第8話 本能
ブラブラと街中を歩き回っていると、ふとポケットの中のデカい端末が振動した。
『運が良いですよマスター! 早速新機能を振りかざしている馬鹿と、前回の生き残りを発見致しました。どうやら対戦を始めたみたいです! 行きましょう! 既にエリア内に入っている様で、相手のプレイヤーネームが表示されてます!』
「……」
ポケットに手を入れてスマホに触れて、道を逸れて物陰に入る。
耳に突っ込んでいるイヤフォンから、唐突にこの声が聞えて来ると結構焦るというものだ。
「どう言う状況だ?」
ボソリと小声で呟いてみれば、「喋らなくても伝わりますよ?」とか返って来るが。
何度か試したが、思考だけで会話するって結構大変なのだ。
物凄く意識していないと、絶対に余計な事を考えてしまう。
そっちにまで端末が返事してくるもんだから、騒がしくなって仕方がない。
なので、声に出した事以外は返事をしなくて良いと言っているのだが。
『えっと、待ってくださいね? どうやらプライベートバトルというか、互いに承認しあって対戦する形式を選んでいるらしく……ま、私達には関係ないんですけどね。便利ですよねぇ、スキル“プレデター”。どんなルールだろうと何処だろうと乱入出来る、素晴らしいスキルです。マスターが持つ数少ない個性ですね、むしろ他のスキルがゴミ過ぎて泣けてきます』
「いいから、早くしてくれリユ。前みたいな事態になってなければ良いけど。でももしもあの子から対戦を申し込んでいた場合は……状況によっては殺す事になるかもしれない」
正直、避けたい事態ではあるのだが。
それでも、彼女もまた遊び感覚で人を殺す外道なら……容赦するつもりはない。
こんなもの、同族嫌悪以外何者でも無いのだろうが。
『あいあい、了解ですっと。プレイヤー“
ここ最近どんどんと口調が軽くなっていくスマホが、明らかな嫌悪感を露わにし始めた。
何か良くない状況にでもなったのだろうか?
「どうした? 不味い相手か?」
『プレイヤーネーム“
「……」
どうやら、相当痛いのを引いたらしい。
まぁ、どうでも良いけども。
人の趣味をどうこう言うつもりはないけども。
でもちょっとリユの気持ちが分かってしまうのは何故なんだろう。
俺の世代でも、そういう人居たし。
未だに居るんだなぁ……。
『あぁ~なるほど。どうやらギャラリーさん、人質になっているみたいですね』
「へぇ? そんな事あるんだ?」
『こっちも新機能ですねぇ、小悪党が考えそうな事です。馬鹿ですよねぇ、Redoの事を一般人に知られたまま解放すれば、ペナルティだってあるのに。全員殺しちゃうつもりなんですかね? ま、それでも無関係者を巻き込んだペナルティは発生しますけど。しかもそのペナルティの詳細が、未だ“状況に応じて”としか書いてありません。ポイントとかだけなら良いですけど、BANとかだった場合どうするつもりですかね? ゲームからではなく、人生からとか』
なんて、呑気な雰囲気で恐ろしい言葉を紡いでくるリユ。
結構、ヤバイ状態なんじゃないか?
