第102話 全てを捨てて、取り戻せ


『まさかこんな事態になるとはね、正直驚きよ』


「予想していなかった、とでも言うつもりかい?」


『貴方が私の思っていたより、ずっと青臭い思考を持ち合わせていると理解出来たわ』


「随分と煽って来るじゃないか、Queenクイーン


『立場のある人間とは思えない行動を取っているのは貴方の方でしょう? escapeエスケープ


「それこそお互い様だろう?」


 相も変わらず面倒なメッセージが送られて来る訳だが、まぁ言いたい事は分かる。

 その後調べた結果、どうやら一応相手方は黒獣に協力を求める姿勢ではあったらしい。

 些か行動が暴力団組織みたいなやり方だったので、黒獣の機嫌を損ねた結果にはなってしまったが。

 そして賞金首“rabbitラビット”。

 アイツが黒獣に勝負を挑んだのは、完全にイレギュラー。

 若者の暴走って事以外なんでもない様だ。

 まぁそれらの不手際が発生し、対立するような立場に立ってしまった。

 これでもしも、俺が相手の様に社長だ何だという立場にあったり。

 仲間の事を代わりの利く駒として扱っていたのなら、事態は穏便に済んだのだろうが。

 事実確認の連絡を入れ、向こうから謝罪と謝礼を受け取る。

 改めて仲間達に連絡し、共同戦線さえ構築出来たかもしれない。

 しかし、それは成されなかった。

 結局の所、双方の認識と意識の相違が原因と言う訳だ。

 勧善懲悪という言葉がある。

 本来なら悪役を懲らしめる程度の言葉の意味ではあるが、現代では悪を絶対に許さず必ず叩き潰すという意味で使われる事が多い。

 今回の俺達の行動は、ソレに近いのだろう。

 相手の言う様に、あまりにも青臭く感情的な結論を導き出した。

 現実社会で言うのなら本当にあり得ない、“損でしかない”行動を取った訳だ。

 多くの人々が関わる環境を支配している人間なら、個人の感情など二の次。

 RISAを差し出せと言って来たのも、ある意味“見せしめ”に近いモノだったのだろう。

 仲間ばかり狩られている状態では、部下に対して示しが付かない。

 だからこそお互いに傷を負いつつ、協力して最大の結果を残す。

 全体にとってはレイドモンスターの討伐。

 俺にとってはRedoの秘密を知る鍵となる、nagumoナグモの端末を。

 そして彼女にとっては、俺と言う存在と関わるきっかけを作る為のイベント。

 それら全てを、此方の陣営だけで叩き潰してしまった訳だ。

 まぁ、普通怒るよね。


「それで? 今後はどうするつもりなのか。また何か別の物を差し出すかい? それとも俺を仲間に付けるのは諦める?」


 今回の俺の選択は、全体で見れば敵を作っただけに過ぎない。

 しかも、かなり多くの。

 だからこそ間違いだったと断言出来るだろう。

 しかしながら、気分としては最高だが。

 どうやら俺の性格は、自分で思っているよりもずっと悪いらしい。

 お高く留まったプレイヤーの鼻っ面を引っ叩くのが、これ程までに楽しいと感じるなんて思わなかった。

 ホラ、お前の駒が盤面から消えたぞ? 次の一手には何を用意する?


『こちらも“それなりの態度”で挑ませて頂く事にしたわ。まずは大葉理沙、彼女の身辺調査は終わっている。だからこそ警告するわ、被害を出したくなければ大人しく私に従いなさい。このまま行けば、貴方の駒が全て居なくなるわよ』


「残念。大葉理沙の関係者は親戚のみ、両親は既に他界している。そっちには色々と手を回してね、二十四時間態勢で警察に張り込んでもらったよ。彼等はRedoプレイヤーじゃない、リアルの方で手を出せば困るのは君の方かもね?」


『それだけじゃ無いわ、彼女の友人達だって人質に取れるのよ? それに黒獣、彼の顔だって特定されている。関係者を割り出すのだって、時間の問題――』


「行動が遅いんだよ、女王様」


 その程度の事、対策していないと思っているのか?

 大葉理沙の友人に関してだって学校側やら警察やら、いくらでも手の打ち様はある。

 未だRedoからプレイヤー以外を巻き込んだ場合のペナルティが公表されていない以上、高い地位に居る者程下手な行動に移せない。

 そのデメリットを背負ってでもリアルで潰さなければいけないプレイヤー、それは此方の面々で言えば黒獣以外にあり得ないだろう。

 今回の一件で、随分と彼の警戒レベルも跳ね上がった筈。

 そして、彼に関して言えば。


「そっちの配下は、一人の顔写真から何処まで特定できる? 相手には犯罪履歴すらない、警察のデータバンクを漁ろうと徒労に終わるだろうね。多分地道に人を使って行動や人脈を探ろうとしているんだろうけど……全部無駄だよ。彼はもう、“リアル”の方の顔を捨てた」


『どう言う事かしら? 言っておくけど、今度は貴方達を調べ上げる為のチームを組んでそちらに――』


 ここまで言っても分からないとは、おめでたい支配者も居たものだ。

 まぁ、それも仕方ないか。

 地位があり、立場があり。

 それを捨てると言う選択肢が取れない人間程、“リアル”に固着する。

 しかし俺達のパーティにはそれが無い。

 俺は元々リアルを捨てている様なモノだし、有住巧に関してはQueenの手によってリアルを壊されている。

 久しぶりにちゃんとした生活を送れる様になった矢先、こんな事になったのは申し訳ないが。

 彼は二つ返事でOKしてくれた。

 更には問題の大葉理沙。

 彼女もまた、自らの存在が関わった人達を巻き込むくらいならと。

 そう言って、リアルから一度姿を消す事を決断した。

 なに、難しい事じゃない。

 俺達のリアルに悪影響を及ぼす奴等を、全て狩り尽くしてから戻ってくれば良いだけだ。

 だからこそ。


「わざわざご足労頂く必要は無い、と言う事だよQueen。女王陛下に謁見する為、此方から足を延ばそうと決めたって訳さ」


『……何ですって?』


「首を洗って待っておけと言っている、萩原霞はぎわらかすみ社長。俺達のチームは、アンタを狩る事したよ。お前は俺達の生活を乱し過ぎた、だから徹底的に潰す事にしたんだ」


 それだけ言ってからチャット画面を閉じた。

 丁度そのタイミングで、ガレージの扉が開かれ。


「……まさか、こんな所で生活してるのか? escape」


「色々便利なんだよ? いらっしゃい、黒獣。それから、学生のお二人さんも」


 入って来たのは、良く知っている三人組。

 唐沢歩、大葉理沙。

 そして有住巧。

 さぁ、Redoの為にリアルを捨てた愚か者達が揃った。

 反撃の狼煙を上げようじゃないか。

 Queenという踏み台を使って、一気に事態を動かそう。

 楽しい楽しい遠征と、たった四人での城落としの始まりだ。

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