第3話 端的に言えば初搭乗
案の定、そこにあったのは美月が転生前に乗っていた7号機の姿だった。
黒い塗装のされた前に突き出たようなフォルムの本体、腕のような二門の戦車砲、あらゆる地形も高速で移動可能であるように作られた、ずんぐりむっくりな足、全てが美月の知る7号機そのままである。
「見た感じ、動かせそう」
コックピットは既に開いていたので、美月は近くの木をよじ登り、蔦に足を掛けて中に飛び乗る。
幸いなことに、キーは差しっぱなしだった。
「キーがあるってことは、起動できるかな」
キーを回し、電源を入れる。システムが起動して、コックピット内が明るく照らされた。
モニターが光り、某日本企業の名前が出てくる。
しかし、その後、画面はメインカメラの映像に遷移せず、企業の名前が消えなかった。
それどころか、モニターの画面が消え、システムが突然停止した。
「やっぱり、そう上手くはいかないわよね。このポンコツロボットのことだから、きっとどこか故障したのでしょうね。そもそも、電力不足かも」
美月が外に出ようとした時、ハッチが閉じ、当たりは暗闇に包まれた。
直ぐに、ハッチを開こうと、緊急解放レバーを探す。ふと、モニターが黒色に光り、青く文字列が一文字ずつ入力された。
“”Initializing Database...
Connection Established...
Hello, Ren. With love... “”
全てが入力された途端、画面が真っ白に光り輝いた。思わず美月は目を閉じて、腕で光を遮る。
光に目が慣れ、目を開けると、コックピットが椅子以外、変形をしだした。
まず、何も見えなかった視界が開けて、全面がモニターとなった。
操縦系統の部分も、レバー操作から、航空機のようなWの形の操縦桿になる。他にも、左右にサブモニターが出現した。
一先ず、7号機と同様に美月は操縦桿に手を掛けつつ、左右にあるペダルを押し込みながら、サブモニターでスラスターをオンにして機体を起き上がらせた。
試しに、操縦桿の後ろにあるボタンを押し込むと、航空機関砲のようなものが作動し、モニターに映る照準を合わせて撃てるようだ。
左手にあるサイドスティックでは、腕に装備している戦車砲を撃てて、パネル操作で武器を戦車砲と狙撃用レーザー砲に交換でき、かつバックパックに装備しているミサイルを射出できるようである。
「あー、色々ありすぎて頭がどうにかなりそう。でも、今はただ、やることをやらないとよね。この機体、何とか、動かせるかな。……よし、行くとしましょうか」
美月はペダルを押し込み、7号機を発進させた。目指す先はエーテルノイドの森に向かうトラックだ。
エーテルノイドの森とは、虫型の未知の生命体、エーテルノイドの巣である。
エーテルノイド自体が硬い外殻を持つため、エーテルノイド森は焼き払うことができず、基本的には壁で囲って、人の町に侵入することを防いでいるのだ。
しかし、エーテルノイドの変異個体の出現等により、壁が破壊されることがあり、そのような事態が起こると、エーテルノイドによる町の襲撃が発生する。
今回の襲撃の場合、どこかにエーテルノイドの一種であるバイタルバグの卵を誰かが持ち出したことにより、発生していた。
つまり、この大規模侵攻は、バイタルバグの卵をバイタルバグに返せば収まるということだ。
そして、美月はアニメでその卵と持ち出した犯人がエーテルノイドの森に向かっていることを知っていた。
「早く見つけて、荷台を何とかしないと」
美月はエーテルノイドの森に向かいつつ、周りに飛んでいるバイタルバグを航空機関砲で次々に撃ち落とす。
バイタルバグが固まっている時には、戦車砲を放ち、一網打尽にした。
(全く、何でエーテルノイドの卵なんて盗み出したりするのかな。リスクの割には、高く売れる訳でもないし)
街並みの景色が高層ビルから砂漠に変わる頃、漸く目当てのトラックの姿が見えた。
美月はトラックの前に7号機を停車させて、トラックに当たらないように銃で威嚇射撃を行う。そして、外部スピーカーをオンにして呼びかけた。
「そこのお前たち、止まれ!こちら、アクシス・ソブリン軍だ。もし、止まらないと言うなら次は当てるぞ」
トラックは止まり、仲からわらわらとチンピラたちが逃げ出した。
しかし、真ん中のトラックの二人だけは逃げなかったようだ。一人は帽子を目深に被った運転手で、もう一人は刺青の入ったスキンヘッドにサングラスをかけた緑色の服のチンピラだった。
「おい、女!この荷台に何があるのか知っているか?バイタルバグの卵さ。これを爆破したら、どうなるか、知らない訳じゃないだろ?」
リーダー各のチンピラはポケットから四角い無線通信機のようなものを取り出す。
「俺が、このボタンを押せば、荷台の卵はドカンだ。わかるか?大規模侵攻は誰にも止められなくなる。どうだ、試してみるか?」
「どこに行くつもりよ!」
「この先さ」
「エーテルノイド・ドメイン軍の手の者ね。もしかして、蔡について知らない?」
「蔡?ああ、依頼主か。まあ、そんなことはどうでもいいだろ。俺の言うことを聞くなら、素直にこの通信機と卵をお前にやろう」
「……わかったわ。どうすればいいかしら?」
「まずは、そのGHMから降りてくれ」
美月はチンピラの言う通りにハッチを開けて、7号機から出た。しかし、万が一に備えて、後ろ手で常備している軍用狙撃銃、M24を手に持つ。
「これでいい?」
「ほう、中々美人なお嬢ちゃんじゃないか。おっと、手が滑った」
チンピラはそう言って、ボタンを押そうとした。その時、トラックの運転手がチンピラを押し飛ばし、その手から通信機を取り上げた。
「お、俺だって、ずっと言いなりじゃないんだ!」
「どうやら、死に急ぎたいらしいな」
チンピラは懐から流れるように銃を取り出して、運転手に向けて撃った。その隙に美月はは後ろ手で持っていた、機内に会った狙撃銃で通信機を撃ち抜く。美月は反動で後ろに倒れ込みつつも、すぐさま立ち上がってチンピラに警告をする。
「通信機は破壊した。もう爆破は出来ないでしょ。黙って投降しなさい!」
「そのようだな。これ以上は確かに割に合わねぇ。っち、仕方ねぇ」
チンピラはそう言って、逃げ出した。美月はその後姿に向かって、手元を狙って撃ち抜く。チンピラの手元から銃がはじけ飛び、腕が変な方向に折れ曲がった。
「なんてめちゃくちゃな奴だ」
「こちとら、これで生き残って来たもんでね!」
チンピラはそのまま恨めし気に腕を庇いながらその場を去っていった。美月は辺りにバイタルバグやチンピラ連中の残党が居ないか確認した後、すぐさま運転席に向う。そこには、右ふくらはぎを抑える運転手の姿があった。ここでは応急手当をするには狭すぎたので、運転手を何とか車の外に運び出す。
「ねえ、大丈夫?」
外に運び出して、初めて美月は運転手の顔を知っていることに気が付いた。
(まさか、こんなところで出会えるとは、ラーディン。ティヤの押しキャラ)
このアラブ系のイケメンの白髪の青年ラーディンは、第5話から登場するパイロットの一人だ。しかし、訓練がまだ浅いうちに実戦部隊に配属されたことで、メンバーの足を引っ張てしまい、煌達は非常にぎくしゃくするのである。
しかし、ラーディンはとても好青年で、真面目であり、常に訓練は欠かさずに行い、第8話の頃には煌達と対等に戦える位の強さになる。
彼のファンは非常に多く、美月の親友のティヤもまた、彼のファンだった。
(確か、第8話の放送日はラーディンの命日とかティヤ言っていたよね。懐かしいわね)
「なんとか……っ!」
ラーディンは、意識はあるようだが、右ふくらはぎに銃弾を受けたようで、出血が激しいようだった。美月は止血帯は携帯していなかったので、ベルトを代わりに使って縛り上げる。
一先ず出血は止まったが、このままにしておけば、いつバイタルバグに襲われるか時間の問題だった。
7号機に乗せようにも、7号機のコックピットは非常に小さく、人一人が入るのが精いっぱいだった。
「ハッチを開けっぱなしにしておけば乗れる?でも、慣性で飛ばされるかしら。でも、ベルトを緩めて何とか固定するとか、速度を緩めれば……」
「……君、助けてくれて、ありがとう。俺、ラーディンって言うんだ。君は?」
「私?えーっと、美月、じゃなくて、蓮よ。ところで、ラーディン、トラックの荷台って外せる?」
「まあ、外せなくもないが……。待て、あの荷台をどうするつもりだ!?」
「森に落とすの」
「君は、中身を見たのか?」
「まだ開けてないけど、上層部からの話で知っているだけよ」
「開けてなくて、よかった……。あの中には、バイタルバグの卵の他に、シンバイオティクラッチャーがあるんだ」
「シンバイオティクラッチャー?」
「寄生型のエーテルノイドだ。連中の話によると、隣の町のエーテルノイドの森で見つけた新種らしい」
