第42話 生き残る為に


『どう見る、黒獣』


「どうもこうも無いでしょう、あんな戦艦。個人で勝てる相手じゃ無い」


 リユを通してescapeエスケープと話しているが、やはり話題は今夜姿を現した要塞。

 アレがプレイヤーだというのだから、ふざけた話だ。

 しかも撃ち出して来たあの塊……サツキと呼ばれていた彼女を押しつぶした攻撃。

 あの主砲を何発も放たれたら、正直勝ち目がない。

 Redoにおいての賞金首、それは様々な形で選ばれている様だ。

 俺の様な暴君、escapeの様な情報処理を得意とするハッカー。

 彼の場合は恐らくRedoそのものから目を付けられてしまう程、電子戦に長けていると言う事なのだろう。

 そして今回の、irisアイリスfortフォート

 前者に関しては他者を巻き込む能力を評価され、後者に関しては圧倒的過ぎる鎧の能力と言った所だろうか?

 これだけでも分かる。

 Redoにおいての賞金首は、ただ戦闘能力だけを鑑みて首輪を付けられる存在という訳ではない。

 むしろ俺なんて、他者からしたら対処しやすい部類に含まれてしまうのだろう。


『でもアンタは、相手の鎧。“イージス”に一矢報いて見せた。これまでは傷を負わせる事さえ難しかったあの要塞の一部を、砕いてみせたんだ』


 通話だと、まるで戦闘中の様な口調の彼がそんな事を言って来るが。

 はっきり言おう、無理だ。


「あの攻撃を相手が粉砕するまで続けるとなると、いったい幾つの鉄球が必要になる事やら……しかもあの砲撃を避けながら、となるとやはり無理ではないかと」


『だな……あれは本気でチートだ』


 二人揃って、大きな溜息を溢してしまうのであった。

 とはいえ、相手は。


「俺達を逃がす気はない、って所ですかね」


『“マーク”されているからね、三人共。RISAにも、無暗にRedoを起動するなって言っておかないと』


 その台詞を聞いてから、今一度ため息を溢してしまった。

 RISAというプレイヤーネームのあの子。

 情報処理担当のescapeの話では、本名もリサと言うらしいが。

 しかし、今回の件があったばかりなのだ。

 きっと、大いに落ち込んでいる事だろう。


『勘違いするなよ、黒獣。俺達はアイツの友達でも無ければ、家族でもない。パーティを組んでいるからといって、全てをフォローしてやる必要なんて無い。今回の件で分かっただろう? アイツは、“白過ぎる”。いざって時の足枷になる』


「分かってますよ。でもこんなゲームだ、慣れ過ぎた俺の様な存在の方が余程危ないと思われます。だから彼女の様な存在は、Redoには絶対必要だと考えています。何より、ソレを言うなら貴方だってそうだ。escape、君はまだ誰も殺していない」


『……俺には、相手を殺す度胸が無いだけだ。今日だって狙撃手の奴等のサレンダーを、勝手に受けた。俺の端末ならアンタと同じ様に、リーダー格以外は個別の承認でも退場させられるからな。すまない』


「いいえ、そういう人と組んでいた方が此方は安心出来ますから」


 そう、このパーティには。

 人殺しと呼べる存在は俺しか居ない。

 他の二人は、未だ一人もプレイヤーの命を奪っていないのだ。

 賞金首に指定されているescapeでさえ、ただの一人も。


「とにかく、今後はもう少し密に連絡を取り合いましょう。それから……」


『fortとやりあう準備。こっちでも対策は考えるが……直接戦闘は、任せっきりですまない。だが頼む、黒獣』


「えぇ、それだけが俺に出来る事ですから」


 不落の要塞、“fortフォート”。

 どんな人物なのか、何を目的にしているのか。

 未だ何一つ情報は無いが。

 それでもただ一つ分かっている事がある。

 今のままでは、このパーティは全滅する。

 先程の戦闘だって、全力という訳ではないのだろう。

 だとすれば、相手が本気になった瞬間全てが終わる。

 だからこそ、舐められている内に手を打たなければ。

 装備やスキル、鎧のパラメーターなどなど。

 あの馬鹿みたいにデカい要塞に、たった三人で勝てる術を見つけなければいけないのだ。

 それが出来なければ、俺達に未来は無い。

 赤いエフェクトとなって、この世から消え去る事だろう。


『RISAに関しては、こっちからも連絡を取ってみる。若い女の子相手ってのは慣れてないが、多分アンタだって苦手だろ? そっちは戦闘と休息に集中してくれ』


「ごもっとも。どうか彼女のサポート、よろしくお願いします」


 そんな台詞と共に、彼との通話を終了するのであった。

 さて、では此方も。


『マスター、今回ばかりは換金はお控えする事をお勧め致します』


「そうだな、リユ。アレは余りのポイントでどうにか出来る相手じゃ無い……今回は、全部強化とスキルに使うぞ」


『幸運と言って良いのかどうか分かりませんが、百に近い相手を蹴散らして来たばかりですからね。腐らせる前に、使ってしまいましょう』


 俺の端末、リユ。

 彼女……と表現して良いのかは分からないが、とりあえず。

 相棒と相談しながら、その日は遅くまでアバターの強化を行っていくのであった。

 あぁくそ、ついにやってしまった。

 ポイント全てを、Redoで勝つ為だけに使う行為。

 これだけは、したくなかったのだが。


『アレに勝たないと、家族への仕送りも出来なくなってしまいますからね』


「言うな。分かってるからこそ、今回は使っているんだ」


 要塞に、個人で勝つ。

 あまりにも馬鹿げた目的だが、それでもやらなければいけない。

 この世界を生き残る、たった一つの道がそれだというのなら。

 俺は、何であろうと勝ちを拾ってみせよう。

 例えそれが、相手の人生を奪う行為だとしても。

 此方にとっては、自身の家族の方が大事なのだから。

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