第111話 判断と役目
「……あれ?」
ふと目を覚ますと、寝室には巧君の姿しか無かった。
今日は大部屋を借りたから、大人組二人も居ないとおかしい筈なんだけど。
まさかまだ飲んでいるのだろうか? 何てことを思って隣の部屋の襖を開いてみれば……見事に真っ暗。
「えぇぇ……もしかして、二人で飲みに行ったりしてる? 唐沢さんだって、まだ完治しているって訳じゃないのに」
ボヤキながらリズを取り出し、二人の状態を確認してみれば。
どうやらログインしている、という訳ではないらしい。
戦闘に巻き込まれたとか、唐沢さんの“夜勤”が発生したという事でも無い様だ。
であれば、本当に夜遊びに行ってしまったのだろうか?
「リズ、二人は?」
『正確な情報は掴めません、向こうにはescapeが居ますからね。私の能力では正しい位置を探知する事は不可能かと』
「ログインした履歴とかは……無いんだよね? あとはプレイヤーを近くで検知したとか」
『ありません。結構街外れまで来ましたからね、人が少ない分脅威が少ないのかと』
リズの言葉にホッと胸を撫で下ろしてから、部屋の灯りを付けた。
巧君は起きそうに無いし、二人が居ないのなら何かあった時は私がすぐ戦える様にしておかないと。
なんて事を思いながら、スマホとRedo端末をテーブルに置いてみれば。
『強化、しておきますか? レイドモンスターを倒したおこぼれも頂きましたし』
「そう、だね。私も私で、役に立てる所を伸ばしておかないと」
自らのアバターをチェックしてみれば、そこには真っ白い鎧が表示される。
Redoは、本性を曝け出すゲームだなんて言われているのに。
私に与えられたこの鎧には、どんな意味があるのだろう?
純白とも言える白、私はこんなに綺麗な心の持ち主じゃない。
サボり癖だってあるし、面倒事は避けたい、逃げたいっていつも思っている様な怠け者。
そして仲間達の様に戦えるかと聞かれれば、多分私には無理だ。
未だ覚悟も決まらない甘い思考回路を持っているし、覚悟を決めたなんて豪語しても誰かを“殺せるか”と聞かれれば……正直分からない。
どこまでも中途半端で、大人組の様に自らの意思で何かを決定する判断が出来ない子供。
多分巧君の方が、“そう言う時”の判断も早いくらいだろう。
それくらいに、中途半端なのだ。
「私は……何をすれば、皆の役に立てるのかな。この先、生きて行く為の能力って……なんだろうね」
『さぁ、どうですかね。生きて行くと言う意味では、千差万別です。しかし貴女の鎧だけを見れば、間違いなくスピード特化。万能型ではなく、一つを特出した方が役には立てるのかと。今更色々弄った所で、皆様には追い付けませんので』
「だよね。私の取り得って、“速さ”だけだし」
という事で、スピードの項目にポイントを割り振っていく。
以前
紗月と戦う前までは、防御が足りない足りないって嘆いていた筈なのに、今ではそっちよりも攻撃力が欲しい。
だからこそ攻撃の項目にも少々振り分けてみたが、リズが止めて来なかった所を見ると間違った選択では無かったみたいだ。
なんて、思ってしまっている時点で駄目なのだろう。
これは私の鎧で、戦うのは私なのだから。
誰かの意見を、正しいと言ってくれるのを待っている時点で不正解。
今まで散々戦って来たんだ、いい加減自らの選択に責任を持てと自分で言いたくなってしまうが。
どうしても、不安になってしまうのだ。
自身の判断に、私が一番自信を持てない。
『適用して……よろしいですか?』
「……うん、大丈夫な筈。私の目的はあくまでも“勝つ”事、“殺す”事じゃない。それに、皆をサポート出来る能力を考えると……コレしかないかなって」
『了解しました。ポイントを使用します』
リズの声に頷いてから、大きくため息を溢して座椅子に体重を預けた。
この瞬間だけは、本当に疲れる。
ポイントを振ってしまったら、後から修正は出来ないし。
それにこのポイントは、ほとんどが黒獣とescapeが稼いで来てくれたモノなのだ。
一つとして無駄には出来ない。
全ては彼等と共に戦える様にする為に、足を引っ張らない為に。
そう考えると、私の判断が間違っていないのか何度も思考してしまうのだ。
結局正しい答えというものは見つからないが、それでも私なりに納得出来る数字にはなったと思う。
「はぁぁぁ……私がもう少し“まともな”プレイヤーだったら、こんなに考え込む事は無かったんだろうけど」
ハハハッと乾いた笑い声を溢してみれば、リズは真剣な言葉を返して来た。
普段よりずっと、真面目な雰囲気で。
『否定させて頂きます、貴女は“まとも”なプレイヤーだと断言します。だからこそここまで悩み、思考し、仲間の為にと自らを変えようとしている。おかしいのは貴女ではなく、周囲だと言う事を自覚して下さい。マスターはこんなゲームに参加しているのにも関わらず、人として非常に正しい行動と思考回路に近いと思われます』
「それがこのゲームにおいては“枷”になってる、それは間違いないんだけどね……」
『そこまで変わりたいと、貴女は思っていますか?』
「ううん、全然」
『なら、それで良いんだと思います』
ホント、リズには頭が上がらないや。
なんというか、Redoの端末って不思議だ。
それぞれ性格が違うのはすぐに分かるし、結構キツイ事も言ったり冗談さえも言ったりするけど。
でもそれは、“その人”が求めている相手を形作ったかの様。
黒獣に対しての“リユ”。
まるでストッパーが無い相手に制限を無理やりかけるかのような、自己判断で行動を起こす。
なおかつ彼の空気を打ち砕く様な、明るい雰囲気で冗談を言ったりもする。
傍から見ていると、本当に“相棒”って感じだ。
次にescapeに対しての“ゴースト”。
あまり喋っている所に遭遇した事は無いけど、話を聞く限り口数は少なくても彼の特徴にあった能力で協力してくれるらしい。
だったらソレは、escapeとしては頼もしい“仲間”に他ならないのだろう。
彼の性格から見るに、今までパーティとか組んだ事無さそうだし。
きっと唯一信頼が置ける相方として存在しているのだろう。
最後にfortと“アリス”。
この二人は、非常に分かりやすい。
前提が“お母さん”によって壊されてしまった関係ではあるのだが、きっと巧君は助けてくれる存在を求めたのだろう。
だからこそ、アリスはあそこまで巧君に対して過保護な言葉を紡ぐ。
優しくて、いつだって心配してくれる様な“保護者”の様な存在。
そして、私のとっての“リズ”は。
「ちゃんと叱ってくれる“友達”、が欲しかったのか。私は」
『なんですか急に、気持ち悪いですね。むしろ貴女は叱らないといけない事しか無いと思うのですが?』
「あはは、そだね。ごめんねリズ、いつもありがと」
『だから気持ち悪いですってば』
そんな会話を続けながら、私は大人組の帰りを待つ事にしたのであった。
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