第10話
オレフィス第二王子が鎮座する王室に、独特の緊張感が広がっている。いぶかしげな表情を浮かべる彼の前に、ある一人の人物が乱暴に運び込まれてきた。
その人物を自分の目の前に据えた後、オレフィスは言葉を発した。
「お前がカサル教皇か……。さて、どうしてお前がここに連れてこられるようなことになったのか、もう分かっているな?」
「わ、私は何も悪いことなどしておりませんオレフィス様!!こ、これは一体どういうことなのですか!?」
オレフィスの前に連れてこられたのは、主に教会で祈りを捧げる使命を持つカサル教皇だった。オレフィスとはあまり直接的な接点などないだけに、どうしてこのような形で乱暴に第二王宮に連行されることとなったのか、見当もついていない様子だった。
「そうか、しらを切ると言うか…。まぁ良い。僕は今機嫌がいいからな」
口でこそそう言いながらも、機嫌はどこか悪そうなオレフィス。彼は高圧的な口調で説明を始めた。
「あろうことかつい先日、この第二王宮の庭で花を眺めていたイーリスが何者かに襲われかけるという事件が起こった」
「そ、そのようなことが…?」
「その犯人はイーリスが庭に出てくるのを待ち伏せていたらしい。彼女の姿を見るや否や襲い掛かった。しかしすぐに彼女を守る兵たちがその場に駆け付けたことで、被害は出ずに済んだというわけだ」
「そ、そうだったのですか…。そ、それで私がそのことと何の関係が…?」
「……お前なのだろう?イーリスを襲ったのは?」
「っ!!??」
オレフィスが自分に向けるその視線は、決して冗談を言っているそれではない。カサル自身には全くその心当たりなどなかったがために、このままでは自分が犯人とされるという事実に、心臓を強く震わせた。
「わ、私は決してそのようなことなどしておりません!!私は神に仕える教皇でございます!!たとえオレフィス様のお考えであられようとも、そればかりは受け入れることはできません!」
必死に自身の潔白を叫ぶカサルだったものの、すでにオレフィスの心は決まっている様子だった。
「他でもない、イーリス自身がそう言っているのだ。お前に襲われたのだ、と」
「そ、そんなことが…。ひ、人違いでございます!!私は決してそのような」「もういい」
そのまま言葉を続けるカサルを、オレフィスは変わらず高圧的な口調で遮った。
「自分から罪を認めたなら、許してやろうかと思っていたのだが…。お前がそういう態度をとるというなら、もはや情けはいらないな」
「そ、そんな……」
オレフィスの宣告を受け、カサルはその場に膝から倒れこむ。……その後彼はこの部屋から連れ出され、オレフィスの前から姿を消した…。
――――
それからあまり時間を経ずに、オレフィスのもとをイーリスが訪れた。
「…すべて、計画通りでございますね♪」
「あぁ、ばっちりだとも!」
きらびやかに装飾された椅子に腰かけるオレフィスのもとにイーリスがかけより、その体に抱き着いた。
「…私、あの教皇が嫌いで仕方なかったのです…。こうして私の願い通り消し去ってくれたこと、本当にうれしく思います♪」
「なぁに、あいつを消したいという思いは僕も同じだったんだ。エレーナの事を女神の生まれ変わりだと宣言したのはあいつだろう?そのエレーナを追放したとなっては、人々は僕の事を責め立てるかもしれない。しかし当のカサルがいなくなれば、その心配もなくなるというわけだ♪」
「…本当はエレーナは女神でもなんでもないのに、彼女の事を女神の生まれ変わりだと間違った判断したカサルは、その責任を負ってどこかへと消える……というストーリーですわね?」
「その通りだとも♪これで僕たちの関係はより一層深いものとなるだろう♪」
二人はそう会話をすると、それまで以上に強くその身を寄せ合った。…とはいっても、オレフィスの方は本心からの言葉だったものの、イーリスがカサル教皇を快く思っていなかったのは、なにやら別の理由があった様子…。
「(……このまま順調に教皇がいなくなったら、エレーナだけでなくあなたも破滅することになるでしょうね、カタリナ?……まさに一石二鳥だわ♪)」
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