四章

第105話 迷子


「なぁ、何でここまでこっちを探知出来るプレイヤーと、そうでないのが分かれるんだ?」


『物凄く簡単に言うね。ネットで検索に引っかからない様にする方法って聞いた事あるかい? ある種のタグみたいなものだ。唐沢さんが何かしら検索したとして、ソレに引っかからない様に相手が設定を行ったとしよう』


「つまり、簡単だけどクソ面倒臭い話だって事は分かった」


『その上で、この近くの駅前居酒屋を調べた時、普通では見つからない。しかし現地に赴き、店の名前で検索するとヒットする訳だ。つまり、それがサーチ回避。違和感を覚えて初めて、此方からアクセスしようとする手段が見つかる訳だね』


「わかった、スマン。つまり気にならなければいちいち気にしている方が面倒だって事だよな? そんでもって、そのサーチ回避を使っている俺等に関しては“違和感”を覚えさせる行動をしない限り、相手はわざわざ検索しないって言いたいんだな? わかった、納得した。俺に責任がある事も理解した」


 思い切り溜息を吐きながら、どことも知れないビルの屋上で端末を耳に当てていた。

 ここ、どこよ。


『現在地すら分からず移動を始めようとしているなら、案内するから早めに戻って来てくれ。また絡まれたくは無いだろう?』


「ヘイescape。帰り道、ナビゲート」


『ハイ、ワカリマシタ。案内を開始します、現地の交通ルールに従って――』


「頼む、変な所でノッて来るな……疲れてるんだよ」


『まさか旅先で連戦連夜になるとはね。アンタマジで運無さ過ぎるだろ、ちょっと買い出しに行っただけなのに、探知阻害があっても絶対勝負を挑まれるとか。どんな確率? プレイヤーホイホイ?』


「言うな、本当に……こっちは今日のホテルの場所すら覚えてないってのに……」


 大きなため息を溢すescapeは、今頃ビジネスホテルでゆっくりと過ごしているのだろう。

 同時に、理沙さんと巧君も。

 後者二人に関しては、本当にゆっくりしてくれと言いたくなってしまう訳だが。

 おかしいだろ、今の状況。

 なんで俺ばかり絡まれる。

 チラッと視線があった相手からは勝負を申し込まれ、今回みたいに外出すればそこら中から“強襲”が仕掛けられる。

 いやおかしいだろ、すぐそこのコンビニに行くだけでも敵が湧くって。

 以前住んでいた所では、こんなにも簡単に遭遇しなかったのに。

 しかも今回なんか、ホテルから出た瞬間だぞ。

 もしかしてアレか? 相手の関係者に顔を知られたとか何だと色々あったが。

 すでに俺の顔写真は全国ネットに乗ってたりするんだろうか?

 だからこそ、ここまで絡まれるのかと本気で心配してしまったのだが。


『まぁ、その可能性もあるね。こっちでも周囲のプレイヤーと何か関わりがあったのか調べてみるよ。アンタの運が悪すぎる可能性も否定できないけど』


「言うなよ! そう言う事言うんじゃないよ! ホテル泊ってるのに宿泊してないよ俺!」


『夜勤だとでも思うしかないね。それにホテルの近くで戦闘を申し込まれたなら、また場所を変えないと』


「あぁぁ……面倒くせぇぇ!」


 叫びつつも、朝日が眩しい屋上で身悶えた。

 Queenクイーンとやらの元へと攻め込む決意をした俺達。

 だというのに未だにその日その日のホテル暮らしを繰り返し、こうして俺は現地のプレイヤーに絡まれる。

 勘弁してくれ、頼むから。

 こういうのが嫌で、俺達の関係者を巻き込むのが嫌で大元を潰そうって話になった筈なのに。

 未だやっている事は前と変わらず。

 その辺に居るプレイヤーを狩って、ポイントにするばかり。

 むしろ頻度としては前より酷い。

 他所の地域に行くと、ここまで相手から攻め込んで来るのかと勉強にはなったが。

 状況も、質も違うプレイヤー達。

 あぁぁ……面倒クセェ。


『この地域に他所の賞金首が来た。とかの情報を元に、地元民が盛り上がっているのかもねぇ』


「ハッキリ言って迷惑以外の何者でも無いな、俺はマスコットキャラクターになった覚えはないぞ」


『だがしかし、そうさせてしまうのが“賞金首”って名称な訳だ。改めて実感したかい? 腕に自信があれば、挑む連中は五万といるさ。“コイツには勝てない”と周囲が認識するまで、多分続くよ』


 乾いた笑い声を上げるescapeに対し、ヒクヒクと口元が引き攣る訳だが。

 確かに、自らの縄張りに美味しい獲物が訪れたのだ。

 狙おうとするプレイヤーは多いだろう。

 だからこそ、俺の現状も分かる。

 更に言うなら、仲間達に牙を向けず俺に注目してくれるのはむしろありがたいとも言えるだろう。

 が、しかし。

 確かな目的があってこの地に訪れている以上……それは、邪魔にしかならない。

 あぁ……面倒クセェ……なんて、そんな感想ばかり残してしまいそうになるが。


『マスター、逆に考えましょう! 雑魚が寄ってくる分、ポイントとスキルが稼げます。だから、稼ぎ時ですよ! メインストーリーばかり追って、レベリングを怠ると痛い目に会います! だから今こそ、レベル上げのタイミングなんですよ!』


 リユの声を聞いてから、思考が冷静さを取り戻した。

 まぁそれもそうか、標的ばかりを意識して足元をすくわれたのでは元も子もない。

 なら、今から俺達の状態を見直すべきだと判断出来るのだが。


「……ふぅぅ。すまん、escape。皆は無事か?」


『あぁ、呑気に寝入っているみたいだ。昨夜の映画が随分と面白かったみたいでね、昼頃までは起きないじゃないかな』


 彼の声を聞きながら、安堵のため息を溢した。

 つもりだったのだが。


「はあぁぁぁ……」


『一人で働いて、他の面々が休んでばかりで不満って所かな?』


「……いや、すまない。そういうつもりじゃないんだが、疲れてるのかな。何かため息しか出ない」


 頭を振ってそう答えていれば、相手からも盛大なため息が聞こえて来た。


『今日はもう諦めて連泊にするかい? そしたら酒が飲めるよ』


「いや、移動を先にしよう。俺が寝てる間にホテル周辺に敵が集まって来るのは不味い。この状況じゃ、既に宿泊先が割れていると考えた方が良いんだろ?」


『すまないね、苦労を掛ける』


 何を改まって、今更。

 思わず乾いた笑い声が漏れてしまったが、それでも彼の声は止まらず。


『Queenの方は近付けば近づく程疑問が湧くってのが正直な所かな、だからもう少しこんな毎日になると思う』


「そか、了解。こっちの……というか俺の絡んで来る奴等の事も追加で調べるんだろ? お前こそあんまり無理すんなよ?」


『ハッハッハ、流石はザ・社会人。大人だねぇ。宿泊先を移したら、そこで一杯やろう。俺が奢るよ』


 なんだか最近、こんな事ばかりやっている気がする。

 以前では考えられない毎日であるのは間違いないが、それでも。

 酒の席に気軽に誘い合える友人ってのは良いモノだ。


「そりゃ有難いね、んじゃナビ頼むわ」


『はいはい、迷子の迷子の黒獣を、まずは家に送り届けないとね。手が掛かる子供が増えた気分だよ』


 相変らず、口は悪いけど。

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