別にどっちかを助けてやろうって考えてる訳ではないが……なんというか、あまり良い気分ではない。
偽善だ何だと言われそうだが、無関係な人間を巻き込んでまで勝ちたいのかと思ってしまう。
俺達“プレイヤー”なら殺す覚悟も殺される覚悟もしているだろうが、巻き込まれた人間にとって、ソレはただ不幸な出来事に他ならないのだから。
『ま、何はともあれ乱入します? 殺す殺さないは別にしても、ポイントもお金も欲しい所ですし。我々が一般人を巻き込んだ訳ではないので、ペナルティとか無さそうですから』
「……だな。今月は先月に比べてあまり振り込めていない」
『普通ひと月に数百万も振り込まれていれば十分だと思うんですけどねぇ。ま、良いです。目標はクソ親族が作った借金返済と、嫁の治療費。家族が一生食っていける金額の確保! そして夢は東京のど真ん中に城を立てる! ですもんね!』
「そいつは驚いた。目標は合ってるが、最後のは初耳だ。今どき城を欲しがる物好きが居るのか。維持費が大変そうだが頑張ってくれ、俺は知らん。多分リユは城に住んでも充電ケーブルに繋がれてベッド脇に放置されると思うけど」
『そこは肌身離さず持っていて下さいよ! 良いじゃないですか! お城、立てましょうよ! 利便性を加味して要塞でも良いですよ!?』
「絶対嫌だ。というか目立ってどうする、俺達は日陰者だろうが」
馬鹿話をしながらビルの脇を通って、どんどんと人目の付かない場所へと移動していく。
周囲を確認してから、煩いスマホを取り出した後。
『準備オッケーですか?』
「お前は少し緊張感と警戒心というモノを覚えろ……どんどん馬鹿っぽくなってるぞ」
『Redo端末は主人によって性格を変えますからね、私も成長期という訳です』
もうね、最近ずっとこんな調子だ。
だからこそ、こっちもこっちで口調が荒くなってしまうのも仕方のない事だと思いたい。
はぁぁ、と深いため息を吐きながらスマホに表示されたボタンをタップする。
画面には現在近くで対戦中のプレイヤーが表示されていた。
全く、このサーチ機能もどうにかならないモノか。
俺の場合はどこでも“乱入”出来るからむしろありがたいが、他のメンツにとっては良い迷惑だろう。
普段“強襲”で戦闘を申し込むにしても、範囲が曖昧過ぎるのだ。
見ている範囲なのか、それとも認識できている空間なのか。
少なくとも正確に何メートルと決まっている訳ではなさそうだ。
なんたって今のアパートに数週間住んで居ても何も表示されなかった癖に、急にお隣さんが勝負を挑んで来た事があったのだ。
本当にこのゲーム、ガバガバ設定が過ぎる。
何か問題があっても「開発途中ですから」みたいな文面がちょこちょこ見られる辺り、勝手にやれという事なのだろうが。
『向こうに行ったらちゃんと警戒しますから! 普段はもっとフランクにいきましょ!』
「はぁ……もう今更か。行くぞ、リユ」
『了解です、マスター。プレイヤー“RISA”VS……痛い人の対戦に乱入致します!』
「おい、せめて呼んでやれ」
『RISA VS 十字架の人の対戦に乱入します!』
「もう良い、早くしろ」
相変わらずブレない性格の端末にため息を溢してから、深く息を吸いこんだ。
罪悪の感情は捨てろ、コレはゲームだ。
そして何より、生き残る為には相手を蹴落とさなければいけない。
ソレが出来ない奴から死んでいくのだ。
だからこそ、甘さを捨てろ。
自分勝手になれ。
Redoとは、そういう世界だ。
『では、ご武運を。なんて言っても、アッチでもサポートしますけどね』
どこまでも気の抜けた台詞を吐きながら、リユは“Redo”へと接続した。
“こちら側”の俺の姿は消え去り、“向こう側”へと飛ばされる。
真っ黒い鎧、鋭い爪の付いた手足。
そして。
「ズアアアアアアァァァァ!」
この鎧の影響なのか。
“こっち側”に入ると、俺はどう頑張っても“おかしくなる”。
殺せ殺せと誰かが常に囁いている様な感覚に陥り、更には俺自身も戦う事が楽しくて仕方がない。
コレが自分の本心なのだとはとても思いたくはないが……それでもプレイヤーとしては、何も考えず戦えるというのはメリットなのかもしれない。
終わった後には、耐えがたい後悔に襲われるが……それも、もう慣れた。
慣れてはいけないと分かっていても、人間ってのは意外と単純な生物のようだ。
『プレイヤーネーム“
俺の代わりに、リユの奴が自信満々で名乗りを上げるのであった。
まぁ、何でも良いか。
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