第96話 戦艦VSメカ兎
「……クッソ!」
「いい加減しつこいんだよデカブツ!」
今相手にしている賞金首、兎のロボットと一緒に銃火器を乱射してくる女の人。
正直に言って、相性が最悪だった。
互いに周囲の金属を変形させるタイプだったらしく、このままでは消耗戦も良い所だ。
ただでさえRedoにログインするなと警告されている期間だったというのに、こんなにも目立ってしまっている。
だがこの人は、大葉さんを必要以上に狙っていた。
つまりココを通す訳にも、僕がやられる訳にもいかない。
だというのに……。
「不味い……使う兵器の差が出てる」
『た、たっくん頑張って!』
アリスから応援の声が聞こえてくるが、結構キツイ。
僕と大葉さんで作った戦艦のプラモデル。
アレのお陰で、今まで以上に強力な“戦艦”が作れる様になったのは確かだ。
構造を理解し、どう動かせば良いのかも勉強しながら作った。
その結果、機動力も攻撃速度も格段に上昇したと言えよう。
しかし今の相手と比べると一つだけ欠点があったのだ。
此方が作り上げた戦艦は、些か古いモデル。
それに対して相手は、明らかに近代的な兵器を作り上げている上に、実際には存在しないであろう小型の装備だって繰り出して来るのだ。
簡単に言うとやけに精度の高いミサイル攻撃とか、装甲を貫通しそうな威力のマシンガンとか。
どれもこれも、此方より小さい癖に威力が高い。
主砲を使えば相手にもダメージが通るかもしれないが、生憎とソレが使える距離までは離れてくれず。
中途半端の距離を保ちながら、お互いに掃射している状況。
下手に側面から大砲なんか作り出したら、その瞬間にソコを集中攻撃されて内部まで攻撃されてしまいそうな程。
コレ、本当に終らないかも。
黒獣と戦っている時を思い出すくらい、彼女の鎧は硬い。
これで近接戦も得意な相手だったら、前回の二の前になっていたかもしれない。
そして何より厄介なのが……彼女の従えているロボット兎。
もはやアレは兎なのかと聞きたくなる程、奇妙な多脚型戦車みたいになっているが。
とにかく、あっちは火力が馬鹿みたいに高いのだ。
「アリス! 僕の代わりに周囲を見て! まだ取り込んでない場所はある!?」
『お、面舵いっぱい! 結構無理な急旋回になるけど、相手より先に“呑み込める”よ!』
「了っ解!」
もはや船その物を傾ける様にして、アリスに言われた地点に進行方向を変えた。
そこには銃撃戦に巻き込まれ、ボロボロになりながらも未だ瓦礫として残っている建物が。
それらを船で踏みつぶしながら、戦艦の一部へと変換していく。
よし、これでもうしばらくは戦え――
「ちょっとナメ過ぎ、修復を優先して思いっ切り横っ腹見せるとか」
油断したつもりは無かった。
側面にも多くの銃火器を生やし、ずっと乱射していのだ。
でも確かに、僕は建物の残骸を目視する為に一瞬目を放してしまったのは事実。
多分その時に、ただ弾をばら撒いているだけだと気が付かれたのだろう。
あろうことか、ロボット兎が戦艦側面に張り付いて来たではないか。
「この勝負は金属の取り合いだって、そう思ったでしょ? 大正解~良く出来ましたぁ。でもさ、だぁれがアンタ自身は取り込めないって言った訳? お前も金属の塊だろうが、fort」
彼女の一言に、ゾッと背筋が冷えたのが分かった。
それってつまり、僕の戦艦その物を取り込もうとしているって事か?
