第39話 戦いは終わった、筈なのに
リズの声と共に高速化は解除され、ドッと体中が重くなった感覚を受けた。
攻撃後にスキルが解除されてしまった為、着地さえ失敗して地面を派手に転がってしまったが。
それでも、地面に広がった糸が私を包む事は無かった。
ガクガクと震える身体を押さえ付けながら立ち上がり、通り過ぎた彼女の元へと向かってみれば。
「サレンダーして、紗月」
手足を貫かれた彼女が、ビクビクと震えながら地面に転がっていた。
傷口からは止めどなく血液が溢れ、素人目には今にも失血死してしまいそうに見える。
それでも彼女はグッと歯を噛みしめながら、此方を睨んで来た。
「早く殺せよ! 情けを掛けたつもりな訳!? 私が生きたまま“リアル”に戻ったら、絶対アンタを殺しに行くからね!? また駒を集めて、今度こそアンタみたいな気に入らない奴を皆端から殺して――」
「だったら、殺しに来て良いよ。次も絶対負けないから。でも、他の人を巻き込まないで……お願いだよ、紗月。私、こんなの見てるだけでも辛い」
「……は?」
地面に座り込み、彼女の頭を膝の上に乗せた。
そして、周囲が見える様にしてあげれば。
「見える? 赤いエフェクトが、まるでイルミネーションみたいに光ってる。でもこれ、紗月が呼んだ人達なんだよ? 皆、生きてたんだよ? でも、死んじゃった。貴女を守る為に、皆戦ったんだよ?」
「あ、あり得ない……だって百に近い数が居たのよ? なのに、え? これ、黒獣一人で倒したって事?」
私達の周囲には、彼女の兵士は誰も残っていなかった。
ただ一人、荒れ果てた大地に立つのは黒い獣。
彼からしたらこの数ですら相手にならなかったのか、息切れ一つした様子もなく。
ホント、化け物も良い所だ。
呆れてしまう程強くて、あんなのに勝てるプレイヤーが居るのかと聞きたくなってくる。
しかしその彼も、今では私のパーティの仲間。
未だに実感が湧かないというか、信じられないけど。
そしてそんな彼に頼り、紗月と戦う為に周りの人間を犠牲にしたのだ。
もう、綺麗なままでは生きられない。
私も既に、人殺しの一員なのだろう。
「ハ、ハハハ……あんなのチートよ、ズルじゃない。そんなチーターを仲間に付けて、何を偉そうに――」
「また挑んで良いよ、その時は本当に一対一で戦ってあげる。その時も、絶対勝つ。だから……リアルではちゃんと友達になろうよ。いくら悪口言っても良いし、罵って来ても聞くよ。気に入らなければ、何度でも喧嘩しよう? いっぱい喧嘩して、言いたい事言い合って。お互いの事少しずつ分かっていこうよ」
それだけ言って、彼女抱きかかえた。
モゾモゾと抵抗してくるが、絶対に放してやらない。
恐らくコレが、私が唯一出来る償いと責任の取り方だから。
「私、紗月の事本当に凄いって思ってるんだよ? 歌は凄く上手だし、これだけ人を集められる人気者で。自信を持ってからは、学校で一気に注目を浴びるくらい可愛い見た目をしてて。全部私には出来ない事だよ、紗月は本当に凄い」
「な、何を……」
「いっぱい持ってるんだよ。私なんかより、周りの人達より。私達みたいな周りの人がどうとかって言ってたけど、そんなのよりずっと凄いよ。だから、もう止めよう? こんな事しなくても、紗月は皆に好かれる凄い人なんだよ」
この子は私が巻き込んだ。
だからどんなに罪を重ねようと、私だけは一緒に居るべきなのだ。
黒獣は殺人を犯したプレイヤーに容赦しない。
もしかしたらこの後、彼は紗月に襲い掛かるかもしれない。
そうなった場合は……私が、相手を務める。
多分勝てないし、一瞬でやられちゃうかもしれないけど。
それでも、戦わなくちゃ。
友達を守る為に、責任を取る為にも。
「早くサレンダーして、紗月。リアルにさえ戻っちゃえば、きっと皆も貴女の事を敵視しないから」
「そんな保証……どこにも無いでしょ」
「無いよ。けど、私が止めてみせる。パーティ内で争う事になっても、紗月を追わせたりしないから」
「なんで……そこまで」
「友達になりたいから、だよ。もう一回カラオケ行こうよ、私紗月の歌がまた聞きたいな。すっごい上手だったから、今度はもっともっと聞かせてよ」
もはや弱々しい視線を此方に投げ掛けて来る事しか出来ない紗月は、小さく、本当に小さく頷いてくれた。
コレで、ひとまずの決着。
もう一悶着あるかもしれないけど、そっちは私が頑張れば良いだけだ。
「もう、訳わかんない。理沙ってやっぱおかしいよ……でも、私の負けだね。“フローズ”、相手にサレンダーの申請――」
『RISA! 今すぐその場から離れろ!』
え? と、二人揃って声を洩らしてしまった。
今聞えて来たのは、間違いなくescapeさんの声。
だって紗月にもう戦闘の意志は無いんだ、だったら何を警告して来たのかと視線を上げてみれば。
黒獣が、此方に向かって走って来ていた。
間違いない、彼女を狩るつもりだ。
思わず剣を構え、紗月を庇う様に立ち上がってみれば。
「避けろ! ガキ共!」
彼からは、予想外の言葉が聞えて来た。
避けろって、何から? だってもう敵は――
「ウグッ!」
脇腹を鈍器で殴られた様な痛みを覚え、その場から横に吹っ飛ばされた。
地面を転がりながらも視線を向けてみれば、そこには糸を絡めた“脚”で私の事を殴ったらしい紗月の姿。
何で? だってさっき、サレンダーしてくれるって。
「ごめん、ごめんね理沙……バイバイ」
地面に倒れ伏したままの彼女はそう言って微笑み、涙を溢した次の瞬間。
何かが、降って来た。
随分と大きな鉄の塊。
車とか電車とか、そう言った物をぐちゃぐちゃにまとめた様な歪な物体。
そんな物が、紗月の真上から降って来て……そのまま、彼女の事を押しつぶしてしまった。
なんだ、これ。
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