第86話 表舞台からの退場


「ただいまぁー。巧君、帰って来てるー?」


 玄関で声を上げてみれば、これまたリビングの方から話し声が。

 またescapeと会話をしているパターンだろうか?

 ソロソロと足音を忍ばせながら、我が家のリビングに顔を出してみれば。


「前回の戦闘が監視されていたとすれば、おかしくはないでしょうね。実際、帰り道に他県ナンバーの車が妙に停車していた気がします」


『やっぱり、そっちにも監視の目が行ってるみたいだね。fortの情報は当然持っているだろうし、こりゃ二人も顔が割れたと言って良いだろう。まぁ、黒獣以上にリアルでは手が出し辛いのは確かだろうけど』


 やっぱり巧君とescapeが通話していた。

 しかしながら、内容的にちょっと雲行きが怪しいと言うか。


「でもこの場合、どうしたら良いんでしょう。相手の組織を潰さないと、平穏が取り戻せない気がしますけど……」


『まぁ、そうだね。しかし君にはソレをやるだけの覚悟があるかい? 今でもQueenを、母親だと認識しているのだろう? アレは催眠の類だと説明しても、君はソレを飲み込めていない筈だ』


「それは……そうかもしれませんが。でも前程じゃありませんよ? 今では自分でもちょっと違和感を覚えているくらいです」


 待って、私の知らない情報が飛び出してきている。

 もしかしてescapeって、巧君相手だと結構情報漏らしてる?

 あえて私を除け者にしようとしてない?

 確かに情報を流した所で、私は有効活用できる力はないかも知れないけど。

 それでも、小学生より信用無いって結構辛いんだが?

 色々思いつつ、ギリギリと歯を鳴らしながら通話中の巧君を眺めていれば。


『RISA、一応言っておくけど……君は俺の作ったプログラムを使って今平穏に過ごしているんだからね? そんな所に隠れていても、俺にはバレるとは思わないのかい?』


「ぬおぉっ!?」


「大葉さん!? えと、おかえりなさい!」


 escapeには完全に見破られ、巧君は驚いた様な表情を浮かべながら私を出迎えてくれた訳だが……。

 此方の端末、というかリズからも。

 非常に大きなため息が聞こえて来るのは何故なのだろうか。


「そ、それで……また問題が発生したんですか?」


 諦めて姿を現し、席に付いてから。

 私の方も端末を取り出して会議に参加してみれば。


『巧君、駄目だコレ。話にならない。いっその事俺の所に来るかい? 度々住所は移す事になるかもしれないけど、そっちの方が安全かもしれない』


「安全面を考えたら、その方が良いのかもしれませんね……」


 ハッカー様からは盛大なため息を頂いてしまい、巧君からも困った様な笑みを向けられてしまった。

 いやいやいや、納得いかないんだけど!?

 思わず二人の意見に噛みつこうとしたが、それよりも早くリズが報告を挙げ始める。


『此方の探知には誰もプレイヤーが引っかかりませんでした。しかしながら、マスターの視覚情報からすると、やはり相手は此方を調べている可能性が高いです。fortの発言と同様、此方にも怪しげな車が多数存在していました』


「え、嘘。リズ、そんなの居た?」


『貴方はちょっと黙っていて下さい、ボンクラ』


 端末からピシャリと厳しいお言葉を頂いてしまい、とりあえず口を噤んで他の人の会話を聞いていれば。


『たっくん……escapeさんに頼って、他の学校に行かない? このまま近くの学校に行くのは危ないよ……』


「アリス、簡単に言うなよ。それに、逃げ回るだけじゃいつか追い詰められるのは目に見えてる。いくら見限られたとはいえ、僕は向こうにとって“都合の良い駒”である事に間違いはないんだ」


『でも……このままじゃ』


「……ありがとアリス、心配してくれて。でも僕は、皆と一緒に戦うって決めたんだ。例え母さんが相手でも、僕は“fort”として戦う。今度は、皆を守る戦艦になるんだ」


『そ、それじゃぁ私も協力するけど……怪我、しないでね?』


 何度かこれまでにも巧君の端末の声は聴いたが。

 物凄く、過保護。

 というか優しそうな性格をしている。

 いいなぁ、リズもあぁなってくれないかなぁ……。


『なりませんけど』


「あ、はい」


 触れているだけで思考が読める端末は、いつも通り冷たい言葉を投げ掛けて来るのであった。

 まぁ、それは良いか。


「それで結局、どうするんですか? escape。私達、このまま普通に学校に行っていたら、それこそ個別に襲われたりします?」


 完全に判断を相手に投げてしまっている状況だが、正直私には決断出来る事の方が少ない。

 だって、社会そのものを知らなければRedoにそこまで詳しいという訳でもないのだ。

 だからこそ、有識者に頼る。

 それ以外に、術が無いのだ。


『正直に言うとね、迷ってるんだ』


 これはまた意外な答えが。

 彼にも迷う事があるのかと思ってしまうが、言葉にすればまた反感を買う可能性があるので発言はしないけど。

 でも彼は、渋いため息を溢してから。


『この際だ、ハッキリ言おう。俺が期待しているのは黒獣であり、君達はそのオマケ。むしろ彼の信頼を得る為の人材だという認識が強かった』


「マジでハッキリ言ったなぁ……この人」


 まぁ、薄々気が付いてはいたけど。

 だって今の私達は、正直お荷物でしかないのだ。

 Redoというゲームを生き残りながら、私達の様な子供を保護する義理も責任も無い筈なのに。

 彼と黒獣は、いつまでも私達を守る行為を繰り返しているのだから。


『だが、その目的の為に君達を今後も使おうと考えるのなら……決断の時が来たって感じかな。もちろん曖昧な答えを出すなら、それなりの逃げ道も用意するけど』


「と、言いますと?」


 端末から聞えて来る声に、私と巧君が顔を寄せながら聞き入ってみれば。


『非常に簡単だ。Redoプレイヤーとして生きるか、一般人として生きるかを決めてくれ。後者を選んだ場合は、休学届けを出して事態が収まるまでは別の場所で待機。前者を選んだ場合は……“表舞台”に戻れなくなる覚悟を決めてくれ。黒獣は既に、その域に達し始めている。つまり……普通の生活は諦める覚悟をしろ、という事だね』


 これはまた、凄い選択を迫られてしまった。

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