第95話 豪運の女神
「fort、装甲は大丈夫か?」
『何とか平気です! 常に移動しながらなら、破損より回復の方が上回ってます!』
端末から聞えて来る声に、一つ安堵の息を溢してから対物ライフルを構えた。
単純にガチャで出た、そんな理由で長年使って来た訳だが……ここ最近の相手の武装を見ていると、こんな物でも豆鉄砲に思えてしまうのだから慣れとは恐ろしい。
と言うのも。
「駄目だなこりゃ……全く歯が立たない」
相手とfortが暴れ回り、もはや一帯が大規模な戦場と化している中で。
離れた場所から狙撃を試みているのだが……何の役にも立たなかった。
おかしい、対物ライフルって普通人間が喰らったら死ぬよな?
敵の賞金首が連れているメカ兎に関しては、見た目がもはや戦車の様になっているので効かないのも分かるんだが。
プレイヤーを狙ってみても普通に弾かれたんだが?
普段ならもう少し近距離で、対戦者の手足を狙う程度だったのだが。
今回はいつもより遠距離。
更に敵プレイヤーが小柄な事もあって、“もしかしたら”という事態も考えていたのだが。
当たるには当たったが、相手はズッコケただけでそのまますぐに立ち上がったのだ。
マスコットの兎だけではなく、本人の装甲もかなり硬いと見て良さそうだ。
なんたってfortの攻撃をその身で受けても挑む姿勢を崩さないのだ、こんな普通の銃では攻撃としての意味を成さないか。
とはいえ、流石に相手もfortの主砲だけは警戒している様だが。
「参ったね。意気込んで参戦したのに、決め手が無い。もう少し攻撃系も特化させておくべきだったかな……」
俺が得意としているのは隠密、調査、電子戦。
一応ライフルも使うから、射撃補助の様なスキルは適応させているが……肝心の武器が無い、相手に通用する程強力なヤツが。
「こればっかりは、fortに任せるしかないか……」
『大丈夫です! こっちで何とかします! 絶対に近付いちゃ駄目ですよ!?』
なんて、有住巧は健気な事を言ってくれる訳だが。
流石にこの状況で見ているだけって訳にはいかないだろう。
せめてまだ建物が残っている位置に誘導するくらいはしないと……だが、相手も似た様なスキル持ち。
戦艦の補充の為に場所を移せば、今度は相手を強化する事にも繋がる。
互いにその場の瓦礫やら金属やらを取り合いながら、更に正面からぶっ放し合っている。
相手のメカ兎は、物体を取り込むときに配線を伸ばしているのは確認した。
しかも動きがまさにロボットという様な動きをしている。
だから多分、単調な命令を組み合わせてソレに従っているだけの電子制御。
スキル自体は、恐らく物体の変形の方がメインなのだろう。
と、予測を立ててみるも……いくら試しても、あの兎のプログラムに潜る事が出来ない。
まさかとは思うけど、メカ兎の核はRedo端末だったりしないだろうな?
流石にソレは無いとは思うが、ペットに指示を出しているのは端末って事もあり得るのかもしれない。
攻略の可能性があるとすれば、俺自身が準備出来るデバイスの一つでも取り込ませて、内部からクラッキングを掛ける事。
「って、それが可能なら苦労しないんだよな」
はっきり言おう、無理だ。
世界大戦か何かかと聞きたくなる程、両者とも銃弾やらミサイルやらを乱射しているのだ。
いくら姿が隠せても、そんな現場にノコノコ出て行っても数秒と保たずに巻き込まれる自信がある。
そして更に、俺の鎧“ファントム”では普通の銃弾すら防いでくれない事だろう。
うん、無理だ。
この状況では三十分生き延びてドローに持ち込んだ所で、すぐさま再戦を挑まれるのがオチだろうし。
もはや大きなため息を溢しながら腕に付いた装備を起動し、少々SFちっくな3Dモニターを表示させてみれば。
『escape! 聞えますか!?』
「うおっ!? ビックリしたぁ……」
RISAから通信が入ったかと思えば、モニターいっぱいに彼女の兜が表示された。
ゴーストめ、この状況で彼女との通信を最優先させるとは何事だ。
もしかして向こうも、何かしら緊急事態に陥ったのか?
