第97話 気が抜ける贈り物
「チッ! 鬱陶しい!」
「流石ハ、獣。よく避ケル」
もう何度目になるのか。
侍野郎の、ブレる刃がギリギリを通り過ぎた。
あっぶねぇ、今のは首を持っていかれたかと思った程。
だが、段々分かって来た。
「十五秒ってところか?」
『此方の勘違いで無ければ、その様ですね。十五秒毎に一度、あの斬撃を繰り出して来ます。マスター、お気をつけて』
一度スキルを使ってしまえば、十五秒間は普通に殴り合える。
これが分かっただけでも良しとしよう。
その一撃を放つ時だけ、気持ち悪いくらいに反応速度が速い上に視線すら向けない。
つまり、その奥の手をいかに無駄撃ちさせるかが攻略の鍵って訳だ。
しかしながら。
「完全カウンター攻撃だな。しかも、間違いなく急所を狙って来やがる。更に鎧の方も馬鹿に出来ねぇ、適当な攻撃じゃ簡単に受けられちまう」
『あの鎧も“スクリーマー”同様、もしくはそれ以上に硬いと来ています。しかもたった十五秒でスキルを使われる上に、道具で無駄撃ちを誘発しても“手間”がとにかく多い相手。コレだけの攻撃を持ち合わせながら、実際は防御よりのステータス。厄介ですね……』
リユの言う通り、そんな事ばかりをしていてはアイテムの在庫が無くなる。
幸い白兎からいくらか道具を渡された後だから、すぐにネタ切れになる事は無いが……。
「リユ、アイツから受け取った道具で使えそうなモンはあるか?」
『あー、えーっと……ですね。まぁ、はい。マスターの力なら、投げてダメージを与えられる程度の物は……いくつか』
「なら、タイミングを見て順に出せ」
まずは挨拶代わり。
足元に転がっていたコンクリートの欠片を相手に投げつければ、侍野郎は此方を睨んだままスパッとソレを切り裂いて払い除けた。
おーおー、すげぇ切れ味だ事で。
まるで豆腐でも斬るかのように、綺麗な断面を残しているではないか。
コレに関しては、多分どんな物体でも同じような結果になるのだろう。
俺の鉄球も、あんな風に綺麗に真っ二つにされたしな。
しかし、今から十五秒間は“ソレ”が使えない。
「ジャァァ!」
そのまま相手の間合いに踏み込み、拳を叩き込んだ。
相手も反撃してくるが、ガツンッとブッ叩かれる感触はあっても切断される程ではない。
つまりこの短い時間の間だけ、俺達は同等になりぶん殴り合える訳だ。
「カカッ! 来いよ侍! 楽しもうぜ!」
思う存分拳を振るい、ガツンガツンと音がする程ブッ叩き合った後。
『マスター! 時間です!』
「チッ、癪に障るスキルだなオイ」
リユの声と同時に一旦引き、投擲ポーズをとってみれば。
右の掌に、確かな感触を覚える。
間違いなくアイテムがコンバートされた証。
だからこそ、相手に向かって思い切り投げつけてみれば。
「……おい」
『わ、私に言われましても~……ね?』
今しがた投げつけたのは鉄アレイ、しかも滅茶苦茶軽かったぞ。
もはや相手がスキルを使いながら防御してくれたのが奇跡ってレベルで、玩具みたいな重さだった気がする。
『ちなみに、2キロで~す……アハハ』
「ボォケが! そんなもんで筋トレになるか! ペットボトルでも買って来た方が早いじゃねぇか!」
『だから私に言わないで下さいよマスター! RISAさんから貰った物、こんなのばっかりなんですって!』
下らない会話を交わしつつ相手に突っ込み、再び殴り合う。
ガツンガツンと派手な音を立てながら刀と拳がぶつかり合い、両者とも一歩も引かぬまま正面から攻撃を仕掛けていれば。
『マスター!』
「あぁぁぁぁ! 面倒クセェ!」
声と同時に再び撤退、そして腕を構えてみれば。
今度ばかりは、先程よりも重量を感じる物体が掌に乗っかって来た。
それどころか、少々デカいらしく。
慌てて両手で掴み直し、バランスを保った。
『最新型の冷蔵庫です、しかも大容量。こんなのも出るんですね、Redoのガチャって』
「大当たりじゃねぇかクソッたれがぁぁ!」
そのまま相手に投げつけてみれば、バッサリと両断される大容量最新型冷蔵庫。
“表側”の奴の悲鳴が聞こえた気がしたが、今は無視だ。
あぁぁぁクソが!
俺にとってはどうでも良いのに、何故か「勿体ない」という感想が浮かんで来る。
「もう少しまともな物はねぇのかよ!」
『無いです。RISAさんのハズレは実用的な物ばかりですね』
「アイツの引き運はどうなってんだマジで!」
吠えながら突っ込み、相手の顔面に拳を叩き込んだ。
少しだけたたらを踏みながら、改めて此方に刀をぶつけて来る狩人。
この瞬間、たった十五秒だけは対等に殴り合えるっていうのに。
スキルをキャンセルする為の物品が、いちいち気を逸らしてくれる。
なんだ、なんだこの戦闘は。
今まで以上に強い相手と戦っている筈なのに、気分が削がれる。
対人戦に特化している前衛型同士で、こんなにも殴り合っていると言うのに。
冷蔵庫だの鉄アレイだの下らない物ばかり登場するのは何なんだ。
「ズアァァ!」
『マスター!』
「本当に面倒クセェェェ!」
再び十五秒。
今度は洗濯機を投げつけ、お侍さんはご丁寧に両断するのであった。
おい、なんだこれ。
RISAの奴、戻って来たらシメてやる。
お前は何故こんなものばかり引き当てる。
ガチャのハズレって言ったら、何に使えば良いかも分からない物が出て来るんじゃないのか?
なのに何故、あの白兎は新生活に必要そうな代物ばかり“ハズレ”として引き当ててやがる。
おかしいだろこんなの。
銃火器はどうした、刃物はどうした。
Redoガチャのハズレって、そう言うモノだってescapeも言ってたよな?
『後は……圧力鍋とかありますけど』
「もう良い! 保管しておけ!」
『あ、アイアイサー』
反応に困るリユの声を聞きながら、再び侍野郎に殴りかかるのであった。
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