第119話 レベリング
「随分とまぁ……派手に暴れている様ね」
「はい……ここ数日、探すどころか向こうから姿を現している様な状態でして」
私の元に入って来る報告には、全てと言って良い程に“黒獣”の名前があった。
本当に、“目立ちたがり屋”です事。
戦闘記録や目撃情報で相手の位置を、正確にはescapeの位置を特定しようと思ったのに。
こうもそこら中で戦闘が勃発していては、相手のパーティメンバーを特定するどころでは無い。
黒獣の位置に関しては、リアルタイムでも情報が入って来るのに。
この賞金首の行動のお陰でそこら中が戦場になり、完全にescapeは雲隠れしたと言っても良い。
些か、暴れている奴が目立ちすぎなのだ。
「チッ……近藤の位置も相変わらず掴めないし、厄介ね。まさに“お手本”の様な賞金首、コイツのせいで細かい情報が全くつかめない」
「一種の超越者としてのプレイヤー。普通なら恐怖する対象……それを分かりやすく具現化した様な相手ですね」
思わずテーブルに拳を叩きつけ、ギリギリと奥歯を噛んだ。
もう少しマークしていれば、警戒していれば。
そんな後悔は思い浮かぶものの……コレを、どう警戒すれば良い?
特殊型の子達を向かわせればすぐにでも対処出来そうなのに、相手はひたすらプレイヤーの枠組みに収まったまま強者を演じている。
飛びぬけているのはフィジカルのみ、それは間違いない。
しかしながら、本当にそれだけなのだ。
そして他の賞金首と違い、現在隠れる様な真似をしていない。
俺はここに居るぞと言わんばかりに、この街で暴れ回っている。
これがあの街で暴れ回っていた賞金首、黒獣。
nagumoさえも討伐した、“普通の”賞金首。
「あり得ない……あり得ないわ。特殊型こそRedoにおけるピース。彼の様な存在は、それこそ使い潰されるのが関の山だと言うのに。コイツは、何故ここまで生き残っているの?」
「恐らく……ステータスが異常なのと、escapeの助力かと」
「分かってるわよ! そうじゃないと説明がつかない、あり得ない存在なのよ。でも事実その実績を目にするまで気が付けなかった、nagumo程の相手に勝利する結果を残すまで警戒出来なかった。それが蓋を開けてみれば何? 特殊能力なしの物理特化で、戦闘は殴る蹴る噛みつく。まるで獣じゃない! なんでこんなのがここまで強いのよ!? これじゃまるで――」
件の侍の様じゃないか。
そう言いかけて、口を閉ざした。
それを言ってしまえば、私の勝ち筋が消える。
だってアレは、nagumoは。
以前の“勝利者”に他ならないのだから。
アレと同じ存在が、すぐ目と鼻の先まで来ている。
だとすれば、負けるのは当然……。
「数名、子供達を向かわせなさい」
「どの子を、行かせますか?」
「相手は物理、しかも近接戦特化よ。遠距離組に決まってるじゃない……少しは考えなさい。相手の視界に入る前に片付ける、捕まえてescapeを釣る餌に……なんて、甘い考えは捨てるわ。アレは、庭に放っておいて安心出来る獣じゃない。見つけ次第駆逐しなさい」
「りょ、了解しました!」
部下が部屋から出て行ったあと、自分でも驚くほどの大きなため息が零れた。
あぁぁ、くそ。
黒獣がescapeの捨て駒? そんな事を考えていた自分をぶん殴ってやりたい。
あれは正真正銘、最終兵器だ。
それをescapeは、初手から放って来ているのだ。
この街全体を呑み込む勢いで。
※※※
「クハハハ! こんなもんか雑魚共!?」
昼間っから、盛大に暴れてみた結果。
来るわ来るわ、そこら中から。
まるで俺が戦闘しているという情報を掴んでいるかの如く、そこら中からプレイヤーが集まって来る。
