第82話 これまでとは違うタイプ


「お招きどうも」


「よう、escape」


 現場を離れ、前回彼に会ったバーの近くで居酒屋に入り。

 物は試しとばかりに彼を呼び出してみた結果、来たよ。

 ダルそうな雰囲気を放ちながらも、お酒の為に外出してきたハッカーが。


「黒獣の奢り?」


「あぁ、好きに飲んで良いよ」


「すみませーん、芋焼酎くださーい!」


「結構渋い物頼むなオイ」


 そんな訳でレイドの現場から避難して来た俺と、部屋から出て来て偉いと褒めてやりたい引き籠りとの飲み会が発生した。

 お互いに酒を片手に、ツマミも出そろった所で。


「さて、始めるか」


「だね、今日の反省会」


 二人揃って、大きなため息を溢してしまうのであった。

 俺の方は分かるが、escapeも何やら思う所があるらしく。

 前回以上に表情が優れない御様子だ。


「まずは俺から。すまん、警告してくれたのに……多分顔を見られた。中学生くらいの女の子だったけど、目視できる距離まで近づいて確認されたらしい」


 とりあえず此方の報告を挙げてみれば、彼は非常に大きなため息を吐きつつ。


「だぁから防御も完璧じゃないって言ったのに。顔が分かる距離まで近づいたら、相手が相手なら流石に気が付かれるって。ちなみにそのプレイヤーはnagumoに遭遇したけど即ログアウトしたみたいだ、多分目的が違ったんだろうね」


 そんなお言葉を頂きながら、二人でまずは一杯。

 ぷはぁと息を吐き出し、改めて新しいお酒を注文してから。


「そっちの報告に付け加えておくなら、ちょっと不味い事になった。黒獣の情報を、本部に回してるみたいなんだよね。多分写真でも撮られたんじゃない?」


「あぁ~そういえば、あの子に会った時コッチにスマホ向けてたなぁ……何とかならないのか?」


「一応デジタルの情報はもう削除しておいたけど、向こうは俺の手の内を大体把握していると言って良い。アナログ方式で保存しているだろうね、印刷とか」


 いやぁ、なんとも。

 本当に面倒くさいのに目を付けられてしまった様だ。

 しかし俺なんてただの一般市民。

 個人情報が流失した所で、クレジットカードが使い込まれたとかいう事態に発展しない限り問題は……ない、とは言えないのがRedoなんだよな。


「ゲームとは別の意味でマークされ始めてるね。近い内に向こうの人員が増援に来るんじゃない? だとしたら、住所も変えた方が良い。更に言うなら、君の家族だ。人質に取られる恐れだってある」


「攫ったりとかなら普通に犯罪だが……こっちを脅して、意に反した瞬間ズドン。その可能性だってある訳だもんな。くそっ」


「その通り、Redoとはゲームでありゲームではない。リアル情報は信頼できる人間以外に渡すべきではないって事だね」


 そんな事を言われたタイミングで、店員が追加のお酒を運んで来た。

 二人してソレを受け取り、クイッと傾けて喉奥に流し込んでから。


「ちなみに、そっちの掴んでいる情報は?」


「簡単に言うと、向こうの親玉との連絡手段はある。だからこそ交渉も出来る。しかし下手したてに出ると舐められるっていうのと、此方が有利だと思わせないと不味い相手、かな? まだ黒獣の事を舐めているみたいだから、そういう間接的な手段に出るとは思えないけど。もしもやると決めれば容赦なく実行に移す相手だ。実際fortみたいな子供の実の母親は、Queenの手によって消されている可能性が高い」


 随分と物騒な話だ。

 たかがゲーム、そう言ってしまえれば良かったのだが。

 Redoは、とんでもない額の金が動く。

 社会人であればもちろんの事。

 会社を経営している、または政治家なんかでも無視できない金の動きがあるのだ。

 そして立場が上の人間になる程、動かせる金と人間の数は多い。

 つまり、最初から有利にゲームを進められると言う訳だ。


「ちなみに、その“Queen”ってヤツは何なんだ? 巧君の様な子に干渉しているらしいけど……そんなに上手く行くものか? 今日会った子なんて中学生か高校生くらいだぞ? 母親を消して、新しい母親として登場しても受け入れてもらえるモノなのか?」


 正直ソレが一番疑問なのだ。

 今日会った子だって、お母さんがどうとか言っていたくらいだし。

 巧君だってそうだ。

 母親の為に全力になっていた様だが、何故そこまで依存出来たのだろうか?

 本当に幼い頃から一緒に居たのなら分かるが、どうしてもそこまで気長に根気強くやるタイプには思えないのだ。

 何たって、簡単にfortという賞金首を手放したくらいだし。


「相手にも謎は多い。それこそ今回、俺がアンタに謝罪する箇所でもある。すまない、相手を過小評価していた。多分“Queen”は、俺と似たタイプのプレイヤーだ」


「情報戦特化、って事か?」


 不思議な事を言い始めるescapeに対し、思わず首を傾げてしまったが。

 彼は顔を横に振り、自らを指さしてから。


「アンタは最初、俺の事を“感覚”で見つけたよね? 普通はあり無い事だ。俺の得意分野はネットとRedoに関しての情報操作、つまり干渉出来るのは“外側”なんだ。ゲーム内であれば視覚や嗅覚、聴覚だって誤魔化せる。しかしアンタは第六感とも言える能力で俺を見つけ出した」


「つまり?」


「相手はその逆、“内側”に干渉出来る能力を持っている可能性がある。というか、そうじゃないと説明が付かないんだ」


 いったいどういう事だろうか?

 内側、とは。

 話が上手く飲み込めず、思わず身を乗り出してみれば。


「Redoってのは不思議な事が起こる、それは百も承知だ。でもさ、もしも相手がゲームに関わる人間の精神に干渉出来るとしたらどうだ? まるで催眠みたいに。だからこそ子供達はQueenに依存するし、コレだけの事をやっていても人が集まる。更には……それを攻撃に使って来たらどうなると思う?」


「ハ、ハハ……まるでオカルトだな、今までのRedoと世界観が違い過ぎる。そんなの顔を合わせるだけでも危険じゃないか」


 思わず、乾いた笑い声を溢してしまった。

 だがしかし、今日俺は似たような感想を抱いた筈だ。

 先程戦った少女に対して。

 あまりにも、“らしくない”というか。

 Redoっぽくない鎧を纏う女の子に対して。


「これまた、面倒な状況に放り込まれたのかもね。今度はファンタジーが相手かもしれないよ?」


「マジで、勘弁してくれ……」


 次から次へと。

 何故こんなにも面倒事が降り注ぐのか……俺の運気、どうにか上がらないかな。

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