ラストシーン

赤山仁

彼女と記者

「以上でこの裁判は結審となります。」

「.........................」


「初めまして。週刊誌日本現代の桑田と申します。」

「....はい。」

「今回、金山さんの取材許可が降りたという事で参りました。」

「はい。」

「失礼します。これで会話の録音を取らせて頂きます。」

「はい。」

「初めに、なぜ取材に応じる気になったのかお聞きしても?」

「何となく、、ただ何となくです。」

「何となく、ですか。」

「では続いて質問させていただきます。」

「金山さん。死刑が明後日執行される事についてどう思いですか?」

「どうもこうも、実感が無いとしか、。」

「では続いて、十三人をも殺害した事に対して遺族へかけたい言葉はありますか?」

「ごめんなさい。無いです。特には」

「では続いて、金山さんの初犯に及んだきっかけを。」

「初めて、殺したのはみゆちゃんです。」

「、、私。学校ではモテてました。」

「でも、私に振り向かない子が1人。」

「ゼミ友達ですか?」

「はい。そうです。」

「大学の時、初めて人を好きになって。」

「それが、金山さんに振り向かなかった子?」

「はい。告白したんですけど振られちゃって」

「それと初犯に関係が?」

「その子の彼女を殺しました。」

「警察は遺体が酷く損傷している事から何らかの怨みがあると考えていましたが、痴情のもつれからで、」

「いえ、彼に振られてからは、特に関係は持たなかったんです。」

「その時の詳細を、具体的に」

「えーと、みゆちゃんをアイスピックで刺しました。宅飲みしてて、」

「彼は自分はサイコパスかもしれない。そう言って、言ってたのを彼女からから聞いて。」

「それで?」

「私も同じになれば興味を持ってもらえると信じてました。」

「だから、刺しました。沢山。沢山。沢山、沢山沢山沢山沢山沢山沢山沢山沢山沢山沢山沢山。」

「叫ばれたら困るから先に寝かして、絞殺した後刺しました。」

「うっ、失礼。続けて。」

「目を刺した時、以外と固いんだなって。」

「頭は刺さんない所と刺さる所があって。」

「彼女は666の穴をあけて、血が沢山ついてぬるぬるするんです。滑って刺しにくい。」

「だから、頑張りました!」

「で、冬だけど暖房をつけていたせいか臭くなって。それに部屋は血まみれになっていた事に初めて気づきました。」

「だから、家ごと燃やして。ぱぱのジッポオイルだけじゃ心元ないから、血が着いたまま灯油を入れに行きました。すぐ近くにあるんです。給油所が。」

「家に沢山巻いて燃やして、私は裸になって外へ出ました。襲われたって隣のおばちゃんに泣いて説明したら家に入れてくれて。優しくしてくれました。」

「でも、しばらくして消防士が来た時に私、血が落とし切れて無くて。」

「すごく驚いて、でもあの時の感触を思い出して。」

「年寄りってどんな感触なのかなって思って。」

「すみません、取材は以上にします、すみません」

「まって、最後まで聞いて、ここからが面白いの、ねぇ、」


2021年。1人の女性が死刑囚として執行された。

彼女は、19歳だった。

彼女は確定しているだけで13人の人を殺した。

非常に計画的で残酷な行いは治療の余地無しとして、判決が下った。

一部世間では彼女の可愛さから擁護の声が飛んだ。

13人も人を殺害しておきながら、まるでアイドルの様な扱いを受けた。

ショート動画SNSでは彼女の顔写真と共に軽快な音楽を添え海外まで届く。

彼女の容姿と犯行内容からギャップが大きく、現実的に受け入れられず、犯人は彼女では無い、陰謀論だという意見まで飛び交った。

しかし、彼女の証言と犯行現場の状況は全て一致していた。また他の遺体の様子なども詳細に言えた事から彼女が犯人と見て間違いないだろう。

事件の重大さとは裏腹に、彼女の美貌故に死刑反対の抗議デモまで行われた。

そのため2回も死刑が見送られる事になる。

金山氏の最後の発言は、


「私の代わりに誰かたくさん殺して。」だ。


彼女の発言は報道に不適切だと言う結論に至り公表されない事が決定した。しかし一部週刊誌がこれを取り上げてしまい、金山氏の狂信的な信者が模倣犯として捕まる。

彼女の最後の言葉により、殺意は伝染した。




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ラストシーン 赤山仁 @kamisin6

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