いずれ勇者と呼ばれる男のハナシ。
三柴 ヲト
第1歩目 勇者、踏み出す
第1話 勇者、これまでの生い立ち。
◆
「勇者様ご一行が帰還されたぞ!」
魔王討伐という華々しい功績を上げた英雄たちが、凱旋パレードとして称賛を浴びながらヴァリアント王国の城下町を闊歩するその姿を、当時十歳の俺は、前に二歳児を抱っこし、後ろに三歳児を負ぶり、両手に大量の晩飯用食材を抱えたまま、ただぼんやりと眺めていた。
「ああ、なんて凛々しいお姿なのかしら!」
「本当ね。弱を助け強きを挫く、勇猛果敢な勇者様……我が国の誇りだわ!」
誰からも慕われ、誰からも愛され、誰よりも強い心と広いを持ち、何者にも怯むことなく真っ向から悪に立ち向かう、強く、勇ましい存在、それが勇者――。
(やっぱカッコいーわ)
あの日から……いや、本当はもっと前からずっと、俺は『勇者』になりたかった。
◆
俺がはじめて勇者になりたいと思ったのは、八歳になったときのことだ。
俺の住むヴァニラ村が凶悪なモンスターの群れに襲われ、村はあっけなく半壊。当時ただの悪ガキでしかなかった俺は、その辺に落ちていた棒切れで必死に応戦らしき悪あがきをしたものの、それが何かの役に立つはずもなく、自分の母親と、片思いをしていた隣家の女が、目の前で魔王軍に連れ去られるのをただ黙って見過ごすしかできなかった。
『勇者になりたい』
瓦礫の山と化した村の片隅で、無力な自分に絶望した八歳の俺は、泣き喚きながら強くそう願ったことを今でも覚えている。
もちろん、勇者を目指す方法がないわけじゃなかった。冒険者養成学校に通い、『冒険者免許』をとって、日々鍛錬と人助けをしながら魔物討伐の実績を積み、世界中を旅する。そしていずれ立ちはだかるであろう魔王をこの手で討ち滅ぼせば、あの日、城下町の凱旋パレードで手を振って笑顔を振り撒く英雄的存在になれていたのは俺だったのかもしれない。……なんて、もちろん、人生そんな都合よくいくわけがないのだけれど。
実際の俺といえば、村半壊の翌日から村復興の手伝いに終始し、その翌々日には意を決して村を発った元剣聖の親父代わりに五人もいるヤンチャ弟らの面倒を一手に引き受けることとなり、さらにその翌々日には復興手伝いと、家事育児と、復興のための資材調達にあちこちの村や町を駆け巡ることになり、冒険者養成学校に通うことはおろか、教養を得るための
連れ去られた女達を救出するため村を発っていた元剣聖の親父が、遺体となって帰ってきたのは、俺が九歳を迎える頃の事だったと思う。
持病を拗らせて剣聖という役割から退いていた親父のことだから、そもそも魔王軍に立ち向かおうだなんて無謀な挑戦だと思っていたし、こうなることはある程度予想していた。それでも、退けない意地とプライドがある親父の気持ちもガキなりに理解していたし、止めようとは思わなかった。連れ去られたお袋や、俺が片思いしていた幼馴染の女、村のあらゆる女達を、親父が勇者さながらの活躍で魔王軍の手から救い出し、凱旋帰村してくれる可能性が1%でもあるのなら、それに縋りつきたい気持ちも強くあったからだ。
だが結局、夢は夢のままに現実を突きつけられて、母親も父親もいないヤンチャな六人兄弟のめちゃくちゃな暮らしだけが残された。
勇者を目指す者としてではなく、エヴァンズ家・長男としての役割を果たす者として、俺はそれからまた長らく忙殺の日々を過ごし、気がついたら俺は、学歴もたいした職歴も何もないままの十八歳の誕生日を迎えようとしていた。
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