第10話 新たな参加者


「ぶはあぁぁっ! マジで死ぬかと思った!」


 何処とも知らぬ屋上で、ガバッと起き上がってからそんな言葉を叫んだ。

 今回はマジでヤバかった。

 というか、黒獣の気まぐれ? が無ければ確実に死んでいただろう。

 ゾッと背中に冷たいモノが走るが、自身の手足見てちゃんと生きている事を確認してからホッと息を吐き出した。


「お、大葉さん……大丈夫なの?」


 ペタンと座り込んだ状態の紗月が、震える手で私の肩に触れて来た。

 これは、なんて謝ったら良いだろうか。

 というか、どう説明すれば良いのか。


「えっと、ごめん。怖い思いさせて。ゲームが終われば五体満足で帰って来られるから、大丈夫だよ。死ななければって条件が付くけど」


「じゃぁ、勝負を挑んで来た人は……」


「多分、もう……いない」


 というか、間違いなく死んだと思うが。

 黒獣にアレだけ派手に頭を潰されたのだ、生きている方がおかしい。


「アレが……ゲーム。ゲームなんだ……」


 小さな声で呟きながら、彼女はそのまま顔を伏せてしまった。

 まぁ、無理もない。

 急にあんな事に巻き込んでしまったのだ。

 そして無関係な人間にRedoの事を知られ、このまま彼女を帰せば……多分私にもペナルティがある。

 ポイントが減るだとか、その程度だと良いんだが。

 その場合黒獣にもペナルティが発生するのだろうか?

 いや、流石に無いか。

 完全に無関係の乱入者だもんね。

 とかなんとか考えながら、大きなため息を吐いてから。


「あの、本当にごめんね。でもこういう事だからさ、関わらない方が良い。だから、ちょっとお仕事の紹介は出来ないかなって――」


「やる」


「はい?」


「私もそのゲーム、やる!」


 ごめん、ちょっと言っている意味が分からない。

 さっきまであんなに怯えていたのに、何を口走っているのだろうかこの子は。


「だってさっきの相手みたいなのが、急に襲ってくる可能性もあるんでしょ? なら、こっちも防衛手段があった方が良いじゃない! 何も出来ずに殺されるだけなんて嫌だよ!」


「え、あ、うん。うん? 確かにその通りかも……? でも、もうさっきの奴も居ないし、これから狙われる可能性は――」


「0じゃないんでしょ? さっきの黒い人にも見られちゃった訳だし。なら、やる!」


 やけに圧の強い言葉を放ちながら、ズイズイとこちらに迫ってくる。

 どうしよう、コレ。

 でも、さっきの戦闘でしっかりと理解した。

 私一人では、いつまで保つか分からないという事が。

 他のプレイヤーの様に、チームを組んで戦うのも悪くないかもしれない……いや、でもなぁ。


「えと、本気?」


「うん!」


『マスター、このままでは貴女にペナルティが課せられる可能性があります。取り込んでしまった方が、何かと都合が良いかと。もちろん不安要素は数多くありますが』


「リズまで……」


『あくまでマスターの都合を考えた提案です。相手の都合や気持ちを汲んだ訳ではありません』


「やる! また巻き込まれる可能性を考えたら、絶対必要だって!」


 やけにやる気を見せている紗月にモヤモヤしながらも、渋々ながらRedoの招待メッセージを送信する。

 相手のスマホにメールを送った訳だが、彼女のスマホには通知は来ない。


「何も来ないけど……」


「ソレで良いの、多分家に帰れば分かると思う。分からない事があったらすぐに声を掛けて、何かあっても絶対一人で対応しないで」


 と言う事で、今日友達になったばかりの彼女をRedoに巻き込んでしまった。

 良いのだろうか。

 いや、普通に良くないでしょ。

 自問自答を繰り返すが、当の本人はどこか嬉しそうな様子だった。

 なんていうか、不思議な子だなぁ……。

 そんな事を考えながらも、私達はそれぞれの帰路に着く。

 とにかく、明日しっかりと説明しよう。

 それで私と組んでもらって、絶対に怖い思いをさせない様にしよう。

 それくらいしか、私に出来る事は無いだろうし。

 この時は、その程度に考えていたが。


『マスター、一応彼女の事を警戒しておいて下さい。こちらにペナルティが課せられない様、あの様な発言をしましたが』


「紗月を、って事だよね? 流石にソレは心配ないんじゃない? あの子の場合、Redoでの知り合いは私だけな訳だし」


 夜になって、リズが急にそんな事を言って来た。

 どう言う事だ?

 そもそも招待メールだって私が送ったわけだし、急に敵対関係になるとかあり得ないと思うのだが。


『Redoとは“やり直しのやり直し”。つまり言葉だけなら、弊害を無かった事にするのではなく、弊害が発生する前の段階に一度戻し現時点にまた戻す事。意味が無い様に聞えますが、この手段を手に入れた者は大抵狂い始めるものです』


「それ、私に対しての嫌味? やり直そうとしても、結果は変わってないって」


『いいえ、むしろマスターは良くやっていると思いますよ。私が言っているのは精神面の話です、貴女は普段とほぼ変わらず過ごす事が出来ている』


 結局、何が言いたいのだろうか?

 不思議に思い、ごついスマホを目の前に持って来てみれば。


『覚えておいて下さい、マスター。Redoは人の本性を引きずり出すゲームです。表面上は大人しい人物に見えても……人の腹の中まで見えている訳ではありません。しかしこのゲームは、全てを表面化させる。つまり、“我慢”が出来なくなるのです』


「紗月が私を裏切る可能性は十分にあるって、そう言いたいの?」


『そうならない事を、祈っております』


 流石に考え過ぎだと思いたかった。

 でも何故かリズの言葉が頭に残り、この日の夜はあまり良く眠れなかった。

 最近、寝不足になる事ばっかりだよ。

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