第32話 決意
アナタが招待したプレイヤーが、Redoに登録してから一か月が経過しました!
これからもドンドン仲間を増やして頑張って行きましょう!
紹介ボーナスとして、ポイントを贈呈致します。
今後とも、Redoの世界をお楽しみください。
「なんて……本当、ふざけたメールを送って来るんだね。運営は」
表示された文字の羅列を眺めながら、ベッドの上で思い切り溜息を吐いた。
紗月を“こちら側”に引き込んでから、早一か月。
あれから彼女は学校に来ないし、学校側で連絡を取ろうとしても家族すら電話に出ないとの事。
まだ何も分からない状況だから、あまり大袈裟に噂したりしないようにと教師には釘を刺されてしまったが……クラスの皆は、当初彼女の噂で持ち切りだった。
なんたって彼女が最後に姿を見せたその日。
紗月はまるで別人なんじゃないかって程に、可愛らしい姿をしていたのだ。
当然目を引くし、あの変わり様には男子生徒だって興味を持った。
だというのに、まるで何かの事件に巻き込まれたんじゃないかって程、パッタリと連絡が取れなくなったとなれば。
誰だって気にはなるのだろう。
今までは彼女が居ても居なくても気にしなかった癖に。
そして人間とは、時間が経つと忘れてしまう生物な様で。
一か月も経てば、徐々に紗月の噂をする者も少なくなっていった。
「とか言っても、巻き込んだ私が言える立場じゃないよね……」
『あの場合では仕方なかった気もしますけどね。姿を見られた以上、身を守る術を用意した方が何かと楽です。今では黒獣とパーティを組んでいますが、当時は敵同士。素顔を見られたなら、危険には変わりありません』
「そうなんだけどさぁ……」
珍しくリズから励ましの言葉を頂くが、かといって気分が晴れる訳ではない。
もしもあの時こうしていたら、違う選択をしていればという後悔が消えない。
私が“巻き込んだ”と思っていた筈のプレイヤー。
相川紗月、プレイヤーネーム“
本日、彼女もまた“賞金首”に登録された。
Redoにおいての賞金首、それは文字通りの指名手配犯って訳じゃない。
ソイツを狩れば普通では手に入らないポイントを手に入れられるという、要は通常とは一線を凌駕したプレイヤーの総称みたいなものだ。
この通知が来てから、更に気分が重くなった。
「私のせい、なのかな」
『きっかけがマスターだっただけであり、元から彼女は狂っていた。そう捉えるべきかと』
リズの言葉を聞きながら、深い息を吐いてしばらく目を閉じた。
私をRedoに誘った友人も、こんな葛藤に苛まれたのだろうか?
ある日突然連絡が来て、“助けて”と告げて来た彼女。
普段はそんな事を言う子じゃなった。
誰よりも強くて、頼もしくて。
皆から好かれるムードメーカーだった人物。
でも、それは彼女が“作った”彼女だった。
ソレが見て分かる程に、友人の“鎧”は貧弱だったのだ。
言葉は悪いが、そういう他なかった。
どんな攻撃からも守ってくれず、常に負け続ける様な。
そんな彼女が、泣きながら私に助けを求めたのだ。
地味で何も無くて、バイトばかりしていたせいで友達もろくに居なかった私に。
“助けてくれ”と確かに言葉にした。
その手を取ってしまったから、今の私がある。
後悔なんてしていないけど、人生に“狂い”が発生したのは間違いなくあの時だったのだろう。
「私が居なければ、狂わなかったのかな」
何の意味も無い台詞。
分かっている、分かっているのに。
どうしても呟いてしまった。
結果。
『悲劇のヒロインを演じたいのなら、存分にどうぞ。貴女の脳みそでは、一つ困った事が起きたら全てそっちに持っていかれてしまうのでしょうから、存分に嘆き悲しんでください』
「ちょっ……と、えぇ。その言い方は流石に酷くない?」
突然暴言を吐きだしたリズを手に取り、正面に持って来てみれば。
『いい加減鬱陶しいと言っているのですよ。こんなゲームに参加しておいて、何をグダグダ言っているのですか? 貴女が居なければirisはあそこまで狂わなかった? えぇそうでしょうね、しかしソレは彼女自身が求めた結果に過ぎません。ですが貴女は、何のためにRedoプレイヤーになったんですか? 貴女に助けを求めたプレイヤーは、貴方が居なければ良かったと嘆きましたか? 違うでしょう? 貴女だからこそ、助けを求めたのでしょう? ソレに答えようと必死になった結果が、あの真っ白い鎧です。貴女が自らを否定する事は、既に許されません。それは貴女の亡き友人に対しても、自らに対しても冒涜に他なりませんよ?』