「理解出来た? それじゃ、君の戦艦頂くね? 高圧縮されてる分、補充が楽で助かるわ」
まるで寄生するかの勢いで、ロボット兎は全身から配線を伸ばし。
更に、いとも簡単に船の装甲に端子の先っぽを突き立てて来た。
結果此方の装甲はどんどんと剥がれて行き、相手の兎が膨れ上がっていくではないか。
「くっそ! そんなの反則だろ!」
どうにか振り落とそうと船を揺らしてみたり、近くから機関銃を生やして攻撃してみたりもしたが。
全く持って効果なし。
それどころか、此方の船を吸収した分硬くなっているかの様。
コレ、本格的に不味いんじゃ……なんて、頭が真っ白になり始めた時。
『fort、寄生されている部分を全て切り放せ』
急に端末からescapeの声が聞え始め、一瞬何を言っているのか分からなかった。
しかしハッと息を飲んでから、言われた通り戦艦の一部を排除。
それと同時に、くっ付いていたロボット兎は剥がされた訳だが。
「ほんっと馬鹿だねぇfort! そんなだから見捨てられるんだよ! ホラ、横っ腹にデカい風穴が空いて、中身が丸見えだ!」
不味い、このままだと内部に攻撃が通ってしまう。
それに相手もココで決めるつもりなのか。
今まで以上に全身に武装を装備して、銃口は間違いなく先程装甲が剥がれた場所を狙っているではないか。
「いい加減くたばれ! fort!」
彼女が叫び、幾つもの銃口が火を噴こうとしたその瞬間。
「「は?」」
二人して、間抜けな声を上げてしまった。
青い光が横から照射され、先程落っこちて行ったロボット兎を呑み込んだのだ。
視線を向けてみれば……残っているのは多脚の先っぽくらい。
本体の方は融解でもしてしまったのか、未だ足の断面が赤くなる程熱せられていた。
い、今のってまさか。
「escape! 今のは一体!?」
「“
二人揃って違う名前を叫び合い、しばしの沈黙の後。
「「……え?」」
やっぱり声を合わせて、疑問符を浮かべてしまった。
いや、だって。
さっきの攻撃、タイミングからしてウチの仲間じゃ……。
「Apollo! おい返事しろ! 何処にいる!? 出て来い! お前盛大に誤射してんじゃねぇよ!」
ブチギレ気味の彼女が周囲に視線を向けながら怒鳴り散らせば、今度は相手の後ろスレスレを青い光が通り過ぎる。
その際「ヒュッ」と息を飲む声が聞こえて、相手は口を閉ざしてしまったが。
『やぁこんばんは、賞金首“
彼女と僕の端末から、escapeの声が聞えて来た。
よ、良かった……やっぱりさっきの攻撃は彼だったのか。
ここに来てもう一人ヤバイ敵が追加されたのだとしたら、本当に勝ち目がない状況だった。
此方は思わず安堵の息を溢してしまったが、逆に相手はガクガクと震え始め。
「ど、どう言う事だよ……何でApolloと同じ武器を使ってやがる。そんなふざけた兵器がいくつもあって堪るかよ……ウチの兵隊でも、ピカイチの殲滅力だってのに……」
『さっき貰ったんだよ、幸運の女神様からね』
「んな訳あるか! “
何処にいるのかも分からないescapeに対し、彼女はキョロキョロと周囲を見渡しながら怒鳴りつけるが。
また、青い閃光が隣を通り過ぎていく。
間違いなく、一撃でも当たれば即死。
初見の僕でさえそれが分かるくらいだ、元々アレが何なのか知っているらしい彼女にとっては相当な恐怖だろう。
「お前……何者だよ。まさかApolloを倒したのか? いやまさか、アイツがそう簡単にやられる訳……それにメイン武器をドロップするって、確率的にほぼありえな――」
『どうでも良いけど、今すぐログアウトして貰えないかな。詳細は、大事な大事な“お母さん”とやらに聞いてみれば良いだろう? とりあえず失せろ、俺達は今非常に忙しいんだ。小動物を相手にしている暇はない』
端末から聞えて来るescapeの声に、彼女はギリッと音がする程奥歯を噛みしめてから。
「絶対に……また挑んでやるからな。私を生きて帰す事を、後悔しやがれ」
『後悔させてみな、兎さん。再戦、待ってるよ。まぁ……俺を見つけられればだけどね?』
その会話を最後に、今回の相手はフィールドから姿を消すのであった。
なんか、最後は良く分からない感じになったけど。
「い、生き残ったぁぁ……」
もう、それしか感想が出てこなかった。
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