、言葉通りなら……そのままじゃないかい? そのスキルを使っている間は、相手は遅くなる……とか? まさかRISA自身が遅くなるスキルが出る訳もないし、多分相手に対してのデバフなんだろうけど。いや、え? ここまで都合よく揃うもの?」


 この子、引きが強すぎる。

 以前も相手のメイン武器を引き当てて、escapeを強化した事態に持ち込んだ訳だし。

 いやいやいや、ちょっと待ってくれ。

 今すぐ宝くじを買って来てほしいレベルに到達しているんだが?

 それが当たるなら、もうRedoやらなくて良くない?


「適応しちゃって……大丈夫な感じですかね?」


「スキルの詳細を確認させてくれ……その後此方が望む能力だったら、ポイントを分けるから強化してくれ。いやホント、何なのこの女子高生」


 頭を横に振るescapeが、リズから説明を受けながら彼女の新しいスキルを確認していく。

 コイツにも予想外と呼べる展開があるのかと、思わず笑みを溢しそうになってしまうが。


『マスター、お酒の追加注文でもしません? ほら、ね? このままの勢いで。理沙さんが大当たりを引いた、ヤッターみたいな。ね? 皆でお祝いしましょ』


「そうだな、ソレが良い。俺達は盛り上げ役に回ろう」


 そんな訳でいそいそと部屋の隅に移動して、宴の準備を始める訳だが。


「黒獣、アンタのは?」


 どっかの馬鹿が、そんな事を聞いて来た。


「聞きたいか? 俺の戦果を。この状況の後で」


 ギリギリと奥歯を噛みしめながら、彼に向かってRedo端末を向けてみれば。


「……遠距離武器が補充出来て何よりだよ」


「おかしいだろ! 絶対おかしい! なんで皆にはそんな良いモノが出てるのに、俺は鉄球なんだ!? 絶対バグだろ!」


 遠距離武器が、補充されるだけで終わったのであった。

 コレならそこらの廃品業者で鉄くず買った方が安いわ。

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