第14話 人の本性


「ちょっと紗月、本気で言ってるの?」


「本気だよ? 身を守る為には、まず自分達が強くならなきゃいけないでしょ?」


 こんな調子で、連れて来られたのは駅前。

 多分、この街で一番人が集まる場所。

 そんな場所で、彼女は隠す事無くRedoの端末をイジっている。


「ほらほら、やっぱり居るよ! 1、2、3……5人も居る! こんなに居るのに誰も対戦してないんだね」


 何故か嬉しそうに、彼女はこちらに向かって画面を見せて来た。

 そこには彼女の言う通り、サーチに引っかかった五名のプレイヤーネームが。

 私の端末ではここまでの数が表示されていない。

 もしかしたら彼女特有のスキルか、端末の機能にも差があるのかも……でも。


「ね、止めよ? この人達は普段からココを使ってるからこそ、この駅を戦場にしたくないんだよ。Redoとは別に、自分の生活があるからココでは皆見て見ないフリをしてるんだよ。だから、ね?」


 なんて、紗月の肩を掴んでみれば。


「え? 何言ってるの? それ本心?」


 随分と冷たい瞳が、私の事を見ていた。

 この子、本当に私が昨日話していた紗月?


「昨日も思ったけどさ、理沙って甘いよね。だって命が掛かってるんだよ? だったら、もっと本気にならなくちゃ。そんなだから昨日も負けちゃったんでしょ? 教えてあげるよ、“ゲーム”の勝ち方。Redoの生き残り方。そしたらいっぱいお金も手に入るし、楽しいでしょ?」


 ……はい? この子は、一体何を言っているんだろうか?

 だって、紗月は昨日Redoに登録したばかり。

 元々格闘技なんかの経験がある様にも見えないし、ろくに戦闘なんて出来る筈ない。

 だというのに、この自信はなんだ?


「昨日も言ったよね? 私、ライブ配信してるの。それでね? 色んな人に聞いたんだ。どうやったら強くなれますかって。もちろんペナルティがあるから、色々伏せたけど。そしてたら、見て見て! こんなにフレンド送ってくれたの! 凄いでしょ? それにね、近くの人とかは協力してくれて、昨日の夜だけで十人以上は倒したよ! 凄くない? 期待の新人とか言われちゃった!」


 もう、何を言っているのか分からなかった。

 彼女の見せるフレンドリストは、それこそ百以上のプレイヤーが表示されている。

 今サラッと見せられただけだから、もしかしたらそれ以上かも。

 しかも昨晩の内に十人以上……倒した?

 それって、殺したのかな?

 しかもフレンドに協力してもらったって事は、多分タコ殴り状態だったのだろう。

 そんな状態で、彼女は人を殺したのか?


「でもやっぱり難しいよね、アバターの成長って。最初は全然攻撃通らなかったもん、相性が悪いだけだから気にするなって言われたけど。何度も何度も何度も攻撃して、やっと死ぬの。人間って意外と頑丈なんだね。それに連携も考えないと、すぐパーティがバラけちゃうし」


 このテンションからするに、ラストアタックを譲ってもらったとか、そういう訳じゃない。

 ちゃんと戦闘に参加している。

 もしかしたら、周りから押さえつけられた相手を彼女が一方的に攻撃して、色々と試していたという可能性はあるが。

 どちらにせよ、非常に怖い光景だ。

 私が一番嫌いだと思える、数の暴力を彼女は嬉々として行っているのだ。


「それにね、昨日会った“黒獣”? アレにも対策を考えたって、皆言ってたよ? だから、もう乱入されても大丈夫! 今日も周りで皆守ってくれてるみたいだから!」


 言っている意味が、分かっているのだろうか?

 アレともう一度対戦する。

 今までに二度見た私は、間違いなくそんな選択肢は選ばない。

 アレは、触れちゃいけないモノだ。

 関わっちゃいけないモノだ。

 Redoによって“壊れた”人間は数多くいるだろう。

 しかし彼は違う、多分元からだ。

 あの様子からするに、異常者とか犯罪者とか、そういう類だ。

 人を殺す事に全く抵抗が無いし、あまりにも“慣れ”過ぎている。

 そんなモノに、もう一度挑む?

 直接遭遇した事があるかも分からない人間が考えた作戦で?

 あまりにも、馬鹿げていた。


「あのさ、紗月。紗月が言う“皆”って……誰なの?」


「何言ってるの? “皆”は皆だよ。私のチャンネルに登録してくれてる人たちで、私のフレンドになってくれている人達。私のファンになってくれた人達、だから絶対裏切ったりしないよ?」


 怖い。

 ただただ、そう感じた。

 つまり、サーチの範囲に入らない程度の距離を保ちながら、多くの人が私達の事を認識している事になる。

 顔さえ見られる恐れがあるんだ、何故この状態に恐怖を感じない?

 誰かが裏切れば、その“皆”とやらが結託すれば、私達なんかすぐに潰せる。

 だというのに、何故彼女は名前も顔も知らない相手をココまで信用できる?

 そして。

 昨晩だけで多くの人を殺めながらも、何故そんな普通でいられるんだ?

 私は、とんでもない奴に戦場へ立つ切符を渡してしまったんじゃ……。


「はい、それじゃ申請するね? 私達はパーティだから、大丈夫だよ? 今度は私が守ってあげるから」


「ちょ、ちょっと待って! 紗月!」


「“フローズ”。今サーチに引っかかっている全員に対して、対戦を申し込んで。強襲ね強襲、逃げられたら嫌だし」


『……チッ。イエス、マスター』


 止める間もなく、私達は“向こう側”へと連れていかれるのであった。

 あぁ、最悪だ。

 私は今日初めて、“襲う側”に立ってしまった。

 


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