なんか、物凄く早口で怒られてしまった。
リズがこんなに喋ったのなんて初めてかもしれない。
思わずポカンと口を開け、間抜け面を晒していれば。
『グズグズと悩んでいる暇があるなら結果を残してください、マスター。今や貴女は周りに置いて行かれています。はっきり言って戦力外です、だから呼び出しも掛からないんですよ。フレンドリストを見て下さい、貴女以外、皆賞金首です』
「あ、はい」
言われるがままリストを開けば。
iris、AK、escape。
誰も彼も、随分と遠い存在。
今では紗月だって、彼等の仲間入りを果たしてしまった程に。
『その貧弱な白い鎧で、誰かを守れるのですか? いざという時、駆け付けられるのですか? 仲間達は皆、“先”に居ますよ? これから先、再び守りたい誰かが現れたその時。貴女は、どうしたいのですか? 巻き込んでしまった友人を、どうしたいのですか? 嘆くだけでは、全てを失いますよ?』
その言葉は、胸の奥深くに突き刺さる様だった。
そうだ、私は強くなりたかったんだ。
友人を守る為にとにかく強く、とにかく速く。
ただただ状況に流されるだけではなく、状況を切り開く強さが欲しかった筈だ。
もしも私が強ければ、そもそも紗月を巻き込まなかったかもしれない。
もしも私が強ければ、黒獣達とだって対等に話せたかもしれない。
もしも私が強ければ……この先、もう友人の死を見る事は無いのかもしれない。
「……ごめんね、リズ。私決めたよ」
『はい、何を決めましたか?』
呟いてから起き上がってみれば、相棒からは真っすぐな声が返って来た。
迷うな、強くなれ。
Redoという殺し合いゲームに参加している時点で、ココで得られるお金を使っている時点で、私は綺麗でも何でもない存在なのだから。
だったら、もっと汚くなれば良い。
薄汚れて、ボロボロになっても。
誰かを守れるプレイヤーになれれば、それで良いじゃないか。
「今持っているポイント、全部使う。それから、ガチャも回す。徹底的に鎧を強化するよ」
『やっと吹っ切れましたか、マスター。貴女が強くなれば、選択肢が増えます。それは、とても良い事だと思われます。いくら何でも急にフレンド同様まで強くなれとは言いません。しかし“強くあれ”と、願っております』
なんだか優しい声を上げ始めるリズに、何となくムズ痒くなってくる想いだが。
「それじゃまずは性能を見直して、足りない所を補って行こう! 納得できる所まで行ったら、その後はガチャ。スキルが出たら、その都度考えて鎧を調整しよう! いらない武器とかも全部売るよ!」
『了解ですマスター! どんどん行きましょう! ……と、言いたい所だったんですが。急いだ方が良さそうです』
「へ?」
急に不穏な事を言い始めたリズが、突然メール画面を表示し始める。
そこには新着メール一件の表示が。
差出人の名前は。
「……紗月」
『どうやら、向こうから仕掛けて来るようです。しかし相手は黒獣とescapeの情報は掴んでいない筈、急ぎましょうマスター。irisは私達を前菜程度に考えています、舐められています。だったら、本気を出す前に叩き潰してしまうのが一番の得策です』
「だね。私達だけでどうにかしようとまでは言わないけど、私達だけでも出来る範囲を広げておこう。黒獣とescapeに頼るだけじゃ、間違いなく紗月は狩られて終わる。Redoから完全に切り離す事は出来なくとも、せめて生きていて欲しいよ。偽善だろうが何だろうが、身近な人が居なくなるのは……やっぱり嫌だ」
それだけ言って、私は鎧の強化を始める。
紗月のメールには、今夜会って話せないか? という内容が綴られていた。
であれば、出向いてやろうじゃないか。
きっと彼女は、多くの仲間を連れているだろう。
ただの疑心暗鬼であれば、私の性格が悪いだけで済むのだが。
escapeから貰った新しいマップ機能。
そこに表示される彼女は、多くのプレイヤーに囲まれているのだから。
「紗月、アンタの端末をぶっ壊してでも……絶対に止めてあげるんだからね」
呟きながらも、今まで溜め込んだポイントが目に見えて減っていくのであった。
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