第14話

「エレーナ、第二王子から君に招待状だ」


「招待状??ですか??」


 エレーナの父であるエディンはそう言いながら、彼女のもとに一通の手紙を差し出した。そこには【招待状】という大きな文字と共に、オレフィス第二王子からエレーナへ宛てて書かれた文章が記されていた。


「やれやれ…。自分が一方的に婚約破棄した相手を王宮でのイベントに招待するなど、本当に良い性格をしているらしいな…」


「というよりもたぶん、カタリナかイーリスあたりじゃないですかね?これを送るよう手配したのは」


 普通なら憎らしい相手からの嫌がらせにしか思えないその手紙を前にして、感情的になってもおかしくはない。しかし完全に吹っ切れている様子のエレーナには、まったくダメージを与えられてはいない様子。


「せっかくお誘いいただいたのですから、行くに決まっていますよね!もしかしたらバラン様にお会いできるかもしれないし…!!!」


「はぁ……。別に行くのは止めはしないが、あまり羽目を外しすぎるんじゃないぞ…」


「はぁーい!!」


 エレーナはうっきうきな様子で筆を手に取り、参加の意思を記した返事を迅速に書き始めたのだった。


――――


「エレーナ…。招待状を手にして、いまごろ発狂しているんじゃないかしら?♪」


 そう言いながらほくそ笑みむのは、オレフィスの妹であるカタリナだった。エレーナが思った通り、あの招待状はオレフィスからもたらされたものではなく、実質的にはカタリナから差し出されたものだったのだ。


「(この間はイーリスにくぎをさせたわけだし、誰が一番お兄様に気に入られているのかをはっきりさせないといけないわ♪そのための踏み台として、エレーナには活躍してもらう事にしましょ♪)」


 この食事会の主催者はオレフィスであるものの、実質的な主催者はカタリナだった。彼女はこの食事会を通して、いったい誰がオレフィスの隣に立つにふさわしい人物かをアピールしようと考えていた。現在オレフィスと婚約関係にあるのはイーリスであるものの、その関係を形だけのものであると人々に思わせ、同時に自分とオレフィスの中の深さをひけらかすことができれば、自分の存在感を周囲に知らしめるなによりの方法となる。

 エレーナを招待したのにはいくつか理由があったものの、単純に彼女に嫌がらせをしたかったという理由もあった。あの手紙を受け取ってエレーナが嫌な気持ちになればそれでよし、意地を張って参加してくるというのならそれさえも自分の踏み台とする、という考えだった。


 そしてさらにもう一つ、彼女の頭の中には別の計画があった…。


「(カサル教皇を失脚させようとしたあなたの手口…。そっくりそのままおかえしさせてもらうことにするわ…♪)」


――――


 そして食事会の開催を知らされたイーリスはというと…。


「イーリス様、いかがなさいますか?カタリナ様からは出席されようが、不参加であろうが、どっちでもいいとの言葉をいただいておりますが…」


「もちろん、参加すると伝えてちょうだい。せっかくかわいいかわいい妹が誘ってくれているんだから、行かないわけがないでしょう?」


「承知しました」


 返事を聞き届け、使用人は丁寧な動作でイーリスの部屋を後にしていった。


「(どうせ私への当てつけのつもりなんでしょうけど、そんなものは意味ないわよ?オレフィス様は私の事を第一に考えてくださると約束してくれたんですもの♪あなたが恥をかくだけでしてよ?♪)」


 それぞれの思惑がうごめく中、食事会は当日を迎える。

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