第12話 徐々に壊れていく
「リズ、紗月からフレンド申請とか……もしくはメールとか来てない?」
『その質問は本日十二回目です。申請が届けばお伝えすると言った筈、大人しくしていて下さいマスター』
ぶはぁぁと思いっきりため息を吐きながら、机に突っ伏した。
ダメだ、全然落ち着かない。
招待メールを送ったから、昨日の夜にはリズと同じゴツイスマホが届いている筈なんだけど……。
今の所、なんの連絡もない。
私個人のスマホの連絡先も教えたし、連絡手段がないって訳ではないと思うのだが。
更に言うなら招待を受け取った人物に関しては、招待者へのフレンド申請は最初から出来る筈。
フレンド登録さえしてしまえば、Redo端末同士でも連絡が取れるのだ。
でも、一切それらしい事がない。
結局その後どうなったのか、無事登録は済ませられたのか。
変な奴に絡まれていないかとか、色々気になってあまり眠れなかった。
彼女の家までは知らないので、突撃するって手段も選べなかったし。
もしかして使い方分からなくてフレンド申請の項目スキップしちゃったとか……普通のゲームに慣れている子なら、そんな事はないだろうけど。
紗月の場合どうなんだろう……などと何度も同じ事を考えながら、本日も机の上でダレていれば。
「理沙、昨日どうだったん?」
「根暗女子、どんな反応してた?」
ケラケラと乾いた笑い声を上げながら、クラスメイトが集まって来る。
あぁもう、頼むから寝かせてくれ。
こっちは二日続けてろくに寝てない上に、二回も死にかけているんだから。
なんて、言える筈もなく。
「普通に楽しかったよ。紗月、めっちゃ歌上手かった。プロみたいだったよ」
「え、嘘? 滅茶苦茶意外なんだけど」
「へ~マジか。今度一緒にカラオケ行こうよ、ウチも聞いてみたい」
コレだ。
彼女達には相手をイジメているとか、下に見ているという感覚そのものが無い。
興味を持てば食い付くし、興味が無ければ自然と相手を貶す言葉を紡ぐ。
正直、こういう感覚が一番怖いとは思うが。
本人さえ認識していないのであれば、反省や改善する事等あり得ないのだろう。
とはいえ、やっぱり付き合いというモノがある訳で。
「紗月がOKしてくれたらね。私ちょっと寝るねぇ、駄目だ、限界」
「あらあら、彼氏が寝かせてくれなかったのかしら」
「それとも夜の怪しいバイトかぁ? やるねぇ理沙」
勝手に言ってろ。
なんて思いながら眼を閉じれば、ざわざわと騒がしくなる教室内。
うっさいなぁ……少しくらいゆっくり眠らせてくれても良いじゃないか。
とかなんとか、内心ムカムカした心境で机に伏せていると。
「大葉さん……えっと、理沙って呼んで良いって言ってたよね? おはよ!」
「ふぇ?」
急に随分と明るい声を掛けられ顔を上げてみれば、そこには知らない子が立っていた。
綺麗に纏められたツーサイドアップ、っていうんだっけ?
長い前髪も、まるでアニメか何かのキャラクターみたいに綺麗にセットされている。
キラキラした大きな瞳をこちらに向けている彼女は、まさか。
「紗月?」
「そうだよ? どうかな、えへへ。実は、配信スタイルなんだけど」
そんな事を言いながら首を傾げて見せる彼女は、どっからどう見ても美少女という他なかった。
昨日まで掛けていた眼鏡は何処に行ったのよ。
そんでもってキチッと着こなしていた制服は緩く着崩しており、今までよりずっと軽い雰囲気になっている。
軽いとは言っても、ギャルみたいとかではなく絡みやすそうって意味ではあるが。
化粧に関しても完璧という他無い。
私達みたいな学生が流行りに乗ってベタベタ塗りたくる様なモノではなく、専門の人に化粧してもらったかのような、彼女に合ったメイク。
「えっと、驚いた。凄いね、可愛い」
「あ、ありがと……なんか恥ずかしいけど。あっ、それから昨日届いたよ! コレ!」
そう言ってポケットからRedo端末を取り出し、ズビシッ! とばかりに掲げる紗月。
慌ててソレを隠す様に身体を動かし、周りから見えない様に遮ってから。
「ちょっ! ちょっっと仕舞おうか! ダメダメダメ、どこにプレイヤーが居るか分からないんだからね!?」
「あ、そっか。プレイヤーは皆同じ物を持っているんだっけ?」
なんて、随分と軽い雰囲気で再びポケットに端末を仕舞う彼女。
本当に、昨日と同一人物だよね?
なんか雰囲気から違うと言うか、人格が変わったみたいに明るいんだけど。
「あ、そうそう。フレンド機能、次の休み時間にでも送るね!」
「えーっと、使い方とか……」
「大丈夫だよ、昨日の内に全部分かった。だから心配しないで!」
「あ、うん。うん?」
それじゃあね、と自身の席に去っていく彼女が……なんとなく非常に怖く思えてしまったのは、何でなんだろうか?
昨日、あんな酷い戦闘を目にしたばかりなのだ。
また同じ様な相手が現れた場合、あの銃弾の雨が自身に降り注ぐとは考えていないのか?
もしくは、アレさえ簡単に防げる様な“アバター”を手に入れたのか?
全然分からないけど、今の彼女は……何と言うか。
“吹っ切れた”という言葉が一番似合うくらいに、楽しそうだった。
昨日までの俯いている彼女はもう居ない。
今では男子どころか女子まで彼女に視線を向け、ヒソヒソと噂している程。
しかもそれらは、どう見ても好意的な声を上げているんだろうと想像出来る。
それくらいに、周りが紗月に向けている瞳は今までの侮蔑とは程遠い物だったのだ。
『警戒を、マスター』
「まだ……分からないでしょ」
私がやった事が、間違いで無ければ良いんだけど……。
そんな事を思いながらも、本日もいつも通りに授業を受け始めるのであった。
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