第103話 旅立ち、しかし運転手は一人
「おいescape、引っ越しの話はどうなったんだ」
「仕方ないじゃないか、相手が相手なんだから。適当に住所変えた所で、近くじゃ見つかるのがオチだよ。そしたらまた引っ越しを繰り返すの? 面倒くさくない?」
「だからって、相手の元に直接乗り込んで潰すって……なんか映画のギャングみたいですね……」
「唐沢さん! あれスカイツリーですか!? 高速道路からでも見えるんですね!」
現在、キャンピングカーで高速道路を移動中。
目的も理解したし、移動手段となる足もescapeに用意してもらっているので、あまりデカい口は叩けないが。
一つだけ言わせて頂こう。
なんで運転出来るのが俺だけなんだよ!?
いや、大葉さんだけは原付のみ運転出来るらしいが。
おかしいだろ! 皆揃って社会的にドロップアウト決めておいて、なんだこの情けない状況!
そもそもescapeはこんな車買っておいて、免許無しとはどういう事だ。
相手方の会社が聳え立っている所まで、それなりに掛かるんだが?
しかもRedoの事もあって警戒して進む為、結構な日数プランが組まれているんだが?
その間ずっと俺が運転するの? マジで?
更に言うなら、こんなデカい車を?
「唐沢さん、頼むから事故らないでくれよ? Redo関係なく、全員死んじゃうから。安全運転でよろしく」
「うるっさいなマジで! 運転全部他人にやらせて良くそんな事言えるなお前!」
「運転代わろうか? ゲームなら全国狙える腕前だよ? 多分実車の運転も結構イケると思うんだ」
「絶対ハンドル握らないで下さいお願いします! お前みたいな思考の奴が事故を起こすんだよ!」
ウガァ! と吠えながら首都高を走っていれば、助手席に座った巧君はテンションがうなぎのぼり。
「凄く昔に、お父さんと色々旅行には行ったんですけど……凄いですね! 関東って! 高速道路も久々ですけど、色々変わってて面白いです!」
「うん、いっぱい見ておくと良いよ。それから……巧君はアレかな。船が好きって言うのは知ってるけど、車とかはあんまり興味ないのかな」
「車も好きです! というか操作出来る乗り物は基本好きです!」
「おぉぉ……まさに男の子」
助手席に座ったのが、巧君で良かった。
理沙さんだったら、ちょっと会話に困ってしまうし。
escapeだった場合、ずっとさっきみたいな罵詈雑言が飛び交っていた気がする。
「ちなみに、特殊車両って車検が一年に一回だって聞いた事があるんですけど……こういう車もそうなんでしょうか?」
「あぁ~いや、キャンピングカーは違ったかな? タクシーとか、バスなんかの車両がそうだった気がするな。後は特殊改造車とかもって話は聞いた事があるけど……どうなんだろう?」
「つまり仕事として命を預かる車は普通より厳しいって事ですかね」
「かな? 俺もそこまで詳しい訳ではないんだけど。でも昔車の改造とかも好きだった頃があってね、色々といじくり回したモンだよ」
「マニュアル車って乗った事あります!? アレちょっと興味あるんですよ!」
「もちろんだとも、巧君。今じゃオートマばっかりだもんなぁ、若い頃は新車でも普通にマニュアルとオートマ、好きに選べたもんだけど――」
「お楽しみの所すみません、私も仲間に入れて下さい。escapeがnagumoの端末の解析に入っちゃったので……マジで暇です」
と言う事で、理沙さんも此方に顔を出し。
俺達は三人で話しながらのんびりと高速道路を突っ走っていくのであった。
「東京を出たら、まずは下道に下りて宿に向かうって事で良いんでしたっけ。すみません唐沢さん、運転ずっと任せてしまって。原付なら運転出来るんですけど、今の状況じゃ意味無いですからね……」
「あ、あはは。まぁそこは適材適所って事で……ちなみに今日の宿泊先って、ビジネスホテルだっけ?」
「あ、僕が予定表確認しますね。えぇ~っと、そうみたいですね。一泊したら、すぐに出て次の目的地に向かって進むみたいです。とはいえプレイヤーに絡まれる事もあるでしょうから、それなりに時間を掛けながら目立たない様に移動するみたいですけど」
まぁ確かに、前回みたいに満身創痍の状態で現地のプレイヤーに絡まれたら犠牲が出る可能性があるからな。
それに今回はかなりの相手を正面から叩き潰すつもりの様だし。
だからこそ、挑むにも色々と準備が要るのだろう。
「まったく、忙しい遠征もあったもんだな」
「ちなみに黒獣、今日泊まるビジネスホテルは結構豪華だ。本格的なサウナがあるよ」
何かVRゴーグルみたいなのを装備したescapeが、後ろからそんな事を言って来る訳だが。
サウナ、サウナか……なるほど。
俺も転勤だったり出張だったりは散々経験したからな。
そういう仕事の楽しみ方も熟知しているつもりだ。
とりわけホテルの設備に関しては、宿泊料だけで全部使って問題ないってのがほとんど。
つまり。
「あぁぁ~ちょっと楽しみになって来ちゃったぞぉ」
「私、昔から金欠生活だったので……すみません、こんな状況ですけど結構今ワクワクしてます。それどころじゃないって分かっているんですけど、旅行とか修学旅行以外では初めてで……」
「僕も楽しみです! 海外にも行った事はありますけど、親しい人とどこかに行くって本当に久しぶりなので!」
みんな揃って、ウキウキした状態のまま高速道路を降りていくのであった。
あぁもう、Redoとか関係なしに旅行したくなって来てしまった。
分かってるよ、現状は分かってるんだけどね?
それでも、こんな風にワクワクするのは久し振りなんだ。
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