第87話 何処に居ても
「……リユ」
『現在近くに“nagumo”は居ません、恐らく。なので戦闘になっても問題無いかと』
ホテルを出て、街中を歩き回ってみれば。
度々感じる怪しい気配。
いつもは“臭う”と表現しているが、そんな感じがそこら中からするのだ。
なんだか久しぶりだな、こういうのは。
視覚情報と感覚だけを頼りに、相手を探す。
今回は向こうから俺を狙って来る訳だから、俺はうろついていれば良いだけなのだが。
『マスター背後から二名ほど付けて来ます』
「次の路地に入る」
『お気をつけて、必ずしも“向こう側”で戦闘が起こるとは限りません』
「その時は……一つルールを破るだけさ」
『此方から仕掛ける、ですか……まぁ殲滅対象である事に間違いはありませんからね。でも、本当にお気をつけて』
リユからやけに心配そうな声を貰いながら、暗い裏路地に入ってみれば。
おぉっと、これはまた。
待ち受ける様にして三人の男が立っていた。
こんな狭い路地で、御苦労な事だ。
そして先程リユの言っていた二人も後ろから迫って来ており。
「顔は割れているぞ、黒獣。大人しく我々に従え。そうすれば怪我をしなくて済む」
まるで映画の様な台詞言いながら、正面に立った男の一人が虚空に手を伸ばした。
何も持っていない、ただ正面に手を伸ばしただけ。
でも間違いない、アレは。
『マスター! 武器をコンバートしようとしています!』
「わかってる!」
都合の良い事に、ココは居酒屋か何かの裏だったらしく。
足元にあったビール瓶を仕舞うプラケースを掴み取り、相手に向かって投げつけた。
ソレは随分痛そうな音を上げながら男の顔面へと激突すると、先程まで男が立っていた位置から拳銃が出現しポトッと地面に落ちる。
「残念だったな、次からはホルスターを買っておく事をお勧めするよ」
ニッと口もと吊り上げ端末を取り出してみれば、周りの男達も慌てた様子で掌を此方に向けて来る。
どいつもこいつも、“リアル”の方で片を付けようとしているらしい。
が、しかし。
『先程の男は間違いなくRedoのシステムを利用しようとしていました。そこから特定し、この範囲に居る敵情報をサーチ。ヒットしました。いけますよ、マスター』
どうやら、相手が動くより俺の端末の方が速かったらしい。
「全員に“強襲”を掛けろ、強制参加だ。戦えよ、お前等……相手してやる」
呟いた時には既に全身が鎧に包まれており、先程のコンバートした武器を手にした相手が鎧姿で此方に銃弾を放って来た。
惜しいなぁ、もうちょっとで俺が殺せたのに。
今では“スクリーマー”に豆鉄砲が当たっている程度の感覚しか覚えない。
「クハハハハッ! さぁ、ショータイムだ! 存分に楽しもうぜストーカーども! いくら追い払っても付いてくる害虫は鬱陶しいんでな、正面からぶつかって来いよ!」
獣の様な形をしている俺の兜が、ガパッと口を開いて威嚇する姿勢を見せてみれば。
「チッ、本当に厄介だなコイツ……警戒レベルを上げて貰わないと、洒落にならない……」
先程ビール瓶のラックとキスしてぶっ倒れていたマヌケが、頭を振りながらそんな事を呟くではないか。
ほぉ、コイツ等には賞金首の中でもランク分けがされているのか。
「なぁ、俺は今どの辺に居るんだ?」
「はぁ?」
一気に踏み込み相手の頭掴んでから、此方の兜を近づけていく。
「教えてくれよ、その“警戒レベル”ってヤツを。俺は、どれくらい警戒されてるんだ? お前等の親玉によぉ」
「なっ!? ガッ! あがぁっ!?」
おかしな声を上げる雑魚の兜をギリギリとゆっくり握り潰しながら、質問を投げかけてみれば。
流石に周りの奴らも黙って見ている筈もなく。
「その手を放せ!」
「貴様は既に包囲されている!」
此方に向かって、変な形の拳銃を構えていた。
先程コンバートした物とは形が違う、恐らくアイツ等の鎧から生まれた武具か特殊な物なんだろう。
しかしながら。
「あぁ、つまらねぇな……どいつもこいつも。掛かって来いよ、男だろう? 御大層な鎧を着てるのに、そんなつまらねぇ物を構えてイキがるな」
掴んだ男の頭を握り潰し、前方の二人に投げつけてみれば。
ホラ、もう銃を下げちまった。
死体なんぞ受け取っても仕方ないと言うのに。
「その男はお前等にとってそんなに大事だったか? だとしたら仕方ねぇな? だが違うなら獲物から目を放すんじゃねぇよ」
壁を蹴って飛び上がり、踵から生えた爪で相手の脳天に突き刺した。
そのままグルッと身体を回転させ、もう一人の顔面に逆側の踵を叩き込む。
これで三人目。
残り、後ろの二人だ。
「おい、何ビビってんだ? 残り時間は……えぇと、どれくらいだ?」
『残り29分10秒です』
「あぁ、お前等が30分逃げ延びればタイムオーバーで俺の負けだな。ドローになるんだったか? まぁ何でも良い。ホラ、たっぷり時間はあるぜ? 逃げるのか? 戦うのか? 選べよ」
カカッ! と笑いながら両手を広げてみれば。
片方は銃を構え、もう一人は逃走を始めた。
「鬼ごっこか、さぁて……どこに逃げ込むかな?」
『相手が馬鹿だと良いですね。その場合、一網打尽に出来る可能性があります』
「お楽しみは取って置こうじゃねぇか、時間はまだまだ残ってるんだ」
それだけ言って、残った一人に対して拳を叩き込むのであった。
fortの要塞と比べるのはアレかもしれないが……本当に脆いな、コイツ等。
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