第48話 RISA
「私元々、凄く地味で……あと、周りに合わせる事が凄く苦手だったんですよ」
「ダウト」
「いや、流石にソレは嘘でしょう理沙さん」
語り始めてみれば、男性陣二人から即ツッコミを頂いてしまった。
おいコラ、語れと言われたから喋り始めたのにすぐ止めるんじゃないよ。
それから唐沢さん、なんでちょっと距離置くんですか。
「そ、それでですね? 中学とか殆ど友達居なかったんですけど――」
「はい嘘、高校デビューだけでそれだけ変われるかって言ったら絶対無理だね。俺は経験済み」
「あ、あれかな? 自分的にはそれくらい卑屈だった的な……そういうニュアンスかな? あんまり、良くないよ? こう、昔の自分を卑下して……その、今の自分を立てるみたいなのは」
「いやホントですよ! というかツッコミが多い! 話進まない!」
対面席のescapeさんは完全に此方を小馬鹿にした様に笑い、隣に居たはずの唐沢さんが何故か彼の隣に移動し始めているし。
止めて、お願いだから引かないで。
後唐沢さん戻って来て、そっちに固まられると私喋り辛い。
『ちなみにマスターの中学時代の写真がこちらです。中学のデータバンクから引っ張って来ました。こういう記録って、圧迫されない限り残っているモノなんですね』
「ちょぉぉっとぉ!? リズ!? 何してんの!?」
ウチの端末がまた余計な事をしたらしく、二人のスマホにも卒業アルバムに載っていた私の写真がアップされてしまった。
それを覗き込んだ男性陣は。
「「おぉ~……確かに地味かも」」
「ねぇもう帰って良いですか!?」
吠えてみるものの、流石にこんな大声を出すと店員に聞かれると言う事で。
静かにする様escapeさんか怒られてしまった。
なんか全く納得いかないんですけど。
あぁもう良い、こんな奴escapeって呼び捨てにしてやろう。
「それで、一人だけ凄く仲の良い友達が居たんですよ。その子がRedoプレイヤーで、私に助けを求めて来た。だから登録した、以上です!」
もはや語る気も無くなり、フンッ! とばかりに吐き捨てる様に呟いてみれば。
「ちなみに、今そのお友達は? 言葉にしたくないのなら、黙ったままで構わないけど。君の生き方とか、鎧の意味が少し気になってね……」
唐沢さんが、ポツリと小さい声でそんな質問を投げて来た。
多分、答えは既に分かっているんだろうけど。
「死にました……私の目の前で。本当に切羽詰まった状態で招待メールを送って来たらしくて……アバター作成の初期スキャンで気を失って、目覚めてからすぐ現場に向かったんです。でも、相手の数が多くて。私は、全然助けになれませんでした……」
「つまりその子は“リアル割れ”しており、執拗に追い詰められていた訳だ。だからこそ君が目覚めた後でも戦闘が行われていた、というより連続で“強襲”を受けた状態なんだろうけど。そして友人の死亡が確認された後、君は自慢の脚を使って逃げ延びた。そんな所かな?」
お酒を片手に、escapeは静かにそう言い放った。
そうだよ、本当にその通りだよ。
グッと拳を握り締めながら、奥歯を強く噛んだ。
言われなくても分かっている。
私は、何の成果も上げられずにただ今を生きている。
「私がRedoに求めたのは、友達の元へいち早く向かいたいという願い。誰よりも先に、あの子の元へ到着して助けてあげたかった。なのに、私は何の力にもなれなかった。だから、私の願いはもう叶わないんです。残ったのは、あの真っ白い鎧と脚の速さだけです」
実際Redoを始めてから、私の脚はリアルの方でも速くなった。
これもゲームの影響だってリズは言っていたけど。
本気を出せば、オリンピックとか出られるくらいには現実でも加速出来るのだ。
でもこんなもの、何の役にも立たない。
それどころかもう一人友人を巻き込み、結局“どちらも”救えなかったのだから。
「だから私は……現状Redoに求めているモノがありません。だから、どうにか死なない様に、相手を殺さない様にって……」
