奇譚6 魂の会話

@skullbehringer

奇譚6 魂の会話

それでは、ここで私の話をしてみましょうか。

あなたが今おっしゃられた事は、私もかねてから頭を悩ませていた問題でもあるのです。私たちは同じ問題を抱えている。そう言ってしまっても良いかもしれませんね。

‥そうね、もちろん、わかっていますよ。あなたと私では全く違う。そうおっしゃられたいのでしょ?あなたがおっしゃられる事は正しい。でもそう焦らないで下さいね。

確かに私たちは性別も違えば年齢も違う。住んでいる地域も違うし、ひょっとしたら国籍も違うかもしれません。

‥そうです、気付かれましたか?その可能性も捨てきれませんよね。人間、一見一聴しただけではわからない事も沢山あります。私の日本語はいかがですか?主語や述語、動詞の使い方に何か違和感はありませんか?見た目はどうでしょうか?髪や目の色、肌の色はどうちがうでしょう?

‥いいえ、あなたを騙してなどしていませんよ、これはあくまで例え話です。人間、一眼では判断がつかないこともある、そう言いたかっただけです、どうかお怒りにならず、最後まで私の話を聞いて下さい。

そうですね、私の話を始めるために、まずは昔話をしましょう。うんと昔の話です。人類はアフリカ大陸で二足歩行になった猿の末裔である、これは人類史に詳しくない人であっても、聞いた事のある話でしょう。アフリカで立ち上がった猿は長い長い時間、長い長い旅をして、大陸から大陸へと渡り、最後は南米の先までたどり着いた。そうね、いわゆる日本人と呼ばれる猿たちは、その旅のちょうど真ん中くらいで定住を決めた者たちの末裔と言ってもよいかもしれません。

でもあなたはこう考えた事はないかしら?なぜアフリカの猿だけが立ち上がったのだろう?他の土地の猿達は、2つの足で立つことを考えなかったのだろうか?

私がその事を最初に考えたのは6才の時でした。母親から、そう、母親と名乗る存在、いわば卵子提供者ですね。そのようなモノから、夜眠る前、ベッドの中で、絵本とともに、遠くアフリカではるか昔に、初めて大地を踏みしめ、二本足で立ち上がった猿のお話を聞かされていた時です。

彼女は私の素朴な疑問に対してはっきりした回答を発する事ができませんでした。そうね、ダーリン、あなたはいろんな事に気がつくわ、でももう寝る時間を過ぎていることにも気がつかなくちゃね、とかなんとか。彼女は自らの無知と眠気を表面上は優しく、しかし大きな人たち特有のパワーでもって、私のひらめきをつぶしたのです。

‥そう、大きな人たちです。大人、とは言わないのですよ。大人、という言葉の語源にはあくまで成熟した、男性性を指すニュアンスがあるのです。うし、とも読みますね。また身体が大きいからと言って必ずしも精神的に成熟しているとも限らない。わかりますね?小さな人、つまりあなた方の言う子供と、大きな人、つまり大人とを分けるものは具体的には体格差でしかない、そこを明確化することはとても大きな意味を持つのです。

‥すみません、話がそれました。私としたことが、申し訳ありません。あなたとお話ししていると、つい力が入ってしまいます。何故でしょう?

‥そう、ふふ、当たり前ですよね、私たちはその事で悩んでいるのですから。

とにかく、もう私が言いたい事はほとんど察しがついていますね?我々の祖先はアフリカの猿ではない、その可能性は捨ててはならないのです。たまたま、状態がさほど悪くない、足跡のようなものが南米まで続いていたように見える。現代科学で辿れる人類起源の歴史など、その程度の推察でしかありません。でしたら他の可能性も十分に調べないといけないのでは?東アジアで立ち上がった猿について調べていない、もしくは調べられないのは何か別の事情がある、そう考えるのは決して妄想ではありませんよね。例えば北京原人やジャワ原人。彼らの存在が過去、発見されましたが、その後の足跡は見つかっていません。何故でしょう?アフリカから南米までの足跡については、とても薄い事実を擁護するのに、アジアの猿達については研究が足りていない。それは欧米諸国からすると都合の悪い真実の発見を恐れているものがあるのではないか。そう考えてみませんか?年齢も性別も違う、しかし同じ日本語を使う私たちがこの事を話し合うのは、近年、あなたや私を悩ませている問題について、一つの光を差し込むことができると思いませんか?

‥そう、あなたも私の意図がはっきりわかってきたようですね。良かった。そして、わかりますよ、同時に私に対する疑いもはっきりしてきた。私たちの祖先はアフリカで生まれたのではない、古の時代よりこの土地に住まう猿達だった。肝心な事はアジアで立ち上がった猿は、アジアの、どこの地域で立ち上がったのか。問題はそこだと言いたいのでしょう、ふふ、考えることは同じですね。その事が結果、あなたや私を隔て、悩ませている問題とつながるのです。私と私の仲間たちはその為の研究を続けてきました。そして見つけたのです。我々ヒイズル民族が世界の他の地域の猿達とは違う、独自に進化してきた人種であるという、決定的な証拠を。お客様、ご安心下さい、あなたは純血ヒイズル人であり、ヒイズル人は地球上において特別な種族なのです。詳しくは今からお渡しするこの紙に書いてあるホームページをご覧ください。‥そう、早く右手を出して、ここの店長は若いくせに偉そうで鼻持ちならない若造なの。変にめざといから、このウィンナーを食べるふりをして紙を受け取って下さい。私たちは少しお話しをし過ぎたようです、あの若造がさっきからこちらをチラチラと見ています。忌々しい。わざわざマネキン販売にきて、こんな安いスーパーに稼がせてあげているのに、いつもしつこく絡んでくるの。スーパーの客相手に勧誘をするな、とか馬鹿にして。勧誘などではありません。魂の会話です。お客様、あなたのお顔を見た時にピンときたのです。‥ええ、あの、どこかの国の年端もいかないアイドルのポップを、あなたが睨みつけているのを見ていましたよ。あなたはヒイズル人であるプライドをしっかりお待ちである、選ばれた人種です。こんなくだらない安スーパーでしか買い物が出来ない人種なわけがない。あなたの骨格から、純粋なヒイズル人であることも私にはわかっています。‥あいつ、まだこっちを見てる。あのどこかの国のアイドルのような髪型が気に食わない。日本男子たるもの、あんな髪型にしてはいけません。ほんとにこの国は犯されてしまった。さぁ早く焼き立てウィンナーを紙皿ごと受け取って。そしてホームページから私たちのサロンに参加して下さい。神の国はあなたをお待ちしています。

‥食べ終わったら紙皿と爪楊枝はそこのゴミ箱に捨てて下さいね。

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