第11話 端末能力
『マスター、本気ですか? こんなに稼いでるのに、仕事探しだなんて。さっきまで昨日の出来事に悶えていたのに、こんな現実逃避の仕方ってあります? よりにもよって新しい仕事ですか、ビックリですよ。ワーカーホリックなんですか? せめて依存するならお酒に煙草、ギャンブルに女関係。色々あるでしょうに、不健全ですよ!』
「うるさいなぁ……いや待て? リユが今例を挙げたモノの方が不健全じゃないか? とはいえまぁ何かしら職に就いてないと色々面倒なんだよ。子供の書類とか書くときに“職業欄”ってのがあって」
『あぁ~なるほど。それじゃ在宅業にしません? ほら、フリーランスとかで色々あるじゃないですか。ライターだとか、他国語の書類を日本語に直す翻訳とか。あとは普通の事務仕事なんかもありますよね?』
どれも出来ないって……事務仕事なら何とかなるかもしれないけど。
なんて、ブツブツと文句を言っていれば。
『応募しましたよー』
「おい、何してんの」
俺の元に届いたバカスマホは、どこぞの企業に勝手に履歴書を送ってくれたらしい。
ふざけんなよ、俺が出来る仕事なんだろうなソレ。
『お、テスト文章が送られてきました』
「お前何に応募したんだよ……」
『翻訳ですね。自動変換ではなくちゃんと相手が書いた文章の意図に沿って、更には日本人でも読んでいて違和感の無い文章に、だそうです。今回は英語の論文だそうで~ちょちょいっと、はいお終い。楽勝ですねぇ、送信~っと。マスター! 遊びましょう!』
何だろう、コイツ。
有能なんだか無能なんだかよく分からない。
というか、人の名前使って勝手に仕事するなよ。
ちゃんと和訳したんだろうな?
とかなんとか思っている内に、リユではなく俺のスマホの方が振動し始めた。
何やら知らない企業からメールが送られて来たらしい。
渋々ながらソイツを開いてみれば。
唐沢 歩 様。
株式会社〇〇の採用担当、○○と申します。
この度は当社の求人にご応募ありがとうございます。
試験の結果、唐沢様には是非弊社でのお仕事をお願いしたくご連絡させて頂きました。
契約形式は委託業務契約、フリーランスの方に依頼するお仕事となります。
歩合制の為、毎月の報酬は異なりますが試験結果を見る限り、かなりの数のお仕事をお任せできると判断いたしましたので――。
「……おい」
『はい、表向きはお仕事ゲットです。そっちはちょちょいっとこちらで対応しますので、マスターは毎月の振り込みだけを確認してくださいまし。そんな事よりホラ、このアプリなんて面白そうですよ! アクションゲームですから、戦闘の参考にしましょう!』
いいのかコレでと言いたくなる所だが、正直滅茶苦茶楽である事に間違いはない。
あぁ、こんな事ならRedo抜きでリユが欲しかった……。
こんなスマホがあったら、何の苦労も無く文字通り遊んで暮らせるじゃないか。
『やぁ~照れますね。そんなに褒められては会計、決算書類その他諸々までこっちでやっちゃいますよ? 確定申告もリユちゃんにお任せ! でもいくら求められても私は端末、貴方は人間。これは、叶わない恋――』
「よし、握りつぶすね?」
『Redo始めてからマスターの握力えげつないんで、マジで勘弁してもらます? あとちょっと“こっち側”でも雰囲気悪くなってますよ。やっぱり気晴らしが必要です』
そんな訳で、お仕事問題は解決してしまったらしい。
結局はRedoに集中しろって事なのだろうが。
はぁぁと溜息を吐いてから、自らのアバターを確認する。
モニターに表示されている黒い鎧は、今日も完全に悪役だ。
というか、化け物みたいな見た目をしている。
我ながら、こんなモノを生み出す人生経験だったのかと考えるとゾッとするが。
そしてコイツを使って、今までに何人ものプレイヤーを殺してきたのだと思うと……。
『強化、します?』
「一応やっておくか……」
頭を切り替えて、いつもの操作に移る。
とはいえ、難しい事はやらない。
スキルやら何やらはリユが管理してくれているし、そもそも俺じゃろくに分からない。
だからこそ、基本のステータスをいじるだけ。
見た目やら技やら、武器の強化にガチャシステムやら。
色々あるらしいが、下手に手を出してもポイントを無駄にしてしまいそうな気がする。
だったら1ポイントでも多く換金して、家族に元に送りたい。
『武器や道具はいつも通りポイントで良いですよね? 昨日の相手の武装は色々と趣味が悪い……じゃなくて、マスターには合いませんから。強化分に回しちゃいましょ~』
色々言いたい事はあるが、反論できないのでそのまま頷いておいた。
ミサイルランチャーにガトリングガンって……どう使えば良いのか想像もできない。
モデルガンを買った事はあるので、銃自体は知っているが……でっかい武装って、どこに引き金が付いているのだろう? それすら分からない。
という事で、使わない。
こだわりという程でもないが、今更武器を使おうとしても上手く扱える気がしないので今の所素手一択。
その素手だって、別に喧嘩慣れしていると言う訳ではない。
だからこそ獣みたいに齧ったり、握り潰したりする戦法になる訳だが。
「もう少し探知能力が欲しいな……結構相手を見つけるまでに時間が掛かる」
『それじゃぁ嗅覚とか聴覚でも強化しましょうか。あとは“感覚”系を全体的に上げれば、直感とかの数値も上がりますけど、試しにやってみます? そっちにばかり回すと、攻撃力とか防御に回せなくなりますけど』
「体の方はそれなりに数値が高くなって来たからな、今回は試しに感覚系に振ってみよう。といっても、リユが探索してくれるから別にいらないのか?」
『いつまでも私が一緒に居てあげられるなんて思わないで! このニート!』
「反論できな過ぎて苦しいんで握りつぶしますね。新しいスマホを買って、俺は普通の仕事をして過ごすよ」
『いやぁぁ! ごめんなさいごめんなさい! でもいちいち端末取り出してマップ確認するより、マスターが色んな感覚で突っ込んだ方が絶対速いですって!』
「そう言う事なら、まぁ感覚系強化で良いか」
なんて言葉を交わしながら、今日も朝を迎える。
あぁ、朝飯買いに行かなくちゃ……。
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