河村病院跡 第4話
「どうしたの?」
僕がそう声をかけると、優馬はにこりと笑いこう言った。
「あ、いや。声が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだと思う。何でもない」
僕も声は聞こえなかったから何も気にせず、大和を先頭に僕らは病室を1つ1つ見て回った。どこの病室も似たような間取りで、似たようなものしか置いていなく、入る度にベッドに乗ろうとしている大和を2人で全力で止めていた。
「はあー。疲れたからもう帰らない?」
わざとらしい大きなため息を吐きながら優馬が言った。
「何でだよ! 3階も見て回らないと探索したと言えないだろ!」
それを大和が変な理屈を並べて否定していた。
「勝手に行動する大和に疲れた」
「はあ! 何だよそれ! 優馬だって勝手に動いているだろ!」
「まあまあ、2人も落ち着いて。とりあえずジャンケンでもしてどうするか決めれば」
正直どちらでもいい僕は2人にそう提案した。双方納得はしていなかったようだが、僕の申し出であったこともあり仕方なくジャンケンをした。勝者は大和だった。
「うっしゃ! 見たか! さあ、3階にも行くぞー!」
たかがジャンケンに勝って上機嫌に3階を目指して歩く大和と、ジャンケンに負けたことより帰られなくなったことに絶望していた優馬に挟まれて、僕らは3階に向かった。
3階は下の案内図には書かれていない場所だった。つまりは居住スペースの可能性が高いと言うことだ。勝手に人様の土地には侵入して入るが、家の中はやめておいた方がいいのじゃないかと思った。だが、大和は止まることを知らない。猪のように真っ直ぐ進むことしかできない。
「3階はまだ綺麗だぞー」
僕と優馬よりひと足先に3階に上がった大和が声を張ってそう言った。あれから足取りが重い優馬を1人にするわけにはいかないからペースを合わしているけど、心配になるくらい足が遅い。
「大和ー。勝手に物を触らないでよー」
「分かってるって」
大和の表情は見ていないが、これは絶対にテキトー返事をしている。大和と8年の付き合いがある僕が思ったことだから間違いない。変なものに触らなければいいけど。
「優馬、急ごう。大和が変なことをする前に止めないと」
「……ああ、そうだな」
優馬にそう言った時に、久しぶりに優馬の顔を見た。優馬はこの病院に入った時とは打って変わって青白い顔をしていた。
「優馬! どうしたんだ!」
「ちょっと寒気がするだけ。大丈夫」
「全然大丈夫じゃないだろ!」
「あはは、そうかも」
優馬を先に車に乗せてあげたいけど、僕はもう3階まできていた。今更引き返して優馬を先に車に乗せてもいいけど、大和と言う何をしでかすか分からない危険人物を1人にするのはまずい。ここは先に大和を連れてくる方が得策だろう。
「優馬、ここで少し待ってて。大和を連れ戻してくる」
僕は階段を上がってすぐの特に何も落ちていない床に優馬を座らせた。さっきよりもぐったりとしている優馬を見て急ぎ足で大和を探した。
「大和ー! どこにいるー。優馬が気分悪いって言ってるからもう帰るぞー!」
3階はものがほとんど散らばっていなかったが、民家と思えないくらい部屋の数が多かった。その理由は廊下を進んでいると分かった。
「宿直室……」
ここは民家ではなかった。看護師や医師が泊まるための部屋だったようだ。それにしてはやけに広いし、部屋数が多い。全盛期はそれだけ栄えていたと言うことだろうか。
そんなことを考えながら大和を1部屋ずつ探した。
「大和ー。どこだ?」
そう嘆いていると、廊下を進んだ1番奥の部屋から大和声とスマホの明かりが見えた。
「渉ー! こっち来てみろよ!」
「大和! どこに行ってたんだよ。優馬が気分悪いって言ってるからもう帰るよ!」
「えーそうなのか。それじゃあ仕方ないな。でも、とりあえず来てみろよ!」
これは行かなければ大和は動かないやつだ。優馬が心配だが、大和も置いて帰るわけには行かないからな。
「1分で終わらせてよ」
「大丈夫だって」
大和の待つ1番奥の部屋に恐る恐る向かい、扉の前で一呼吸おいて中に入った。
「どうよこれ」
そう言っている大和は手に紙の束を持っていた。表紙にはRーPLANと大きな赤文字で㊙︎と書かれていた。明らかに見てはいけないものだ。
「大和それ……」
「すごいだろ!」
「不用意に触るなって言った言っただろ!」
「何だよ。渉まで優馬のようなことを言って。カルテなんて持って帰っても何も起きないよ。現に僕らは幽霊を見てないし、幽霊なんて所詮はただの迷信だから」
そう言いながら、大和はペラペラと紙を捲っていた。僕は正面からそれを見ていたからどんなことを書いているかは見えなかった。
「くっそ! これ全部英語で書いてやがる。読めねえ」
幸いにも全文英語だったようで、大和には読むことはできなかった。大和は飽きたのか、RーPLANと書かれた紙の束を床に放り投げた。その衝撃でこの部屋全体に忍者が煙玉を出した時のように埃が舞い上がった。
「何するの。大和!」
「ごめん。まさかここまで埃があるとは思ってなかった」
僕は右腕で口を覆いながら左手で大和の手を引っ張って1番奥の部屋から出た。
「全部の部屋を見たしもう帰ろう」
「そうだな。特に何も起きなかったがな」
「心霊スポットはもう勘弁だ。無駄に疲れるし眠いし、今後何があってももう着たくないよ」
下に降りる階段に向けて大和と歩いている時だった。前方から人の足音が聞こえ、スマホで照らすとそこには優馬がいたのだった。
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