第81話 お邪魔兎


「ハァァ……よりによって、こんな場所でガキのお守りとはな」


『言ってる場合ですかマスター。相手さん、なかなか“出来る”みたいですよ? 早い所片付けて、さっさとログアウトして下さい。レイドモンスターに気が付かれますよ』


 大きなため息を溢しながら、今回の相手に視線を向けてみれば。

 ったく、若い奴の考える事は分からんな。

 あまり強そうには見えないが、鎧までド派手なピンク色と来た。


「おじさん、“黒獣”って呼ばれてる賞金首でしょう? ハハッ、ラッキー。コレでお母さんに褒めてもらえるよ」


 何て言うんだったか、こういうフリフリが付いた様な衣装。

 鎧だというのにまるでドレスみたいな装飾が付いており、布の先はフリルだらけ。

 ゴテゴテゴテゴテとまぁ、鬱陶しい。

 しかもこういう調子に乗ったガキは、正直苦手なんだが。


「お母さんお母さん、あぁそうかい。ママのおっぱいが恋しいならとっとと帰んな、クソガキ」


 “表側の奴”の影響か、ほとんど戦意が湧いてこないのだ。

 あぁくそ、本当に面倒クセェ。

 ガキだろうが何だろうが、殺しをやってりゃ一緒だろうが。

 Redoに関わっている時点で、アイツは殺して良い存在の筈だってのに。

 正直、ダルい。

 大人しく帰ってくれねぇかなぁと思ってしまう程に。


「おじさん、今ではそういう発言セクハラで捕まるんだよ? 知らないのー?」


 クスクスと笑う鬱陶しいのが、胸元に持ってきたのは……兎の人形?

 やけにメカメカしいが、見た限りギリギリ兎に見えなくもない。

 ソイツがビクビクと気持ち悪く動き始め、周囲の金属に向かって配線の様な物を伸ばし始めたではないか。

 それらが徐々に彼女に、というかメカ兎に集まっていき。


「あぁ、なるほど。fortと似たようなタイプか」


 目の前には随分と見てくれの悪い、鉄の兎マスコットが出現したではないか。

 なんかもう、見た目からしてやる気にならねぇ。

 Redoってこういうのも居るのか、なかなか意外だ。

 もっとこう殺伐としているというか、そういうイメージがあったのだが。


「裏切者のfortなんかと一緒にしないで貰って良い? 私のはアイツの玩具の戦艦とは訳が違うんだから」


 どうやらアイツの様に本体へ潜む訳ではなく、本人はそのまま別個体として存在しているらしい。

 まぁ普通なら、二対一を絶対に作れる状況になるんだろうが……俺にとっては、弱点を露出したイキってる馬鹿にしか見えない。


「リユ、鉄球」


『あーはい、了解です。でも相手のキルログも多いみたいですから、十分にお気をつけて……』


 などと会話をしながら、手元に現れた鉄球を握り締めて振りかぶってみれば。


「おじさん、遅~い」


 気の抜けるような声と同時に、兎の口から戦車の砲塔の様な物が突き出して来た。

 ほぉ? これはまた。

 見た目に反してなかなか面白いペットじゃないか。

 そのまま大砲は火を噴き、至近距離での砲撃を受ける形にはなったが。


「こんなのが賞金首とか、関東マジでチョロ。というかこの雑魚に負けたfortってどんだけ弱いの?」


 周囲に土埃が舞い、相手のケラケラと笑う声が聞こえる中。

 思い切り投げつけた鉄球がメカ兎の頭を粉砕した。

 えらい勢いで投げつけた事により、風圧で周囲の土埃も風に流れて視界が開けてみると。


「どうした、こんなもんか? 下手な鉄砲ってのは、数を撃たなきゃ当たらねぇって知らねぇのか?」


 相手の砲撃は俺の隣の地面を抉っただけ。

 その為煽り散らした訳だが、相手は随分と悔しそうな顔をコチラに向け。

 更には、頭を失ったポンコツ兎はその場で仰向けに倒れた。


「カッチーン、結構頭に来ちゃったかも」


「勝手に言ってろ、雑魚」


 思い切り踏み込んでみれば、相手は即座に両手をコチラに伸ばし、籠手の隙間から先程の兎同様配線が伸びていく。

 それが兎の残骸に向かって行ったかと思えば。


「ほう、芸は多いみたいだな」


 その両手には、巨大なガトリング砲が出来上がったではないか。

 確かにfortが何かを作り出す時よりも速い、それに装備も近代的な物の様だ。

 がしかし。


「全体的におせぇよ、お前。リユ、“アイツ”はどこに居る」


『二つ向こうの通りですかね、多分。東側でーす』


 玩具が動き出す前に間合いに攻め込み、ガキの首を掴み取ってから。


「そんなに遊びたいなら向こうに混じって来い、クソガキ。生き残ったらまた相手してやるよ」


「うぎゃぁぁぁ!」


 小さいソイツを、建物の向こう側へと投げ放った。

 ピンク色の良く分からんのは、汚い悲鳴を上げながら空に向かって飛んで行ったが……二つ向こうの通りか、届けば良いな。

 まぁ届くか、アイツ軽かったし。

 まだまだ夜遊びしたい年頃のガキは、今日は侍野郎と遊んで来てもらおう。


「帰るか」


『珍しいですね、マスター。いつもならこのまま突っ込みそうなのに』


「気分が削がれた。口から大砲を出す兎マスコットと戦った後に、本気で侍野郎と勝負しろってか?」


『確かに、やる気は地に落ちるかもしれませんねぇ』


 と言う事で本日は全くやる気も起きず、しばらく待っていれば相手からサレンダー通知が届いた。

 三十分待ってタイムオーバーになるかと思ったのだが、どうやら向こうも戦闘に巻き込まれたらしい。

 勝負を挑んでいる間じゃログアウトは出来ないから、多分そういう事で良いのだろう。

 ホント、後先考えない馬鹿だったという事なのか。

 そんな訳でため息を溢してから降参を認め、こっちも大人しくその場でログアウトするのであった。

 戻って来る街の景色、行きかう人々。

 だがしかし、先程目の前で笑っていた少女の姿はない。

 もしもあの侍と遭遇したのなら、今頃ヒーヒー言いながらログアウトを急いでいる頃だろう。


「なんか、無駄に疲れた」


『escapeから警告を貰った直後でしたしねぇ。帰りにもう一軒くらい居酒屋に寄って行きます? あ、それこそescapeも誘いましょうか。何か飲みたそうにしてましたし』


「それも良いかもなぁ」


 リユと他愛もない会話をしながら、本日はその場を離れるのであった。

 “nagumo”に関して、全く調査にならなかったなホント。

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