旧楽童寺トンネル 第4話
「わ、私も春人くんが探索してみたいって言うのなら、見てみたいかな……」
これが寧音の処世術だ。マジョリティーにつけば反対されても仲間ができるから自分は反論しなくて済む。そうやって逃げてばかり。自覚していてもやめられないのだろうな。
「わかった。寧音が行くのなら私も行く」
飯口に勝ち誇られた顔をされるのは癇に障るが、これも寧音の成長のためだ。我慢できる私の方が大人だと言うことを見せつけてやる。
「それじゃあ、行こうぜ」
「待って、飯口」
「何だよ! まだ何かあるのかよ!」
「これだけは約束して、もしトンネルが崩落して生き埋めになったとしても、私はあんた達を助けない。もし私が生き埋めになっても助けないで。1人でも動ける人間がいるなら、助けるのではなくて助けを呼びに行く。この約束が守れないのなら、私はついていけない」
「わかったよ。好きにしろよ」
山や海での遭難や海難。下手に中もを助けようとして命を落とすケースも少なくない。これはもし何かあったときに生存確率を上げるために必要なことだ。
「光莉ごめんね……」
「いいよ。寧音は昔から変わらないね」
照れられても……褒めてないんだけどな。
「それじゃあ、中に入るぞ!」
私が寧音と話をしている間に飯口と桂は、トンネルの穴を人が通れる大きさまで広げていた。
先頭は言い出しっぺの飯口、2番手には飯口から離れない寧音、3番手は私の嫌いな桂、最後に私の順番で入った。
ここのトンネルは古くからあり、横幅の広さは車1台が通れるほどの狭いトンネルだ。
中は崩落はしていないけど、大きく穴が空いて崩れかかった壁や地面には石ころのようなものがたくさん落ちていた。崩落の危険があると言うのは事実だったようだ。
突然、寧音が私の方をチラチラと、顔を伺っているようだった。私は知っている。寧音のその行動は、何か言いたいことがある。そしてそれはいい方向には決して転ばない。
「そ、そういえばさ……昔ひいおばあちゃんに聞いたことがあるんだけど……空襲がひどくて、このトンネルの防空壕を作ったとかなんとか言っていたな……」
寧音よ、またそんな飯口を焚き付けるようなことを言って。
「なんだって! じゃあ、まだお宝が眠っているかもしれないと言うことか!」
言わんこっちゃない。
「飯口。1つ言っておくが戦時中の防空壕にはお宝なんてないぞ。誰でも出入りできる防空壕に宝を置いて帰るやつがどこにいる」
「そんなの行って見ないとわからねえじゃないか! もしお宝を見つけても須賀野には分けてやんねえぞ!」
「そんなのこっちから願い下げだよ。誰かの遺品を勝手に奪うなんて私にはできないよ」
言い過ぎたのか、飯口は私に何も言ってこなかった。
そんな飯口は黙々と先へ進んで行き、中心付近で立ち止まった。
「防空壕なんてないじゃんか」
「ひいおばあちゃんの話だから、信憑性はあまりないかな……ごめん……」
飯口と寧音は気づいていないのか。寧音の話は強ち嘘ではなさそうだ。だが、この二人にいうことではない。このまま帰れたならそれでいい。
「春人。左の壁から風を感じる」
桂め。また余計なことを。
「それがどうしたって言うんだ?」
「風の流れを感じるってことは、最低でも2か所の穴があるってこと。僕たちが入ってきた穴に向かって風が流れているからこの付近に横穴があると言うこと」
「でも、それがどうしたって言うんだ。俺らが入ってきた穴があったんだから、反対にあってもおかしくないだろ?」
「ああ、普通はね。だけど、こっちに来てごらん。中央の印から少し先に進めば風はほとんど感じない。だけど、戻れば、風を感じる。それも壁から風が流れているように」
「つまりはどう言うことなんだ?」
「つまり、この壁は入り口を隠すために積まれた石だと言うことだ。土壁感を出しているけど、よく見て。風を感じるところは乾いた土ような黄土色をしている。そしてここを通り過ぎれば、色味が少し濃くなっている。風が流れてくるあたりそんなに分厚くないと思う。春人やれそう?」
「力仕事か。それなら任せてくれ!」
桂の指示で、飯口は壁を蹴って壊した。桂の読み通り本当に横穴が現れた。
「公平を連れてきって正解だったぜ! これで先に進めるな!」
私個人の意見としては、こいつを連れてきたことは大きな失敗だったと思っている。
「おお! 公平見てみろよ! 鉄の扉が出てきたぞ!」
「本当だね。本当にあったんだね」
「でもこれ入れなくない? 鍵と鎖がしてあるよ。これ以上は進めないね」
これで探索が終わったと思っていたが、余計なことを桂がまたしでかす。
「これを使おう」
「コーラ? そんなの使ってどうするってんだ?」
「任せてよ。これを鎖の1番弱そうなとこにかけて。春人そっち持って」
「あ、ああ」
「せーので引っ張ってよ。せーの!」
桂と飯口は鎖を使って綱引きをし、見事に鎖を破壊した。
「おお! 扉が開いたぞ!」
「飯口!」
私は飯口を止めた。
だってこの先は本当に危険だと思うから。
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