第31話 電子の亡霊
「こんな事しちゃって良い訳? リユ。しかも君のマスターに内緒で」
『えぇ、少々気になる事がありまして。“スクリーマー”を調べて頂きたいのです。Redoの奥深くまでアクセスできる貴方にしか頼めないお仕事ですから。よろしくお願いします、
通話状態で繋がっているのは、相手の端末の“リユ”のみ。
持ち主である“AK”には、この会話は聞かれていない状態。
というか本人は、今まさに戦闘中だ。
おかしな話を持ち掛ければ、此方が狩られかねないと思ってしまう程の暴れっぷり。
仲間に誘っておいてなんだが、恐ろしいプレイヤーも居たモノだ。
人とは、あそこまで理性を捨てられるのかと感心してしまう。
コレが狂った殺人鬼とかならまだ納得できるのだが。
リアルの方では、そこらの人間よりずっと社交的に見える人物なのだ。
人は見た目では分からないってヤツなのかね。
「プレイヤーネーム“AK”、
『私が知りたいのは“マスター”の話ではなく、“スクリーマー”です。彼の過去なら、私にだって話してくれますから。相棒として、それくらいの信用は得ています』
ピシャリと言葉を遮って来るリユの声は、どうにも人間臭かった。
Redoの端末にも色々ある。
性格が違ったり、口調が違ったり。
ウチの“ゴースト”なんか、必要な事以外ほとんど喋らないし。
「リユ。君……俺が黒獣に接触した時、気が付いていたよね? でもあえて接近を許した。それは主人の能力を信用しているから、なんて言えば聞こえは多少良くなるかもしれないけど。お前、“この為”に俺を引き入れたな?」
『何を仰いますか、フレンドになりたくて近づいて来たのは貴方ですよ。想像でモノを語らないでほしいですね』
「へぇ、しらばっくれるんだ」
『事実を述べたまでです。たまたま私達にとっても、そちらにとっても都合の良い存在同士が出会った。偶然とは不思議なモノですね』
よく言うよ、ホント。
そもそも、俺に対して“匿名”で
Redoのフリー掲示板、そこで明らかに此方に対してのメッセージを残した。
周辺でまた特殊個体が生れる可能性がある、新しい“賞金首”になりえる存在だと言って。
だからこそ、その誘いに乗った。
面白そうだったから。
新しい賞金首も、勝手に動き回るRedo端末も。
「それで、何が知りたい? 君達の方がこのゲームには詳しいだろうに。プレイヤーである俺に何を問いかけるんだい?」
『先程言った通り、“スクリーマー”のステータスを奥深くまで探って下さい。そして、Redoに関わった事で“一つの存在が二つに変わってしまった現象”などが無いか。過去のプレイヤーの記録を。私達では、他のプレイヤーを直接探る“権限”がありませんので』
「随分と大事にしているんだねぇ、君のご主人様の事を」
『いけませんか?』
「いや、羨ましいと思っただけさ」
それだけ言ってから、ウチの端末を撫でてみれば。
画面上に、イライラしていますと言いたげなアイコンだけが表示された。
こいつ、“ゴースト”は。
俺の“表側”のテンションと同じく、喋りたがらない癖に画面の向こう側だったら感情を表してみせる。
だからこそ、この“リユ”の様に俺の事を心配してくれるのかと聞かれれば……ちょっと分からない。
「ま、いいや。了解したよ。でも報酬は貰うよ? 少しだけポイントを、なんてケチ臭い事は言わないんだろ?」
どうせこんな事になる事が分かっていて、“彼等”と組んだのだ。
だったら、今更文句を言った所で時間の無駄というモノだろう。
そして、相手からの返事を待っていれば。
『私から差し出せる物は多くありません。なので……』
やけに引っ張るじゃないか、リユ。
やはり君は、Redoの端末にしてはどうにも人間臭い。
まるで他とは違う個体みたいに。
『プレイヤーネーム“iris”のスキルを譲渡します。奪えるスキルはランダムですから、確定したお約束は出来ませんが。アレだけ急速に育っている個体です、割と良いモノが手に入るのではないかと』
こいつはまた、おかしな事を言いだした。
「まるでirisとの対決に、黒獣が絶対に勝つと言っている様な物言いだね。それに彼女のスキルを奪ったとなれば、黒獣が手放すとは思えな――」
『問題ありません。マスターは使用できるスキルが手に入らなければ、確実にポイントに替え、換金または鎧を強化するよう指示を出して来ます。なので、私の管理下に入ります。そしてマスターなら、間違いなくirisに勝利するでしょう。負ける要素が見つかりません』
随分と自信満々に言い放つじゃないか。
なんて声を返してやろうかと思ったが……無粋というものだろう。
リユだって、感情だけで言葉を紡いでいる訳ではない筈だ。
そして俺から見ても、彼があの女王蜘蛛に負ける未来が視えない。
だったら、悪くない話だ。
『ですが、“勝ち過ぎてしまう”状況になった時が問題なのです。なので、早めにお願いします。嫌な予感がするんです』
「Redo端末に宿るAIが、これまたおかしな事を言うじゃないか」
『私の様な存在が語る“予感”です。この意味が、分からない貴方ではないでしょう?』
その言葉に、思わず口元が吊り上がった。
本当に、退屈しないよこのゲームは。
覗き込めば、更に深い闇が見えて来る。
だからこそ、止められない。
「良いだろう、受けるよ。でも、確実な情報が得られるかは分からない。相手はそこらのスパコンどころの話じゃないからね」
Redo、この訳の分からないゲーム。
完全にファンタジーに片足を突っ込んだ、絵に描いた様なデスゲーム。
その真相を見る挑戦を、今一度始めようじゃないか。
一度は失敗し、そのせいで“賞金首”に指定されたというのに。
我ながら、懲りないものだとは思うが。
「面白くなって来た」
『貴方も大概……狂っていますね』
「そうじゃなきゃRedoプレイヤーには選ばれないさ」
皮肉合戦を最後に、俺達は通話を終えた。
黒獣の戦闘はまだまだ続いている。
先ほど次の目標地点を送信しておいたので、体力お化けは今でも建物の上を走り回っていた。
仲間の雄姿を眺めながら、こっちはこっちの戦闘準備を始めようじゃないか。
「あぁ、本当に。電子の未知ってのは面白いね」
呟きながら、周囲の機器と鎧を繋いだ。
コレが俺の戦う世界。
誰も居ない電子の世界で、0と1を相手にひたすら挑み続ける。
こんな事を、もう何年続けて来ただろうか?
それでも、真相にはたどり着けない。
だから、今日も一人で戦うのだ。
『一人じゃない』
「……そうだった、今日もよろしく。“ゴースト”」
そんな訳で、本日も徹夜で電子の世界を旅するのであった。
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