なんて警戒しながら、次の言葉を待っていれば。
『こっちは終わりました! 貴方が言っていた通り、もう一人送り込まれた賞金首だったみたいです』
「そうか、まぁ無事で何よりだよ。黒獣は? 手が空いたなら、ちょっとコッチを手伝って欲しい状況なんだが」
Queenが対“nagumo”用に準備した賞金首、そいつの討伐に成功したらしい。
そのプレイヤーの情報は、随分と厳重に守られていた様なので苦労したが。
だが確かに、コイツなら狩人にも勝てるかもしれないと思ってしまう程の実力者だった筈。
ソイツにさえ勝った黒獣がこちら側に来てくれるのなら、まだ勝機は――
『えっと……すみません、それはちょっと厳しいです』
「と、言うと?」
まさかまた気分でどっかに獲物を求めに行った訳じゃないだろうな。
思わず彼の現在位置を調べてみれば。
彼は今、RISAのすぐ近くに居る。
『本当にごめんなさい、時間が無さそうなので重要な事だけお伝えします』
何やら緊迫した雰囲気のまま、彼女が言い放った言葉は。
『多分、“派手にやり過ぎた”んだと思います。私達の元に、“nagumo”というプレイヤーが現れました』
「なっ!? 他にプレイヤーは!? 野良の奴等が居るなら、ソイツ等に任せてすぐにログアウトしろ!」
『他にプレイヤーは……いません。フリー掲示板でも見ましたけど、アレが“レイドモンスター”なんですよね? だとしたら、今私達が引けば多分次に向かう先は……』
最悪だ。
もしもこの場で黒獣がログアウトした場合、一番派手に暴れている戦場はココ以外ありない。
つまり次に狙われるとしたら、fortがターゲットになってしまうという事だ。
『どうにか、時間を稼ぎますから。そっちが終わったら助けに来てくれると……その、嬉しいです』
「生憎と、こっちも同じ台詞が吐きたい状況なんだけどね……」
不味い不味い不味い、最悪のタイミングだ。
このままでは全滅だってあり得るぞ。
そもそも今回の戦場は面倒事が多過ぎるんだ。
大人数で攻めて来る上、電子戦に長けたプレイヤーを織り交ぜて来る“Queen”。
こっちのサーチに一切引っかからない異例のプレイヤー“nagumo”。
良くない相手と同時にかち合ってしまったのだ。
本来ならもう少し俺が上手く舵を取れれば良かったのだが……今更言っても泣き言にしかならない。
だったら、この状況をどうにか覆す方法を考える方が先――
『それからもう一つ、先程戦った相手のドロップ品なんですけど……私には使い方も分からないので、貴方に託します。コレを使って、どうにか巧君を助けてあげて下さい。リズの言う通りなら、物凄く強い武器な筈なので』
そういって、此方にアイテムを譲渡して来たRISA。
見慣れないアイテム名の通知に、思わずゾクッと背筋が冷えた。
おいおい、まさかコレって……。
『それじゃ私は黒獣の援護に――』
「リキャストタイムだ」
『え?』
「nagumoの攻略法、俺の見立てではリキャストタイムにある。予想でしかないが、アイツはオートガードのスキル持ち。更には何かしらの特殊スキルが自動発動する。それが黒獣も警戒した、歪んで見える一撃の正体だと踏んでいる。再度使用可能になる時間までは不明だが、連発していた事からかなり短いと思ってくれ」
『つまり、その時間が経つごとに一回……大技が来る?』
「地味な攻撃みたいだが、絶対に当たるな。オートガードの性能が高ければ、間違ったタイミングで攻め込めば一瞬で真っ二つだ。他のスキルに関しては未だ情報が掴めてない、十分に警戒しろ」
『了解です! 行ってきます!』
伝える事だけ伝えてみれば、彼女は元気よく挨拶した後に通話を終了させた。
さて、では此方もやる事やって向こうと合流しますか。
そんな訳で、今しがた譲渡された武装をコンバートしていく。
「ゴースト、コイツをスキャンしてくれ。発砲に必要な肉体能力なんかが足りなければ、ポイントで今すぐ強化。一発撃って自滅したくはない」
『了解、マスター』
出現したのは、恐らく敵の賞金首が使用していたであろうレールガン。
全く恐れ入ったよ、神引きJK。
まさかドロップ品で、相手のメイン武器を搔っ攫って来るとは。
彼女の豪運は、折り紙付きだね。
『完了した』
「それじゃ、反撃開始と行きますか」
それだけ言って、先程と同様の狙撃地点から。
新しく俺のメインウェポンとなったドデカイ物体を構えるのであった。
今度は豆鉄砲とは言わせないよ? 覚悟しろ、メカ兎。
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