第34話 権限


 そもそも“向こう側”はゲーム世界だ、まず食べるモノがない。

 水さえ飲めるか分からないんだぞ? 人間絶食したままなら、そう長く生きていられる筈が……いや、コンビニとかもゲーム内で再現されているから、一応飲食は出来るのか?

 でもゲーム参加中に、そういった欲求が湧いた事は一度も……そこまで考えて、ゾッと背筋が冷たくなった気がした。


「リユ。プレイヤーがゲームに参加している間、現実の方の体はどうなってるんだ?」


『消失しております、鎧の中にご自身の体がある事を確認したはずです』


「あれはVRっていうか、まぁゲーム世界な訳だよな? ログアウトした時に、何故最後に居た地点に身体がある? こういうのは妄想の話になってしまうけど……こう、体がデジタル化とかされて、戻って来る時にコンバートされるみたいなアレなのか?」


『申し訳ありません、その質問に答える“権限”が私にはありません。というより、調べる事すら出来ないのです。つまり、私も“知らない”と答える他ありません』


 どういうことだ?

 物凄く今更だし、疑問を抱いた事もあった筈だ。

 でも、なんとなく“そういうもの”なんだろうと目を逸らして来た事実。

 しかし今の話を聞いてから、非常に気味の悪い代物に思えて仕方ないんだが。


「ちなみに、俺もログアウトせずにRedoの世界に居続けた場合どうなる? 腹は減るのか? 眠れるのか?」


『申し訳ありません、その質問に答える“権限”がありません』


 同じ言葉を繰り返すリユ。

 “権限”ってのをやけに主張してくれるが、データ閲覧の権利みたいなモノなのだろう。

 こればかりは、相棒に当たっても仕方がない。

 そう、分かっている筈なのに。


「リユ、答えてくれ。Redoってのは、何なんだ? あそこは、“何処”なんだ?」


『申し訳ありません……』


 グッと端末を握りしめながら、奥歯を噛みしめた。

 必要な答えが何も分からない。

 しかも知ろうとしているのは、訳の分からない別世界の様な規模の話に思えて焦燥感ばかりが募っていく。


「Redoってのは何が目的なんだよ……このまま戦い続けたら、俺もその“狩人”みたいになるって事か?」


 思わず足を止め、リユを睨みつけてみるが。


『すみませんマスター。“Redo端末”として、それらの質問にお答えする事は出来ません』


 やはり、そう返って来るか……なんて、ため息を溢してしまう訳だが。

 ちょっと待て、なんか今の言い方引っかかったぞ。

 端末としての制限で、“質問に対して答える事”が出来ない。みたいな。

 調べる事も出来ないと言っていたから、コイツをいくら問いただした所で“答え”は見つからないのかもしれないが。

 それでも何かしら手掛かりは持っており、ソレを俺に伝えようとしている様な。

 つまり、俺の聞き方が悪い?


「だったら、“リユ”としての意見を聞かせてくれ。詳細情報やら、事実じゃなくて。お前の考えと予想を、雑談として聞かせてくれないか?」


『待ってましたぁ! 流石マスター! 普段は冴えないくせにこう言う時だけ鋭いっ! 此方からRedoに深く関する情報の提示、質疑応答に関してはブロックされているみたいなので、持ち主から回りくどい聞き方をされないと音声出力出来なかったんですよねぇ』


「いろいろと余分な事を言ってくれるな、相変わらず」


『でもでも、まだちょっと足りないんですよ。なので、私がベラベラ喋れる権限を頂けませんかねぇマスター? ほら、コレはRedo端末が説明するんじゃなくて、“私”が勝手に妄想垂れ流している的なニュアンスに。運営もガバガバですから、サクッと解除しちゃってくださいな』


 なんかもう、先ほどのテンションと変わり過ぎて思い切り溜息が零れた。

 これからRISAの所に救援行かなければならないというのに。

 今から気疲れしてしまったよ。


「それじゃ、リユ。“お前”の予想と妄想を垂れ流せ。情報提示としてではなく、“リユの思っている事”を聞かせてくれ。俺は何も質問したりしない、聞き流すかもしれない。だからいつもみたいに、ベラベラ喋っていて良いぞ」


『うへへへ。私は適応能力の高いマスターに貰われて、大変幸せ者ですよ。そんじゃここからは完全に私の妄想話なので、“聞き流しちゃって下さい”な。マップは随時更新しますから、ソレに従って進んで下さい』


 いつもの調子に戻ったリユが、escapeから貰ったマップ機能をこれでもかと活用しながらナビゲートし始めた。

 何か凄く有能に見えるけど、大半はescapeの技術力なんだよな。

 なんて、呆れた笑みを浮かべてから。


「あいよ、頼むぞ相棒。現場に到着したらすぐに“向こう側”に行く事になるだろうから、手短にな」


『了解でっす! 猿でも分かる程端的単純、そんでもって今後マスターが気を付けるべき事をお伝えしますね!』


「猿でもってのは余計だ」


 声を返してから、再び路地を走り出した。

 色々と面倒な問題が湧いて出た気がするが、とりあえずはRISAだ。

 あの子だって俺達のパーティメンバーだし、何よりこんなゲームに参加していながら“染まっていない”人物。

 更にはまだまだ若者で、女の子と来たなら。


「守ってやんなきゃな。仲間としても、大人としても。あぁいう子は死なせちゃいけないってもんだ」


『マスターがもう少し若くて独身なら、ラブストーリーでも始まりそうなんですけどね』


「その手の話は間に合ってるよ、それに俺は既婚者だ」


 相変わらず鬱陶しい相棒に返事をしながらも、ひたすらに人気のない道のりを走り続けるのであった。


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