旧楽童寺トンネル 第1話
これは私が大学3年生の時の話だ。
私、須賀野光莉は、中学の同級生で大学の友人だった磐岬寧音に誘われて、県内でも有数の心霊スポットに行くことになった。今では後悔しかないが、この時はまだあんなことになるなんて想像もしていなかった。
ことの始まりは、2024年8月9日のことだ。息抜きと題して寧音に肝試しに誘われた。初めは乗り気ではなかったけど、強引な寧音の言葉に負け、行くことを決意した。行くことの条件として、危なくなったらすぐ帰ることを言ったけど、寧音は聞く耳を持っていなかった。
翌日、寧音から決行は明日の8月11日だとメッセージが送られてきた。集合場所は近くの24時間営業しているショッピングセンター。集合時間は日を跨ぐ前の23時30分。そこから目的の心霊スポットまで、寧音の友人でもあり、私と同じサークルでもある飯口春人が代表で車を運転する。
現地集合なら私も山奥まで車を走らせないといけなかったから、誰かが運転してくれるのならそれに乗っかる他はないと思った。
当日の昼間。必要物品はないのかと寧音に聞いたが、スマホさえあれば大丈夫と言い、私も寧音の言葉を信じた。これで痛い目を見たんだ。たとえ友人の言葉であっても、信じ込む前に自分で考えることが重要だと後で気付かされた。
時は過ぎ、8月11日23時30分。
約束の時間に約束の場所に訪れた。まだみんなは来ていないようだった。
寧音は本当に時間にルーズだ。約束しても10分くらい遅れるのが当たり前。だから私も早めには着かないようにはしている。
今日この日も、結局寧音たちが来たのは5分後の23時35分のことだ。しかも私以外はもう既に飯口の車に乗っていた。
「それじゃあ行こっか。春人運転よろしくね」
「任せろ! 1番運転経験が長いからな。お兄さんが安全運転んを見せてやるよ!」
私は知っている。彼はこの間、ミラーを木にぶつけていたことを。これから狭い山道を登っていくと言うのに不安だ。すごく不安だ。
それよりも、まさかこの集まりに、桂公平まで来ているとは。私はこいつが苦手なのだ。過去の蟠りがあるし、顔は優れているのに、おとなし過ぎて何を考えているのかわからないから。これも不安だ。
飯口の車に寧音が1番に助手席に乗り込んで、持ち主の飯口は運転席。空いた後部座席の2席に私と桂が乗り込んだ。
何で私は桂の隣なんだろうか。
「よろしくね。春人」
「おうよ。それじゃあ出発するぞ!」
「須賀野さんもよろしく」
「……よろしく」
やっぱりこいつ苦手だ。
後ろの2人は全く話さないもんだから後ろは静かだったが、前の2人は会話が盛り上がっていた。どうせ碌な話をしていないのだろうと思って、外の景色ばかり見て時間が過ぎるのを待った。
車を走らせること5分。雰囲気のある山道に突入した。さすが昔の道だってことはあり、車1台が通るのがやっとの狭い道だ。そんな狭くてくねくね曲がった山道を走ること10分。トンネルの前までやってきた。
このトンネルは私たちが生まれて間もない頃に、崩落の危険があるとかで入り口はどちらもコンクリートで覆われて、中に入ることはできなくなっている。噂によると、崩落よりも肝試しとかで訪れる奴らのせいで閉鎖されたって話だ。確かに、埋められたコンクリートにも落書きがたくさんある。普段から使っていた住人はさぞ迷惑だったのだろう。こんなことを言っている私もその1人だけど。
そんなわけもあってここでの肝試しは、手前にあるカーブミラーから埋められたコンクリートの壁を触って帰ってくる、と言うのが通例になっている。あまりにも簡単だが、見た人によると、壁の前で遊んでいる子供がいたり、女の人が立っているとか、見える人には容易にクリアできるものじゃないらしい。これも噂だけど、コンクリートに触れたら腕を掴まれてそのまま中に入れられたや触った直後から幽霊が見えるようになった人もいるという。所詮は全て噂だ。現実、落書きができるくらいなんだから、何も起きない方が多いと言うこと。そんなに心配することでもない。
「よし、じゃあ。順番決めようぜ。シングルとダブルスどっちにする?」
「私、怖いからダブルスがいい」
「公平はどっちがいい?」
「僕はどっちでも」
「須賀野は?」
「私もダブルス希望で」
1人だと怖いし、時間かかるから早めに切り上げたい。と言うか何だよダブルスって。
「よし! じゃあ、ペアになっていこうぜ。ペアはどうやって決める?」
「さっさと終わらせたいから、車の前に乗っていた組と後ろに乗っていた組でいいんじゃない?」
「じゃあ、それで行こう!」
おい桂お前止めろよ。
何でまたこいつの隣なのだ。苦手なのにどうしよう。
「この肝試しは俺が提案したから、俺たちから言ってくるぜ!」
「行こ行こ。さっさと終わらせよう」
飯口と寧音はトンネルに向けて歩いて行った。そう遠くない距離なのに、隣に苦手な奴がいるから2人が遠い位置にいるように感じていた。
「暇だね」
「……そうだね」
こいつとはあまり話をしたくない。
「須賀野さんってもしかして僕のこと嫌い?」
「……まあ、そうかもね」
頼むから早く帰ってきてくれ、寧音。恐怖よりも息苦しさで私の心がもたない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます