引き出し
@ku-ro-usagi
読み切り
仕事の出張で地方に一泊
適当なビジホがなくて小さな旅館に泊まった
昔ながらの
部屋も狭めだけど広縁あった
いいね
それでさ
部屋の床の間に沿った壁際に造り付けに近い棚があったんだ
大きくはないし動かせもしない
高さは膝丈程度で横幅は30センチはないかなくらいのサイズ
奥行きも40センチ前後かな
取っ手はなくて引き出しの下に隙間あるタイプでさ
部屋の黒っぽい柱とかと同じ木材かそれに近いもので
磨かれて艶々してた
四段の引き出しがあったんだけど
一番下の棚が5センチ位かな
開いてて
なんとなく
本当に
何気なく覗いたら
真っ暗な中で目だけが覗いてた
アーモンド形の人間の両目だった
私は
事なかれ主義なので
何も見なかったことにして
そのまま背中向けて仕事してたんだけど
妙に視線がうるさくて落ち着かない
え、何?
どうやって視線飛ばしてんの
隙間から出てるの?
目だけ?
確かめる?
無理無理
向き合う勇気はない
ただ
悪意ではなく好奇心的なものに感じる
だからしばらく無視してたけど
どうにも落ち着かず
仕方なしに振り返ってみたけど
何もなかった
少し開いた引き出しがあるだけ
心底安堵して
それでもなるべくできるだけ離れて
右手だけ伸ばして
まずは片手で軽く閉めようとしたけど
どうにも力比べみたいな感触で
あと5センチなのに全然閉まらない
両手で押しても無理
力凄いな
なんだこいつ
ならばと
小型のスーツケースを引き出しに押し付けて力任せに身体全体で
「むんっ!!」
と閉じて無事に力比べ勝利
そのまま視線も感じなくなってさ
仕事もそのまま片付けて
夕飯なしプランだったんだけど
面倒で外にも出なかったらさ
女将さんが気を利かせてくれ
「おにぎり握りましたけど良かったら」
なんて
部屋同様
こちらも年季が入っていながらも清潔な食堂で
味噌汁と共に
ご厚意を有り難く頂いた
鮭と昆布
美味しかった
それで
夜はもう視線も全く感じずに
快適に寝た
朝にスーツケースずらしてみたけど
棚は閉じられたままで一安心
朝だけ食事頼んでたから
部屋に中居さんがやってきて
食事の支度してくれながら
閉じられた棚を見て
「あら?そこ、閉めてもすぐに開いてしまうしまうのに、珍しい」
と少し驚いた顔をした
まさか力付くで閉めたとは言えずに
「そうなんですか?」
すっとぼけたら
「実はね、この引き出しの中には座敷わらしが住んでる~なんて話もあるんですよ」
って教えられた
「ここに入れるくらいだから、きっとこーんなちっちゃいんでしょうね」
と中居さんが人差し指と親指を広げたけれど
座敷わらし?
あれが?
両目の大きさからすると
3歳?4歳?分からないけと子供の顔程度の大きさと両目の幅はあったし
考えないようにしてたけど
あの引き出しの亜空間どうなってんだ
しかもさ
もしかしたら
私
その座敷わらし擬きをスーツケースで押し潰したかもしれない
どうしよう
いやいや
そもそも
あんなところにいるのが悪い
開き直りつつも
それをあの人の良さそうな女将さんに白状する勇気もなく
「あれは少し開いていた引き出しを閉めただけだから」
なんて
半ば逃げるようにお宿を後にして
会社に顔出して土産物置いてから部屋に帰った
そしたらば
したらばだよ
なんか
荷物出してからの
スーツケースのしまりが妙に悪いなとは思った
でも
これも古いし気のせいだと言い聞かせて
無理やり閉じて仕舞ったら
部屋の本棚の脇にある
旅館のより小振りのアンティーク風に見せ掛けた
3段引き出し小棚
それの
一番下の引き出しに入れていた小物が床に散らばり
一番下の引き出しだけが少し開いていた
恐る恐る覗き込んだら
うん
いる
両目がこちらを見ていた
わーぉ
どうしよう
着いてきちゃってるよ
どうなってんの?
え?
力比べで勝ったから?
スーツケースで押し潰したから?
気まぐれ?
知らんけど
多分
私は
これは座敷わらしだって信じることにした
そうだ
座敷わらしは幸運を呼ぶっていうしさ
少し考えて
たまに隙間から飴玉とか放り込んでる
え?
目に当たる?
知るか
気づくと飴玉の包み紙だけが木棚の床に落ちてる
でも
今のところ良いことも悪いこともないから
悪霊でもなければ座敷わらしでもないらしい
じゃあなんだこれ
しかし
これが着いて来ちゃったことにより
万が一にも座敷わらしだったとしたら
あのちっちゃい旅館は大丈夫なのかと心配になり
今でもたまに検索してみるけど
潰れてもおらず
女将さんがぽつりぽつりと宿のブログの更新をしているから
大丈夫そうでホッとする
視線は今も凄いうるさい
もうさすがに慣れたけれども
引き出し @ku-ro-usagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます