第65話 土竜


「クハハハッ!」


『当たってる筈なのに……なんで!?』


 甲板の上から幾つもの機関銃やら大砲が生えて来て、俺に銃口を向けて来る。

 しかしながらコッチだって突っ立っている訳じゃない、動き回っているのだ。

 相手は必死で此方の事を捉えようとするが、そう易々と当たってやるつもりは無い。

 とは言っても、手数が多過ぎて何割かは避けきれないが……これに対抗する為に、鎧を強化したと言っても良い。

 防御力、とにかく相手の攻撃を防げるだけの硬さを手に入れて来たのだ。

 戦車でもぶち抜きそうな威力の弾であっても、今の俺の鎧には通用しない。

 衝撃は来るので、デカいのは上手い事受け流さないと死ぬのは確かだが。

 そして何より、今の防御力でもヤツの主砲には耐えられないだろう。

 フェアーな条件として、fortが主砲を使える距離まで離れてから戦闘を始めても良かったのだが……正直、時間の無駄だ。

 監視役を失った今のfortでは、間違いなく俺に主砲を当てられない。

 今まで散々ぶっ放されて来たのだ。

 コイツの癖も、どう行動すれば見失うのかも覚えている。

 だったら、今この場で勝負を始めてしまっても構わないだろう。


「どうしたどうした! そんなもんか!? もっと遊ぼうぜ、fort!」


 甲板に拳を叩き込み、そのまま床を引き剥がす。

 ソレを盾の様に構えてから機関銃の群れに突っ込んで、端から破壊してみれば。


『アンタ……本当に滅茶苦茶だよ』


「お互い様だろうが。お前だって良い鎧使ってんだ、もっと思い切り掛かって来いよ」


 カカカッと笑いながら、次々生えて来る機関銃を毟り取っていく。

 だがこのままでは、いつまでも終わらないのは確かだ。

 だからこそ、本体を攻撃しなくては。


「リユ、“爪”だ!」


『あいあいさー! 存分に土竜モグラになってくださいませー!』


 此方の行動を予想していたのか、すぐさまスキルを発動させるリユ。

 以前蜘蛛女の糸から逃れる為に使用した、“爪”のスキル。

 それは以前同様凶悪な見た目をしており、身体の至る所から鋭い刃を出現させた。

 さて、試してみるか。


「よぉ、そろそろ御対面といこうかfort。せっかくなら顔を合わせて殺し合おうぜ」


 それだけ言って盾にしていた甲板の残骸を投げ捨ててから、思い切り真下に向かって爪を突き立てた。

 あっさりと刺さる。これなら、問題はなさそうだ。

 斬り裂いた部分に指を引っ掛け、力いっぱい引き剥がしてみれば。


『ハハッ、本当に滅茶苦茶だね黒獣。戦艦の解体ショーだ、なかなか見られる光景じゃない。fort本体の位置を掴んだ、場所は指示するよ』


 端末からも、escapeの楽しそうな声が聞こえて来る。

 そうだ、それで良い。

 戦闘ってのは戦ってる本人だけじゃなく、ギャラリーまで楽しませてなんぼだ。

 しかもソイツが相手の位置を教えてくれるって言うんだから、見ている側だって楽しくて仕方がないだろう。

 クハハッ! 盛り上がって来たじゃねぇか。


「おらぁぁぁぁ!」


『ウッヒョー! 流石マスター! 馬鹿力ぁ!』


 リユの煽りを聞きつつも、戦艦を“掘った”。

 爪を立て、隙間に手を突っ込んで無理矢理こじ開ける。

 中身がどうなっているのかと楽しみにしていたのだが、どうやらコイツは本当に金属の寄せ集めらしい。

 ちゃんとした船の構造はしていない。

 本当に外見だけ、見た目だけを整えたかのような中身。

 掘っても掘っても歪に圧縮された物体が出て来るだけで、あまり面白くはない。

 しかしながら、相手は内部に武器を生成出来ないのか。

 随分と大人しく俺の攻撃を受け続けていた。


『黒獣、少しだけ戦艦の中心に向けて角度を変えられるかい?』


「あ? あぁ~どっちだ?」


『えぇっと……ちょっと待って。リユ、現在の黒獣の方向と角度を……うん、ありがと。君から見て右斜め上を掘ってくれ、その先にfort本体が居る』


「こっちか?」


 ズボッ! と爪を突き立ててみれば、今までぶっ壊して来た通路が少々嫌な音を立て始める。

 これはもしかして、崩れたりするんだろうか?

 かなり無理矢理押し開いて来たから、そうなってもおかしくはないのだが。


『fortが穴の開いた部分を修復しようとしているのかもしれない、急ごうか』


『ま、今のマスターを押しつぶせるとも思えませんけどねぇ』


 両者からそんなお言葉を頂いた訳だが。

 なんか、面倒くさくなって来たな。


「リユ、一気に掘り進めるスキルとか無いのか? めんどくせぇ」


『えぇ……ここまで掘っておいてですか? まぁ、無い事はないというか。ちょっと無理矢理な感じになりますけど』


「なら、それを使え」


 周囲にある金属を無理やり押し退け、自由に動けるだけのスペースを作っていく。

 リユは何やらブツブツ呟きながら、スキルを適用している様だ。

 時間が掛かってるって事は、“爪”の時同様色々と強化しているのだろう。

 まぁ、そっちはリユに任せて俺はスペースを確保しよう。

 身体が通れる分だけ押し広げて来たから、とにかく狭いのだ。

 戦艦ってのは、もう少し人が動けるスペースくらい確保するもんじゃないのか?

 などとため息を溢してしまうが、やはりそこは子供の作った船。

 中身なんぞそこまで気にしていないのだろう、ブロックの玩具で作り上げた船みたいなモンだろうからな。


『マスター、終わりましたよー?』


「おう、それで? 今回は何だ」


 リユの声に答えてみれば、相手は非常に気まずそうな空気で「スゥゥ……」なんて音を立ててから。


『お、怒らないで下さいね? “ビッグハンド”、です』


「は?」


『で、ですから……手がでっかくなるネタスキルと言うか……あの、ホラ。手がでっかくなれば、掘るのも早いかなぁって。それにホラ、一発芸にも使えますし! あ、アハハー!』


 と言う事で、使ってみた。

 その結果。


「リユ」


『本当にすみませんでしたぁ! コレしか無かったんです! マスターに合いそうなスキル、マジで少ないんで! またハズレスキルかよって思ってますよね!? そうですよね!? 見た目滅茶苦茶悪いですもんねゴメンナサイ反省してます! なので握りつぶすのは勘弁して頂けると――』


「最高じゃねぇか」


『え、は? 正気ですか? マスター美的感覚をお母さんのお腹の中に忘れて生まれて来ました?』


 スキルを使った瞬間、腕の鎧が何倍にも膨れ上がった。

 まるで肩から先だけ巨大化した様な、あまりにも歪な見た目。

 しかしながら、今ならプレイヤーの全身を一握りで潰してしまえそうな程。

 コレなら確かに、掘るのも早そうだ。

 そんでもって、俺にはお似合いのスキルと言う他無い。

 なんたって、非常に“分かりやすい”のだから。


「一気にfort本体まで突き進むぞ! escape、場所を教えろ!」


『あぁ、うん。俺はもうスキルに関して何も言わないよ……黒獣がそれで良いなら、好きにしてくれ』


 なんてお言葉を頂きながら、今まで以上にfortの内部を押し広げていくのであった。

 地味な作業だが、新しいスキルのお陰で随分と楽になったもんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る