いいねぇ、実に良い。
手間が省けるってのは、こういう事を言うんだろう。
『マスター、escapeからの通達。“賞金首”が接近中です、警戒を』
「おぉっと、そろそろ安物は喰い飽きた所だ。脂の乗ったのが御登場か?」
などと言葉を残した瞬間。
地面に、良く分からん模様が浮かび上がった。
「リユ、こりゃなんだ」
『魔法陣……っぽく見えますね? わぉ、ファンタジー』
そんな会話をした次の瞬間、地面からは炎が巻き起こり此方全てを包み込んだ。
おーおー派手だなぁ、なんて事を思いつつ回避している間にガスバーナーは勢いを収め。
「物理特化とか……余裕でしょ、これで終わり」
「いやぁ、マジカルミラクルちゃんと組むと楽で良いわぁー」
「次そう呼んだら、殺すから。アンタも働きなさいよ」
何やら楽し気に会話をしている若者が、建物の屋上で此方を観察しているではないか。
なるほど、アレが賞金首か。
そんでもって、大体分かって来た。
Queenが呼び込んだガキってのは、まだ社会を知らねぇ。
つまり夢を見ている様な子供が多い訳だ。
だからこそ、こういう“ファンタジー”的な鎧が生れる。
事実今回登場した奴も、ローブみたいな恰好をしていたりする訳だしな。
鎧の上からそんなモンを着て、動き辛くないのかねぇ?
「あれ? さっきの黒いの、何処行った?」
「は? あの炎に焼かれて生き残ってる訳ないでしょ? 早く確認して来てよ」
呑気に喋っているお二人さんの肩に手を乗せ、間から顔を覗かせた。
「わりぃな、ここに居るんだわ。デート中邪魔するぜ?」
コレが、特殊型って奴か。
fortやrabbitも、ある意味特殊型と言えるのだろうが。
こんなにも“特殊”な部類が居るとは驚いた、良い勉強になったってもんだ。
とはいえ結局はこの程度。
上の指示に従ってデカイ“魔法”みたいな攻撃をぶっ放して来たガキ共、臨機応変って言葉を知らない様だ。
ハハッ、面白い。
面白いが……些か戦略として単純な上に、戦い方としても面白くないな。
はなから“ぶっぱして終わり”ってやり方に、根底から馴染み切っているらしい。
Apolloとか呼ばれていた奴の方が、ずっと強かった気がする。
「なっ!?」
「すぐ次の攻撃を――」
お二人さんは慌てた様子で此方から距離を置こうとするが。
鎧の上に着たクソ邪魔なロープを掴まれている影響で、回避行動が遅れている御様子。
何でそんな邪魔なモン着ちまったかなぁ、いらないだろ……ソレ。
という事で、互いのローブを引っ張って目の前で打ち付けてみれば。
「賞金首なのに、鎧は貧弱なのか? お前等、終わってんな」
薄っぺらい兜でも被っていたのか、顔面が平らになった二人が血を流しながら大人しくなってしまった。
ハッ、コレが女王様御自慢の“特殊型”ねぇ。
派手な手品が披露できても、中身のプレイヤーがコレじゃ話にならねぇ。
「おいescape、こんなのに警戒してても仕方ねぇぞ。雑魚ばかりだ」
『文句を言うな、黒獣。もう少し相手の駒を減らす必要がある。それに……こっちは君が稼いでくるポイントで順調に強くなっているよ』
「おぉ、良いね。おい白兎、もう一回勝負しようぜ」
『だからしつこいですってば! やりませんから! 絶対やりませんからね!?』
仲間達は、相も変わらず釣れない言葉を吐いてくるのであった。
あぁクソ、つまんねぇなぁ……fortだったら、相手してくれるだろうか?
「おいfort――」
『嫌です』
「あぁ、そうかい」
どいつもこいつも、冷たいねぇ。
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