「ちなみにRISA、その友達を殺した相手は? ソイツ等が次に目の前に現れた時、君はどうするつもりだい?」
「……え?」
グラスを傾けるescapeの言葉に、ピタリと動きを止めてしまった。
あの子を殺した奴等、そして前回紗月を殺した
そういう“仇”とも呼べる存在が目の前に現れたその時、私は。
「そんなの……決まってる。絶対私が殺――」
「ストップ。そこまでで良いです、理沙さん。貴女の戦う理由は良く分かりました。escape、いい加減にしろ。相手はまだ学生で、何故あそこまで“白い鎧”を纏っているのか。それをよく考えろ」
「おっと、お父さんが怒った。あ、いやホントこれ以上は止めるんで、肩掴まないで? 折れる、折れるから」
此方の会話に、唐沢さんが割って入った。
彼はescapeの肩をガシッと掴みながら、私には微笑みを向けて来た。
「すみません、辛い事を聞いてしまって」
「あ、えぇと……いえ、全然」
「折れる! 折れるって黒獣!」
一人暴れ回っているが、ソレを気にした様子はなく彼は言葉を続ける。
「もしもその時が訪れたら、俺を呼んでください。俺が、代わります。自らの手で殺してやりたいと思う程の相手、当然貴女の気持ちはスッキリしないかもしれない。でも、駄目なんです。それだけは駄目だ。それをやってしまったら、貴女はソイツ等と一緒になってしまう。だから、代わります。理沙さんの武器として、“黒獣”が戦いますから」
そう言って、彼は優しい笑みを浮かべるのであった。
コレが、黒獣の表の姿。
アレだけの鎧を作り上げたのだ、腹の中では何を思っているのかは分からない。
でも、この人の笑みは。
とてもではないが、嘘をついている様には見えなかった。
「どうして……そこまでしてくれるんですか?」
「俺には、妻と子供が居ます。だからこそ、君みたいな年齢まで育った頃、同じような悩みを抱えてしまったらと考えると……俺が代わってやりたい、そう思うからですよ。親とは、そういうものです」
「でも私は! 唐沢さんの子供でも無ければ、全くの赤の他人ですよ……なのに」
「赤の他人ではありませんよ。ココに居る三人は、パーティだ。仲間なんです、そしてこうして顔を合わせた。だから、少しくらい手伝わせてください。絶対に殺すな、我慢しろとは言いません。こんなゲームですから。でも出来れば……理沙さんは理沙さんのままで居て下さい。嫌な事は、大人が代わりますから」
それだけ言って、彼は私の頭に手を置いて来た。
大きくて、ゴツゴツした掌。
どうしてだろう? 今日初めて顔を合わせた人なのに。
まるで父親の様に包み込んでくれるこの暖かさに、目尻に涙が浮かんだ。
「どうして……」
「性分、なんでしょうね。ハハッ、これで随分失敗した経験もありますが。でも、悪い気はしませんから」
こんな人が、“黒獣”。
Redoに入ってしまえば、殺戮者として君臨する賞金首。
こんな優しい人が、社会ではそれだけの闇を腹の底に抱えている。
そう考えると、思わず溜まった涙が零れてしまった。
「え、あっ! すみません、泣かせる様なつもりは……」
「いえ、いえ……違うんです、コレはそう言うのじゃ無くて……」
Redoは、やっぱりおかしい。
なんでこんな人を、あの戦闘に巻き込んだのだろう。
私の様な理解が足りない若者が巻き込まれるのなら、確かに分かる気がする。
誰から見ても、利用しやすいから。
でもこの人みたいな、他者に手を差し伸べられる様な優しい人を。
何故あんな化け物に変えてしまうのか。
やはり私には、このゲームの求める先が分からない。
「唐沢さん……また、相談に乗って貰っても良いですか?」
「えぇ、それは勿論。我々は仲間ですから、いつでも連絡してください」
やっぱりこの人、あの黒獣だとは到底思えない程優しいんだけど。
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