第35話 乱入者
「紗月……」
「
指定の場所へと足を踏み込み、Redoの世界へ入った瞬間。
完全に周囲を囲まれていた。
端末でも確認したし、分かってはいた事なんだけど。
とりあえず、現場に到着した所でパーティの二人には現在地だけ送っておいたが……。
「私は今日、“話”をしに来たの。その認識で良いんだよね?」
「RISAも中々図太い、というかお馬鹿さんだよねぇ。この状況でそんな事が言えるんだから」
そう言って彼女が周囲に視線を投げてみれば、周りの男達がゲラゲラと笑いだす。
あぁ、嫌だな。
どこからどう見ても私だけが異分子で、数の多い彼等の方が正義。
そんな空気を、ひしひしと肌で感じる。
「メールでは話がしたいって言ってたよね? なのに、周りの人たちに守って貰わないと話も出来ないの? 随分と甘えた生活を送ってるみたいだね? 紗月って一人っ子? 我儘言っても大体許して貰えた感じかな? 正直、羨ましいよ」
「はぁ? なに煽って来てんの? 学校では周りに人を侍らせて、ゲラゲラ笑いながらお高く留まっていたのはそっちでしょ? 自分の都合が悪くなったら、今度は急に被害者面する訳?」
明らかにイラついた様子を見せる紗月と、周囲で敵意を向けて来るプレイヤー達。
多分彼女の一言があれば、すぐにでも飛び掛かって来るのだろう。
本当に、どうしてこうなってしまったのか。
この他人を引き付ける能力“だけ”だったら、とんでもない才能だったと思うのに。
いらない一手を、私が与えてしまったんだ。
「そうだね。ひたすら周りに合わせて、“普通”に生きてこようとしていたのが私だよ。そんな自分が嫌いだし、今でも紗月にゲームの招待メールを送った事を後悔してる。私ね、最初だけだったんだよ。Redoと本気で向き合ったの。その後は、何とか生き残ろうって足掻いていただけ。だから、気が緩んでたのかな。よく考えれば、絶対招待メールなんか送らなかったのに」
もしかしたら、一人で戦い続ける事に疲れてしまっていたのかもしれない。
誰かに、私の秘密を共有して欲しかったのかもしれない。
でもそれは、相手の人生さえどん底に堕としてしまう程最悪な“招待”だった訳だが。
「うんうん、自分語りがしたいなら後でゆっくり聞いてあげるから。とりあえず本題に入ろう? 私からしたらさ、RISAの葛藤とか興味ないの。リアルでも楽しくやってた奴らが、“こっち側”でも楽しくやってるっておかしいでしょ? 私の苦労や苦悩なんて、貴女には分からないよね? だから、分かってあげるつもりもない。けど、愚痴くらいは聞いてあげるよ。こっち側で“友達”にはなってあげるよ。だからさ、私の兵士になってよ。そうすれば、また一緒にいて“あげる”から」
そう言って、彼女は微笑んだ。
あぁ、そうか。
もう、駄目なのだろう。
私の言葉くらいじゃ彼女は変わったりしないし、普段の私を見ていたからこそ信用さえしてもらえない。
紗月は、私の事を間違いなく“友達”なんて思ってもいないのだ。
ただただ道具として、替わりの利く駒として見ている。
彼女は、女王蜘蛛。
Redoにおいて新たな“賞金首”として君臨した、化け物に成り下がってしまったんだ。
「そっか。分かった、私も決めたよ」
「そうそう、そうやって良い子で言う事を聞いていれば待遇だって――」
「紗月。私は貴女を“倒す”わ」
「はぁ?」
剣を引き抜いてみれば、今にも飛び出してきそうなプレイヤー達が更に敵意を向けて来る。
あぁもう、本当に。
何やってるんだろうな、私。
こんな馬鹿げた戦闘、“初戦”以来だ。
「ちなみにさ、私を取り入れて……あぁ、ううん。私なんか駒の一つだもんね。人を集めて、紗月は何がしたかったの?」
乾いた瞳を浮かべながら、彼女に向かってそう問いかけてみれば。
紗月は周囲に、随分と数の増えた羽を伸ばしながらギリッと奥歯を噛みしめてみせた。
「“iris”だって言ってるでしょうが。一応教えといてあげる、私は他の賞金首を狩るわ。最初に
その一言に、思わずポカンと口を開けてしまった。
なるほど、そう言うことか。
彼女がescapeに興味を示した理由が一瞬分からなかったが、むしろ彼からちょっかいを出していたのか。
そりゃ焦るよね。
名前も住所も、過去の事さえ調べ上げられちゃうんだから。
「結構不思議なんだけどさ、聞いても良いかな?」
「なに? 雑談でもして時間でも稼ごうとしてる訳? 生憎とRISAはソロプレイヤーだって事は分かってんのよ。助けなんか来ないわよ?」
喋っている間にも、紗月が“糸”を周囲に張り巡らせていくのが分かる。
私がソロだと思っていて、これだけ人数が居て。
それじゃ、なんでそんなに“保険”を作っているのかな?
貴女が手を下すまでもなく、数の暴力で押しつぶしてしまえば良いのに。
「escapeは怖いのに、黒獣とかは怖くないみたいに見せる。つまりさ、“リアル”の方に関わられるのが怖いんだよね? もちろん身バレとかは私だって怖いけどさ、ソレ以上に。紗月は、“現実”の情報を怖がってるよね? だから“こっち側”なら、仮想の自分を前に置ける状況なら怖くないんだよね?」
「……黙れ」
見る見るうちに、彼女の顔は歪んでいった。
紗月の鎧は、ほとんど隠れていない。
だからこそ、情報が多い。
Redoにおける鎧は本人の心そのもの。
存在を隠しながらも“見て欲しい”という欲求の表れが、彼女の鎧なのだろう。
「私はリアルの方でちゃんと友達になりたかったよ。でも、ごめんね。“こっち側”が紗月の生きやすい世界だったとしても、今日ソレを壊しちゃうかもしれない。私、パーティ組んだんだ」
「さっきから……なんなの!? まるで余裕を見せびらかすみたいに、淡々と語っちゃってさ! アンタに仲間が出来たから何なのよ!? じゃぁさっさと呼びなさいよ! 私を“倒す”んでしょう!? この人数を覆せる程、理沙には“こっち側”での知名度が無いように思えるけどね!」
急に怒り出した紗月が、此方に向けて糸を伸ばして来る。
ソレに合わせて、周囲のプレイヤーも襲い掛かって来た。
このままなら、負ける。
だからこそ姿勢を下げて、足に力を入れた。
「私だっていつまでも弱いままじゃない、絶対勝つから! 行くよっ――」
「俺も混ぜろ」
「へ?」
今にも駆け出そうとしていた私の目の前に、ズドンッと音を立てて黒い鎧が降って来た。
いや、え?
確かに現在地情報は送ったけど、到着するの早すぎない?
しばらくは、というか最後まで一人で戦う事だって覚悟していたのに。
でも、私が“狩られた”後。
彼女を止めて欲しくて、情報を流した。
だというのに。
「リベンジだ、蜘蛛女。前回みてぇに簡単に終わると思うな」
「これはまた……随分と悪趣味なお友達が出来たみたいね、RISA」
頬を引きつらせる紗月に向かって、黒獣はちょいちょいっと指先で手招きながら煽ってみせるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます