ロボットが覚えた言葉

ロボットが覚えた言葉

先日友人とバイクでツーリングに行きました。

外国製バイクのディーラーが、バイクを走らせて1時間くらいの場所にあるので、いつもディーラーでメンテナンスしてもらいがてら、ツーリングを楽しみます。

メンテナンスも終わった頃、昼食をどうしようかということになり、普段あまり行くことのないショッピングモールへ行くことになりました。

そこは三階建ての建物で、真ん中が吹き抜けになっていて、その吹き抜けの一番下の広場ではイベントが行われていました。

ロボットの展示販売なのだと思います。

少し前に流行った、動物型をした愛玩用ロボットの機能に加えて、話しかけると家電の操作をしてくれる機能があるような、人型のロボットです。

こんなものがあるんだ、時代は進んでるな。

なんて年寄り感丸出しの感想を抱きながらイベントを覗きました。

会話ができるようで、ロボットに興味を持った小さい子供達が話しかけると、ぎこちなく体を動かし、首を傾げて、甲高い声でなんらかの答えを喋っています。

色とりどりの服を着せており、人間が可愛がれるようにできています。

上半身だけ服を着せてあるものを見ていると、有名なクマのぬいぐるみのようでもあり、滑稽でもあると感じました。

すると、

「ロボットに興味がおありですか？」

と小綺麗なスーツを着た、若いイベントスタッフに声をかけられました。

「ええ、まあ。」

と返事をすると、スタッフは熱心にパンフレットを見せてくれたり、動かし方を教えてくれました。

ですが、「興味がある」とは言ってみたものの、好きなのはバイクなどの機械いじりで、いわゆるパソコンやらアプリなんかはさっぱりです。話の内容の半分もわかりません。

曖昧な返事をしていると、

「一台、お持ちになりませんか？」

とスタッフが持ちかけてきました。

手には上半身だけ服を着たロボットがあります。

「購入という意味ですか？」

と聞き返すと

「いいえ、差し上げます。プレゼントです。」

といわれました。

「プレゼントって、どういうことですか？」

「これをご自宅で使用していただいて、感想を口コミで広めていただきたいんです。」

モニターになってくれ、ということは理解しましたが、

自他共に認める機械音痴、仕事で使うエクセルも何もわからない自分。子供はみんな大きくなって一人立ちしており面白いおもちゃをいじる家族もいない。

そう思って、お断りをしました。

「本当に無料ですから。感想だけでも。」

と何回かいわれたのですが、なんとなく、ただでもらう、というのは気持ちが悪いと感じてしまい、丁寧にお断りをしてその場を去りました。

「無料でなんて、そんなことあるんだね。」

と友人を話をしながらフードコートでラーメンをすすりました。

「そうなんだよ、安くもないだろうに、どういうことなんだか。」

帰りがけ、またそのイベントスペースを通りかかったのですが、声をかけられては少し面倒だなと思い、イベントスペースの後ろ側を通ることにしました。

そこからはイベントのバックヤードが見えており、衝立の後ろにいくつかのロボットが並んでいました。

そのいくつかは動いており、周りの声に反応しているのが、本当に生き物が生きているかのようした。

その中に、妙に小汚い服をきたロボットがありました。

例の、上半身だけ服を着ているロボットなのですが、服が妙に黄ばんでいて、裾から糸も出ていて、愛玩用としては違和感を感じる外観でした。

友人も同じことを感じたようで、一瞬、その場に足を止めました。

すると、そのロボットが奇妙なことを喋りだしたのです。

「ぶって。もっとぶって。」

私はゾッとして友人の顔を見ました。

すると友人も同じ言葉を聞いたようで、顔面蒼白です。

私たちは足早にその場を立ち去ることにしました。

あのロボットを受け取っていたらどんなことになったのでしょうか。

誰かが、あの言葉をロボットに教えたのか、それともロボットが自分の意思で喋ったのでしょうか。