第33話 狂者の結末
『ういっす、おっさん。出撃の時間だぜぇい』
急に送られて来たメッセージ。
普段通り軽い様子のescapeが、そんな事を言って来た。
『随分と忙しいですね、昨日の夜もアレだけプレイヤーを減らしたのに。ここの所毎日だ』
『むしろ最近の行いが引き金になっちゃった感じかな? 向こうも焦り始めたって事』
『というと?』
何やら不穏な空気が伝わって来るが、果たして何が起こったのか。
『irisは兵隊が減った事により、新しい手駒を求めてる。各地から人を集めるのは勿論の事、新しい兵隊も。そんでもって一番仲間にしやすそうな、それでいて“それなりに強い”相手を誘いに動いたって事だよ』
『すみません、前半は分かるのですが後半の意味が良くわかりません』
確かに先日から暴れ回っていた連中は、escapeの調べで彼女の配下だという事が判明している。
相手が求めているのはポイントか、それとも知名度を上げようとしているのか。
こればかりは分からないが、それを端から潰した俺は完全に相手から敵視されているだろう。
そして、彼女が誘い易い相手……と言えば。
『ウチのお姫様に手を出したって言ってんの。RISA、白姫様があの蜘蛛女に呼び出しくらってるよ。しかもソレを受けちまった、一人で行くつもりみたいだぜ?』
多少予想はしていたが、最悪の形が実現してしまった。
でも彼女達は、前回の戦闘で対立したのではないのか?
いや、考えるのは後回しだ。
『本当ですか!? ならすぐに助けに行かないと!』
『でも、RISAは俺達に救援要請をしてこない。何でだと思う?』
『そんなことより、すぐ助けに行きましょう。事情なんて後で聞き出せば良いだけです、場所を教えてください』
『あぁ、やっぱり。アンタは良い人だよ、全然Redoには向いてない。だからこそ言うよ、“呑まれんな”よ? おっさん。このままだとアンタ、マジで“向こう側”から帰って来られなくなるぜ?』
escapeからの問答に首を傾げながらも、外出の準備を始めた。
とはいえ、簡単な着替えを済ませればすぐにでも飛び出せるわけだが。
「なぁリユ、彼の言い方。何か変じゃないか? どう思う?」
準備しながら声を上げてみたものの、リユから返事は返ってこない。
はて? 今までこんな事はなかった気がするのだが。
普段は何をしなくてもずっと喋り続けている様な奴なのに。
「リユ?」
『すみませんマスター、考え事をしていました』
「珍しい事もあるんだな、AIが考え事か」
軽口を叩きながら相棒をポケットに突っ込み、玄関を飛び出した。
本来ならRedoに接続して、スクリーマーを使いながら移動した方が速いのだが……ちょっと周りにプレイヤーが多い様だ。
この状態で強襲を食らったら、より時間が取られてしまう。
そんな訳で、現地に向かって回り道をしながら走り始めた訳だが。
『マスター、以前にもお話しましたが“スクリーマー”は貴方の心が生み出した鎧です』
「今更なんだよ、それがどうした? 俺自身びっくりするくらいに悪党だったって事は理解してるよ」
走りながらリユの声に答えてみれば、相手からは再び沈黙が返って来た。
本当にどうしたというのだろうか、何か今日は皆変だ。
RISAは今まであまり会話した事はなかったが、ここまで独断行動を取るタイプでは無いように思えた。
そしてescape。
彼もまた何だか意味深な事を言っていたし、何より今日は煽って来なかった。
普段の彼なら、此方がちょっとイラッとするくらいの文章を送って来る筈なのに、今日だけは何だか心配されているように感じた程だ。
最後にリユ、コイツが一番おかしい。
いつものコイツなら、アホな事を言ってキャッキャと笑いながら場を盛り上げそうな筈なのに。
本日は随分と大人しくなってしまった。
本当に皆どうした?
せっかくパーティを組んだのだ、俺としては仲良くやりたいと思うのが本音なのだが……。
『欲望とは、欲しいという気持ちです。しかし人はソレを理性で抑制する、ソレが正しい姿です。ですがもし、無理矢理それを解放する機会があったらどうでしょう? その時間が長ければ長い程、感覚は馴染み、理性が壊れて行く』
「俺が“向こう側”でぶっ壊れてるって話か? 今更だろそんなの、どうしたお前。テンション低過ぎて気持ち悪いぞ」
言葉を紡ぎながら曲がり角を曲がった時、思わず建物の裏に身を隠した。
視界の先に居る集団、Redoプレイヤーだ。
escapeから貰った資料に、アイツ等の顔写真があったのを覚えている。
irisの仲間だというのは記憶しているが、まさかこんな所をウロウロしているとは……。
「迂回する。リユ、案内を頼む」
声を上げれば、端末には再検索されたルートが表示される。
よし、これで戦闘せずにRISAの元へ迎える筈だ。
とかなんとか考えながら走り出してみれば。
『最終的に、離れすぎた人格を理性が切り離して二つに分けてしまう。コレも“二重人格”の一種だと言われています』
「なぁリユ、その話今じゃなきゃダメか? 今結構忙しい状況だと思うんだけど」
未だ訳の分からない言葉を紡ぐリユに、少しだけ苛立ちを覚えながら足を動かしていれば。
『“スクリーマー”は他の鎧と比べて、異常なほど理性を奪っているのは事実です。そして過去にも“そういう”事例があったそうです。そしてその人物は、帰らぬ人となりました。escapeに調べてもらった内容なので、間違いない事実の様です』
「このまま暴れるだけじゃ俺も死ぬかもって言いたいのか? これでもRedoプレイヤーだ、鎧云々の前に死ぬ覚悟くらいしているつもりだ。いざその状況に陥った事も無い人間のいう事だから、自分でもどこまで覚悟が出来ているかってのは分からないが――」
『そうではありません。言葉通り“帰ってこなくなった”んですよ、Redoの世界から。今でも狩人として“あちら側”に滞在しているそうです。精神的に二つに分かれただけではなく、完全に“向こう側”に呑まれてしまった様です。マスターの場合で例えるのなら“スクリーマー”が完全に貴方という人間に成り代わった、という事態になります』
「……は?」
いや、無理だろそんなの。
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