シンバイオティクラッチャーは、アニメではコアエーテルノイド戦の前に発見される新種の寄生型エーテルノイドだった。登場話は第10話、コアエーテルノイド捜索及び、エーテルノイド・ドメイン軍との戦い時に登場し、煌の仲間のフィラースがこのシンバイオティクラッチャーに取り付かれて死ぬ。
シンバイオティクラッチャーの特徴は、スライムのような見た目をしているが、その実態は無数のナノスケールのエーテルノイドと粘液を発生させるエーテルノイドの集合体である。核を持つ粘液型のエーテルノイドに取り付かれると体内にナノエーテルノイドが入り込み、浸食され、DNA配列を書き換えられる。そして、肉体が急速にエーテルノイド化していくのだ。その浸蝕速度はかなり早く、個人差があるものの約2時間程で人の姿を失う。脳まで浸食されればいくら抗エーテルノイド剤、エーテルビルを使ったとしても、植物状態となるのだ。
「どうして、そんなものがここにあるのよ」
「俺も知らないよ。新種とはいえ、エーテルノイドだ。森に捨てるなら問題ないはず。でも、俺もこのトラックの持ち主じゃないから、荷台を外せるかわからないんだよね」
「だったら、トラックごと捨てるまでね。ラーディン、少しそこで待ってて」
美月はラーディンをその場において7号機に駆け寄る。
その時、町の方からバイタルバグが飛び出してきた。卵の在り処を察知してきたのだ。バイタルバグはそのままトラックの荷台に衝突した。
トラックの後ろのコンテナがひしゃげ、中にある卵が露になる。それと同時に、ドロッとした半透明の青い液体が溢れ出した。
「まずい、シンバイオティクラッチャーが!」
液体はどんどん地面に広がっていき、ラーディンに触れるのも時間の問題だ。
「ラーディン!逃げて!」
「わかっているけど!」
ラーディンは立ち上がれず、這いずるように逃げるが、シンバイオティクラッチャーの方が早かった。
「蓮!俺はもう無理だ!君だけでも逃げろ!」
「……って、見捨てられる訳ないでしょ!」
美月はすぐさまラーディンに向かって走り出した。そして、ラーディンとシンバイオティクラッチャーの間に入ると、飛び掛かるシンバイオティクラッチャーを右腕で受け止めつつ、左手でシンバイオティクラッチャーの核に向かって引き金を引いた。反動で後ろに吹っ飛ぶが、弾は確実に核を撃ち抜いていた。
痛みに顔を歪めつつ、美月はその場に座り込む。そこに、ラーディンが這って近づく。
「蓮!どうしてそんな無茶を!」
「核を、撃ち抜いたから、これ以上、広がる、心配はないわ……」
「だからと言って!死ぬかもしれないんだぞ!」
美月はラーディンの声を無視して、シンバイオティクラッチャーに取り付かれた右腕部分を体から離しつつ、左手でネクタイをほどき手早く血の流れを止める。そして、ポケットからライターを取り出すなり右腕に火をつけた。
シンバイオティクラッチャーが急速に燃え上がる。
「おい!馬鹿!何してんだ!」
手早くラーディンは懐にあったペットボトルの水をタオルに含ませて、その布を美月の腕にかけた。
「死ぬ気かよ!」
「……だけど、こうするしか、無い、かなって……」
美月はラーディンに右腕を示す。既に腕は取り付かれた位置から変形しだしていて、腫瘍のように不気味な青色になって細く硬くなっていた。
「何なんだよ、これ!」
「これが、シンバイオティクラッチャーというか、ナノエーテルノイドの力……。あー、全く、本当、私、何してんだか……」
「そうだよ!見ず知らずの俺の為に!馬鹿だよ!」
「……そう、かも……」
美月は動こうとするが、予想以上に自分が衰弱していることに気が付いた。しかし、時すでに遅しであったようで、美月はそのまま力を失い、その場に倒れこんだ。そして、美月の意識はここで途切れる。
異世界転生したらロボットアニメのヒロインだったので、生き残るために死亡フラグを回避していく所存です(前題:転生機甲譚グリムムーン) 雨中若菜 @Fias
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界転生したらロボットアニメのヒロインだったので、生き残るために死亡フラグを回避していく所存です(前題:転生機甲譚グリムムーン)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます