第113話 因果


 スキル適応が終わった後、ふぅと息を溢しながら二人の帰りを待っていれば。

 コンコンッと扉をノックする音を聞えて来た。

 あぁもう、やっと帰って来たのか。

 二人共お酒が好きなのは知っているが、こんな時間まで飲みに行かなくても良いのに。

 せめて今後は目の届く範囲でお酒を楽しんでくれと言っておこう。

 そんな事を思いつつ、部屋の扉を開けてみれば。


「お? 結構可愛いじゃん、今回の獲物がコレ?」


「ちょっとお邪魔すねぇ。お嬢ちゃん、名前なんて言うの?」


 ケラケラと笑う男四人組が、扉の前には立っていた。

 え? あ、は?

 ひたすらに混乱するが、相手はズカズカと部屋に上がって来て。


「お邪魔しまーす! あ、この子がfort? 話には聞いてたけど、マジでガキだねぇ。こんなのが賞金首なんだ」


 一人の男が襖を開き、未だ眠っている巧君に近付いていく。


「その子に触るな!」


 思わず駆け出し、寝室に侵入した相手に飛び蹴りをかましてみれば。

 相手は吹っ飛び、部屋の隅に転がったのだが……ヤバイ、普通に起き上がって笑ってる。


「はぁぁ、元気良いね君。良いよ、そう言う子をイジメるのも俺結構好きなんだよね」


 ニヤニヤと嫌な微笑みを浮かべる相手は、Redo端末を取り出した。

 そして承認制の“決闘”の誘いが。

 あぁ、くそ。

 結局そう言う事なのか。


「私が相手してあげる。だから、巧君には手を出さないで」


「いいよぉ? まぁ、俺たちに勝てたら、だけどね?」


 それだけ会話してからRedoにログインしてみれば。

 おかしい、さっきは四人いたはずなのに今では二人しかいない。

 やられた、こちらから“強襲”を掛けるべきだったのに。

 相手の誘いに乗った形で誘導されてしまった。

 もっと言うなら、彼等の鎧には見覚えがある。


「あと二人は……?」


「何も全員で勝負する程の相手じゃ無いし、これで十分でしょ」


 未だ軽い調子で笑う相手に対し、此方は奥歯を噛みしめた。

 リアルとRedoで分断されてしまったのもそうだが、彼等の鎧を見た瞬間カッとお腹の中が熱くなった気がする。

 だって、コイツ等……。


「私は、アンタ達を見た事がある。霧島茜を殺したのは、アンタ達だよね……」


「キリシマ……あー? えーっと?」


「リアル割れした女子高生。友人に助けを求め、四対一で長時間なぶり殺しにあった」


「あー! 思い出したわ! あれだろ? 全然戦闘能力無いクソ雑魚! 友達に助けを求めても良いよって言ったら、マジで誰かに助けを求め始めてさ。俺等も楽しんだ後だったから、どうでも良かったんだけど。本当に新人の救援が来た稀な例! もしかして、その時来たのが君だったり――」


「死ねぇぇ!」


 思い切り、踏み込んだ。

 コイツ等だけは、生かしておいたら駄目だ。


 ※※※


『たっくん! 起きて! たっ――』


「お、fortの端末発見。手間が省けたね、はいはいちょっと静かにしよっかぁ」


「もっとリアルとRedoを上手く使わないと、まだまだだねぇ~」


 仲間と共にそんな会話をしながら、眠っている子供に向けてコンバートした拳銃を突きつける。

 これで終わり、引き金を引けばお仕事終了。

 fortはいらないって言ってたし、“向こう側”で戦艦を作られたら面倒だ。

 プレイヤー同士の犯罪はRedoが隠蔽してくれるし、何かあってもQueenが尻拭いしてくれる。

 だからこそ、いつも通り。

 そんな事を思いながら、引き金に力を入れた瞬間。

 手に持っていた拳銃を、誰かの足が蹴り飛ばした。


「お前等がどうしようもないクズだって事は分かった」


 室内から、急に男の声が聞こえた。

 さっきまでは居なかった筈だ。

 この部屋には、さっきの女とガキが一人。

 だからこそこっちはさっさと片付けて、“向こう側”へ入る筈だったのに。


「俺も覚悟を決めたよ。お前等みたいなのは、“死なないと”直らない病気なんだな。馬鹿に付ける薬は何とやらって事だ」


「何だおっさん! てめぇ俺達が誰か分かってんのか!?」


「知らないよ。だからこそ、“対処”させてもらう」


「あぁ!? 何を偉そうに――」


 オラオラと詰め寄っていく仲間が急に吹っ飛んで来て、此方の真横を通り過ぎた。

 相手はただ、拳を真正面に放っただけだと言うのに。


「Redoプレイヤー同士の犯罪行為は隠蔽されるんだったよな? なら、暴力事件の一つくらい起こしても問題はない。リアルの方でやりあうか?」


「は、ハハハ……アンタ、何者だよ。リアルでもその怪力って、流石におかしいだろ」


 引きつった笑みを向けつつ、此方に迫ってくる男に声を掛けたが。

 彼は無言のまま端末を取り出し、此方に“強襲”を掛けて来た。

 そして俺達二人も、Redoの世界に送り込まれてみれば。


「ガァァァァ!」


 目の前では、黒い獣が咆哮を上げていた。

 資料には目を通している、だからこそ間違いない。

 単なる物理特化、対処しやすいはずの賞金首。

 そしてescapeの捨て駒とされていた存在、黒獣。

 渡された情報だけなら、確かに俺達でも対処出来ると思ったんだ。

 これまでにも賞金首を相手にした事はある、そして特殊型じゃない限りは勝利を収める事だって不可能ではない。

 筈だったのに。


「あぁ、マジか。どうしてこんな奴を警戒しなかったのか……Queenは現場に立たないから判断基準もガバガバなんだよ……」


 なんて事を言っている内に相手は俺の横を通り過ぎて、先程吹っ飛ばされた仲間の顔面に蹴りを入れた。

 まだ戦闘準備が整っていない奴を先に潰すのは普通の行動だ。

 だがたったそれだけの行動で、一人死んだ。

 文字通り“突き刺さった”のだ。

 兜の顔面から向こう側までつま先に付いた爪が貫通している。


「脆いなぁオイ、これで殲滅目的の派遣部隊名乗ってんのか?」


 勘弁してくれよ、Queen。

 そんな事を思い浮かべている内に、相手は此方に向かって飛び掛かって来るのであった。

 女王様、最悪だぜ。

 特異性がないからと過小評価したコイツは、どう考えてもそこらの賞金首より厄介だよ。

 もしかして俺等、コイツを調べる為に捨て駒にされた?


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