第6話
「お父様!!お兄様!!いつまでぐだぐだしてるんですか!!早く行きますよ!!」
「ちょ、ちょっとまってくれって…」
「はぁ……どうして俺まで…」
オレフィス第二王子との婚約が破棄されてからというもの、エレーナはそれまで以上にうきうきとした表情を浮かべていた。彼女がここまでそわそわとしているのには理由があり、今日は食事会パーティーが開かれるためだった。…場所は他でもない、彼女が心酔するバラン伯爵家だった…。
「はぁぁぁ、バラン様ぁぁぁ!私エレーナ、今からあなた様のもとに向かわせていただきます!!今夜お会いできるのはほんの短い時間だけかもしれませんが、いずれはそれを永遠のものにしてみせますわぁ!!」
瞳をキラキラと輝かせ、まるで空に浮かぶ雲に祈りをささげるかのようなポーズでそう言葉を発するエレーナ。そんな彼女の姿を見て、二人は背筋が凍る思いを隠さずにはいられなかった…。
――――
バラン伯爵の主催する食事会には彼と親しいものが呼ばれ、エレーナの場合は彼女の父であるエディンが伯爵との関係を持っていた。
「いやいや、オレフィス様のお言葉には驚きましたよ。突然にエレーナ様との関係を終わりにして、イーリスという女性との婚約を結ばれると…」
「ええ、私も驚きましたとも。ただまぁ、オレフィス様には何かお考えがきっとあるのでしょう。私のような凡人には考えもつかないような天才的ななにかが」
「これはこれは。相手が第二王子様であろうとも、相変わらずエディン様は手厳しいですね(笑)」
皮肉たっぷりの言葉を並べるエディンの様子に、思わず笑みを隠せないバラン。彼は手に持つグラスを一口喉へと流し込んだ後に、その表情を真剣なものに戻して言葉を返した。
「それで、エレーナ様は大丈夫でしょうか…?いきなり第二王子との婚約関係を解消されて、ショックで寝込んでおられるのではないかと心配でして…」
「あ~~………」
不安そうな表情を見せるバランに対し、エディンは気の抜けた声で返事をしてしまう。
「…よ、よかったら会っていただけますか?今日はエレーナも来ておりますので…」
「なんと、そうでしたか!それは是非!」
「で、ですが……あの、あまりおすすめはできませんけれど……」
「???」
歯切れの悪い言い方をするエディンの意図がよく分からないバランだったものの、彼はこの後すぐにその意味をわからされることになった…。
――――
「バラン様バラン様バラン様!!!!私ずーーっとあなた様のことをお慕いしておりまして、今日このような形でお会いできましたことを、心から嬉しく思っています!!!!」
「は、はぁ……そ、それはどうも……」
圧倒的なエレーナの雰囲気を前に、あらゆる経験を重ねてきたバランもたじたじにならざるを得ない…
「見てくださいこれ!!このノートには全部のページに伯爵様のお顔を書かせていただきました!!」
「ぶっ!?!?」
「次はこれです!!毎日30個ずつ、伯爵様のぬいぐるみを作らせていただきました!!伯爵様に似て、愛らしいでしょう??♪」
「ぐぅっ!?!?」
「あとは……この手帳は恥ずかしいのですけれど、伯爵様と私との未来のスケジュールを書き込んで…」
「も、もうやめてくれえぇぇぇ!!!!」
エレーナが何か見せるたびにダメージを受けていた伯爵、ついに限界が来たようで彼女の前から逃げ出してしまった…。
遠目にその様子を見守っていたエディンとルークは、そろってその場で頭を抱える。
「「(…やっぱりこうなってしまったか………すまない伯爵様………!!)」」
そしてそんな彼らの姿を遠目からいぶかしげに見つめる、王宮関係者の姿があった…。
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