第99話 ハズレの品物
あぁ、意識がボヤける。
俺は今何を食らった?
確か相手が新しいスキルを使って、それから周りがやけに光ってから……。
『マスター! マスター生きてますか!?』
リユの声と共に、徐々に視界が戻って来た。
頭を振って、正面に視線を戻してみれば。
「うあぁぁぁぁ!」
白兎が、とんでもない速度で相手の攻撃を防いでいた。
ただの防御って訳じゃない、攻撃に対して攻撃で対処している。
相手の一撃に対して、何十と言う攻撃を繰り出し。
必死で攻撃を逸らす為の攻撃を放っていた。
しかも、連撃を繰り出して来る相手の攻撃を何度も凌いでいる。
まさかあの方法でスキルも防いだのか?
馬鹿だろ、コイツ。
普通そんな事はしない。
防御ってのは防ぐか凌ぐ、所謂パリィってヤツが常套手段。
それが出来ないのなら、避けるのが一番効率が良い筈
だというのに、コイツは攻撃に対して連撃で止めようとしていた。
『マスター! 十五秒!』
アイツの端末の声が聞こえた。
nagumoのスキル、完全切断とも言える攻撃に対し。
例え刃がボロボロになろうと、たった一秒そこらの間に果てしない攻撃を繰り広げている馬鹿がいる。
何故避けない、お前なら避けられるだろうに。
何故逃げない、コイツなら逃げ足だけは俺以上だろうに。
あぁ、そうか。
この俺が、白兎の真後ろで気を失っていたからか。
つまりはまぁ。
この雑魚に、助けられたって訳だ。
あぁ……なるほど。
これはまた、イライラさせてくれるじゃねぇか。
こんな雑魚に、“借り”を作っちまった。
「ガァァァ!」
白兎の背後から飛び出して、思い切り相手の刀の腹を殴り上げた。
横薙ぎに払おうとしていた刀の軌道が逸れ、上空に向かって“ブレた”刃が振り上げられる。
「スキルの一撃も、刃にさえ触れなければ何かある訳じゃないんだな。これなら、十五秒毎に逃げる必要は無さそうだ」
但し、とんでもない反射速度で対応しないといけないのは確定だが。
しかし“触れるのも不味い”と考えていたスキルに対し、白兎が攻撃を叩きつけている姿を見て理解した。
相手の大技を一つ、攻略したって訳だ。
「退け白兎! 正面は俺がやる!」
「ぶ、無事なんですか!?」
「これくらいで死ぬなら賞金首やってねぇよ!」
「マジで化け物!」
白兎の叫びを聞きながらも、相手に向かって拳を叩きつける。
だが相手もやはり正面からぶつかるだけでは、此方の攻撃をしっかりと防いでくる御様子。
やはり、隙がいる。
さっき白兎が飛び込んで来たみたいな、決定的な隙が。
「手を貸せ! 兎!」
叫んでみれば、アイツは既に相手の背後に回り込んでおり。
ボロボロになった白い剣を構えている。
「分かってますよ! 何すれば良いですか!?」
「隙を作れ! お前程度の攻撃でも相手は防御してくれるらしいからな!」
ぶん殴り合っている俺達を他所に、白兎がタイミングを見計らって攻撃を仕掛け始めた。
結果、相手は背後から迫って来る攻撃にさえ反応し始め。
此方から注意が削がれる瞬間が発生する。
ハッ、何が狩人だ。
何がレイドモンスターだ。
結局はただのプレイヤーじゃねぇか、似た様な実力で二対一なら手が余るってか。
ということで、がら空きになった背中に思い切り拳を叩き込んでみれば。
“入った”、それもかなり良い一撃が。
鎧は歪み、普通の人間なら内臓さえ潰れていてもおかしくない程に拳がめり込んだ。
相手は血を吐き、再び此方に視線を向けて来るが。
「雷……稲妻」
大ダメージを食らった時の反撃手段がソレって事か?
再び空がゴロゴロと鳴り始め、機嫌悪そうに青い光を放ち始めるが。
「リユ! 避雷針!」
『ありましたねぇそんなの! 初回のガチャハズレ景品が、ここに来て登場ですよ!』
ウチの端末が色々叫んでいる内にアイテムはコンバートされ、この掌に出現……っておい。
「でけぇよ! こんなもんどう使えってんだ!」
『初めてコンバートしたんですから仕方ないじゃないですか! 避雷針としか書かれていなければ、普通家庭用みたいなサイズを想像しますって!』
掌どころか、脇に抱える様にして出現した避雷針は。
なんというか……大型の建物とかに設置する様な馬鹿デカイ代物だった。
俺の身長よりデカい、もはや丸太を担いでいるかのようだ。
「白兎! しばらく全力で相手してろ!」
『そろそろ十五秒です! お気をつけて!』
「ひぃぃ! 出来れば早めに対処してくださぁぁい!」
相手もスキルのリキャストタイムが終わったらしく、再び“ブレる”刃を放って来た訳だが。
今回ばかりは相手に張り付いていた白兎に攻撃対象が移った。
もはや此方に背を向ける状態で斬撃を放った“nagumo”。
が、しかし。
アイツは、俺よりも速い。
だからこそ、その一撃を食らう事無く。
「あっぶなぁ!? でも、回避しました!」
その場で伏せる様にして、相手の一撃を余裕で躱しているではないか。
ったく、大したもんだ。
そんでもって。
「背中の傷は武士の恥だってなぁ!? 存分に恥じてくれやクソ侍!」
コイツの事を、NPCだなんて表現した事があった。
ある意味それは間違いではないのだろう。
人間らしい思考回路がもう少し残っていれば、これまで殴り合っていた俺に対して背中を向けるなんてあり得ない筈。
白兎の攻撃がろくに通らない事は分かり切っているのに、ヘイトが向かえばそっちに身体ごと向けてしまったのだから。
「ブチぬけぇ!」
脇に抱えたデカい避雷針を、背後からブッ刺した。
それなりに尖っていたソレは相手の背中から腹に抜け、血で汚れた切っ先は天に向かって聳え立ってみせた。
まぁ、ここまで鎧をボロボロにしていなければ、普通に弾かれていそうな強度ではあったが。
突撃槍の様な見た目の避雷針だと言うのに、普通に先端曲がってるし。
『マスター! 離れて下さい!』
「ハッ! 忙しい事だな!」
ブッ刺した避雷針をそのまま相手ごと空に向かって投げ放ち、白兎と同時に一気に距離を置いてみれば。
ズドン、と。
耳がおかしくなる程の雷鳴が周囲に響き渡った。
直撃したのは、避雷針が身体にブッ刺さっている“nagumo”。
つまり自らのスキルを自分で食らう羽目になった訳だ。
「ハハッ! 雷は高い所に落ちるってのはマジなんだな」
『め~っちゃくちゃ、無理矢理誘導した様なモノですけどね』
と言う事で、避雷針が身体を貫通した上に落雷を食らった狩人が、煙を上げながら地面に落ちて来るのであった。
ハッ、ざまぁねぇなレイドモンスター。
特技を出し惜しんでるからこう言う事になるんだよ、ボォケ。
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