二章
第43話 顔合わせ
「理沙、今日なんだけどさぁ」
「ねぇ理沙ー、帰りにカラオケ――」
皆の声が、まるで薄い膜を通しているみたいにボヤァっと聞こえる。
あぁ……久し振りだな、この感覚。
以前にもRedoで友人を失った後、しばらくこんな感じになった。
「あ、あの! 大葉さん! 放課後にちょっとだけ時間貰えますか!?」
「お!? またこういうイベント!? 理沙やるぅ!」
「ちょっとくらい分けてよぉ~理沙ばっかりズルいじゃーん」
一人の男子生徒が、赤い顔をしつつ何かを伝えて来ている。
そして周りの友人達も賑やかしてくるが……まぁ、いいか。
どうせ今は頭が回らないし、とりあえず周りに合わせておけば。
そんな事を考えながら、ボーっとしたまま授業を受け。
放課後になったので普通に帰ろうとしてみれば、校門近くで友人達に止められてしまった。
「ちょいちょいちょい! 理沙! 告白イベント忘れてるって!」
「流石に放置は可哀そうでしょうに……それとも、もう断って来た後? いや、んな訳無いか。理沙ソッコーで教室出たし」
一瞬何の事だろうと首を傾げそうになってしまったが。
あぁ、そうか。
昼休みくらいに、男子が時間くれって声を掛けて来ていたんだっけ。
忘れてた、約束の場所……何処だっけ?
ボンヤリする頭で考え込んでいれば、学校から件の男子生徒が出て来るのが見えた。
そして、どうやら此方に気が付いたみたいで。
「あっ! 大葉さん!」
慌てた様子で、こっちに向かって走って来た。
良かった、相手が見つかったのならこの場で話を聞いてしまおう。
その方が早いし。
そんな訳で、私も走り寄って来る彼に向けて足を向けようとしたその時。
「RISA、迎えに来た」
背後から、というか校門の外から。
随分と聞き馴染みのある声が聞えて来た。
ここ最近では本当によく聞いた、彼の声だ。
ゆっくりと振り返ってみれば、そこには……いや、誰!?
「お友達には悪いんだけど、こっちを優先してもらって良いかな? わざわざ時間を作ってまで迎えに来たんだ、RISAもそれで良いよね?」
思わず目を見開いてしまう程の……なんていうの?
顔は良いんだけど、すっごくダルそうにしている男性が立っているではないか。
少し長めの黒髪、派手なインナーカラー。
ダボッとした様なジャケットを羽織っているが、全体的にスタイルが良い。
なんかもうモデルか何かですかって感じの、二十代前半くらいの男の人。
でもその声は、間違いなく。
「エ、エスケ――」
「おっと、ソレは俺達の秘密だよね? お友達だったとしても、皆の前では言っちゃ駄目だよ?」
魔性の微笑み、なんて言葉がある。
コレがそうなのかと、本気で思ってしまえる程の整った顔が目の前に迫って来た。
私の口を押さえながら、自らの口元にシーっと人差し指を立てる
こんな光景を見せられれば、当然周囲は勘違いする訳で。
女友達はキャーキャー騒ぎ始め、男子の方はえらく静かになってしまった。
いや、あの……ちょっと待って。
この人、こんな所で何してるの?
というか、顔出しちゃって良いの?
「そう言う訳だからさ、悪いね。この子、貰って行って良い? そっちの彼、告白は後日にしてもらって良いかな?」
「あ、いえ……その、もう大丈夫です……」
それだけ言ってから、男子生徒はトボトボと帰路に着いた。
告白がどうとか言っていたが、いや本当に?
まぁ状況と本人の態度を見れば、その可能性が高いのか。
普通に断りますが。
今まではボーっとしていたから、思考があまり回っていなかったけど。
コイツ……escapeさんが急にリアルの方で登場した事により、完全に目が覚めた気分だ。
もはやリアル割れどころでは無い、普通に顔見せちゃったよ。
電子の亡霊とか言う都市伝説何処行ったよ。
「あ、あの。それで、今日は――」
状況が掴めずに、正面に立つ彼をとりあえず見上げてみれば。
「だから、秘密の話がしたいから迎えに来たんだってば。これから良い? 別に予定とか無いんだろう? 良いよね」
クスクスと笑うescapeに対し、残った女友達二人は更に騒ぎ立て。
「ちょっと何!? この人が理沙の彼氏!? なら今まで男に靡かなかったのも分かるわ!」
「あ、あの! もしかしてモデルとかされてる方ですか!? 滅茶苦茶格好良いですね!」
キャッキャと騒ぐ二人に対し、彼は再びシーッと人差し指を立ててから微笑んで見せた。
その行動だけでも結構攻撃力が高かったのか、二人はキャーキャー騒いでいるが。
でも絶対アレだ、全力でキャラ作ってるこの人。
ゲーム内やリアルのチャットでの文章と全く違う雰囲気な上に、さっきから微笑みがワンパターンだ。
物凄く頑張って顔を固定している様な感じ。
そして、そんな彼は。
「さぁ、行こうか。おいで、RISA」
「え、あぁ~ハイ……」
この変な恋人ムーブというか、escapeにしては非常に違和感のある態度な訳だが。
彼に手を引かれ、そのまま学校を後にするのであった。
やっぱりこの人、良く分からない……というかなんだろう。
登場の仕方が毎回面倒くさい! 何この人!?
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