第2話幸せになってくれ

またしても本編から外れた登場人物の話をすることを許して欲しい。

前回は紅くるみにフォーカスをあてた話であったが…

今回はと言うと…

あの不遇だが人気な登場人物の話。

軽いいじられキャラだが愛すべき女性キャラ…

そう深瀬キキの話なのである。




久しぶりに活動拠点である海外に来ていた。

今回は小さな個展を開くことが決まっており私は現場の状況を確認しに来ていたのだ。


「キキ!今回はこっちに来てくれたんだね!?」


眼の前の人懐っこい少年のような男性は私の個展をプロデュースしてくれている。

私に懐いている可愛い金色の大型犬の様な彼に私は思わず破顔して出迎えた。


「おはよう。クリスに会いに来たのよ」


「わぁ!なんて嬉しいこと言ってくれるんだい!?光栄だよ!」


「ははっ。冗談だよ」


「冗談!?酷いよ!僕はキキをずっと待っているっていうのに!」


「冗談の冗談」


「どっち!?本心を教えてよ!」


「言わなくても察してよ。相手の想いを上手に汲み取る男性はモテるわよ」


「そうか…じゃあキキは本当に僕に会いに来てくれたんだね。嬉しいよ」


「答えが分かっても口にしないのよ。空気読んで」


私とクリスはそこで破顔するように微笑み合うと個展会場を見て回っていた。


「今回の個展はよりキキの良さを出したいと思ったんだ」


「うん。なんとなくだけど…私らしさを強く感じるわ」


「だよね!?キキなら分かってくれると思ったよ!」


「はいはい。一々大げさに喜ばないの」


「だって!僕の想いに気付いてくれたのが嬉しくて!」


「分かったから…皆見ているし恥ずかしいわ」


「でも…!」


喜ぶクリスの口を塞ぐように私は掌を横にして彼の口元に持っていく。

クリスはウンウンと頷くとしっかりと黙ってくれる。

私とクリスはそこから個展会場を隅から隅まで見て回る。

個展会場で流れるBGMや照明なども確認すると私は満足していた。


「今回も最高な出来だと思うよ」


個展会場の確認を全て済ませた私はクリスに感想を口にしていた。


「ホントかい!?嬉しいよ!」


「………クリスはいつもそんなに元気なの?」


「元気?そう見える?」


「と言うか…無邪気?に見えるよ」


「あぁー…そうだね。僕は好きな人の前だと無邪気になってしまうんだ。

どうしても相手に想いを伝えたくて少年みたいになってしまうんだよ。

子供っぽいでしょ?

でも全力で想いを伝えようと思うと大人では居られないんだ。

不快だったら直すけど…」


クリスは少しだけ残念そうな表情で軽く苦笑していた。

その表情を見た私は思わず破顔して首を左右に振っていた。


「不快なんかじゃないわ…

ただ私が好きになるタイプって落ち着いていて大人っぽい人だから…

なんか不思議な気持ちなのよ…」


「キキのタイプじゃないことは残念だけど…

それで不思議な気持ちって?

何を言いたいんだい?」


「あぁー…うん…初めて好きになるタイプの人だから…

どんな風に接すれば良いのかわからないのよ…」


「え…!?キキが僕を好き!?今度は冗談じゃないよね!?」


「えぇ。こんな大事な話で冗談は言わないわ」


「………今日は本当に最高な日だよ!」


「そう…良かったわね…」


「うん!キキ!食事にでも行こう!」


「………その前に何か言うことはないの?」


「ん?僕も好きだよ」


「………いや…そうじゃなくて…」


「え?他に何か言うことがあるの?」


「いや…付き合ってくださいとか無いの?」


「あぁー。こっちではそういうの無いんだよね。

お互いに好きって気持ちを伝えて一緒に居たら…

それはもう交際しているってことだから。

僕はこっちの流儀しか知らないんだ。

そっちではちゃんと交際を始める挨拶みたいなのがあるのかい?」


「うん…でももう良いわよ。クリスの想いは分かったから。

私達は今日から交際するってことなのね」


「もちろん!そのつもりだよ!食事に行ってお酒でも飲んで一緒に過ごそう」


「えぇ。そうしましょう」


そうして私達は個展会場を抜けて街まで向かう。

交際を始めた私とクリスは夕方からお酒を飲みながら食事を楽しむ。

大人な私達は夜になると…

私が予約していた宿泊先のホテルに二人揃ってふけていくのであった。



こうして深瀬キキにもやっと恋人が出来た。

彼女は今までのタイプではない男性と交際を始めて…

やっと報われることが出来た彼女のこれからの物語はまだ始まったばかりである。



幸せになって欲しいと願う…

私達なのであった。

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