スーパーグレイトマン~正義を行う者たち~

青樹空良

正義を行う者たち

戦え! スーパーグレイトマン!

「がんばれ! スーパーグレイトマンエンデー!」

「負けないで-!」


 足元から声援が聞こえる。私、スーパーグレイトマンエンデを応援してくれている子どもたちの声だ。

 目の前には大怪獣の姿がある。

 大怪獣の周りには、地球人が組織した防衛隊の戦闘機が飛んでいる。ビームを発射しているようだが、いつもながら役には立っていない。

 が、毎度のことなので特に気にしてはいない。私が倒せばいいだけの話だ。こうして派手に戦うことが私の役目なのだから。

 さて、クライマックスだ。

 光線技、スーパーグレイト光線を大怪獣にお見舞いする。

 怪獣が爆散する。

 この光線により、怪獣は細胞の一片も残さず消え去る。


「ありがとー!」

「ありがとう! スーパーグレイトマンエンデ!!」


 子どもたちの歓声を耳に、私は宇宙に向かって飛び立つ。


「また来てね-!」


 スーパーグレイトな私の耳にはそんな声も届いている。

 スーパーグレイトマンは地球の言語を話さないことになっているので、答えはしないが来週もまた来ることは決まっている。もちろん、怪獣を倒しに、だ。




 ◇ ◇ ◇




「どこ行ってたんだ、いつも途中でいなくなるよな、お前」

「あはは」


 私は無駄にさわやかな笑顔で、笑ってごまかす。

 スーパーグレイトマンエンデである私は、さっき大怪獣の周りを飛び回っていた戦闘機を展開していた防衛隊にも所属している。

 今の私の姿は、この星の人類に擬態した姿だ。もちろん、私がスーパーグレイトマンエンデだということは誰にも秘密だ。誰も疑わないので上手くいっているのだろう。

 スーパーグレイトマンとして母星から派遣された者は、地球の防衛隊に所属するのが通例となっている。

 何故か、毎回私が作戦の途中でいなくなっても処分されることはない。この組織はお人好しばかりのようだ。

 だが、そうでなくては困る。


「よかったわね! 今週も地球の平和を守れて!」


 輝くような笑顔を見せてくれるのはこの隊の紅一点だ。どうもいつも私のことをやけに潤んだ目で見つめてくる。謎だ。

 他の隊員達はそれを見て私たちのことをよくからかってくる。更に謎だ。


「あっはっは、本当に今週も無事に終わってよかったな!」


 私もとりあえず同意しておく。


「よしっ、じゃあ、飯でも食いに行くか!」

「よーし!」

「焼き肉とかどうですか」

「おいおい、給料日前だぞ」


 笑い声が響く。和やかだ。

 この星がいつまでもこんな風に平和でいてくれているといいと、私は思っている。




 ◇ ◇ ◇




『今日の任務、ご苦労だった』


 夜、私が地球人として暮らしている安アパートに母星からの通信が入った。

 画面に映っているのは以前、地球に派遣されていたという大先輩スーパーグレイトマンエルンストの姿だ。一年間この地球で働いた後、今は任期を終えて母星で地球に怪獣を送り込む仕事をしている。


『今回の大怪獣もうまく地球を破壊してくれたか?』

「ええ、上手くいきました。私がとどめを刺すものと頼り切っているので、今以上の装備を開発するという行動にも出ていない様子です」

『うむ、よくやった』

「ありがとうございます」

『では、来週もまた頼む。次に送り込む大怪獣はこれだ』


 画面上に大怪獣の詳細が表示される。


「了解しました」

『健闘を祈る』


 通信が切れる。


「ふう」


 ようやく今日の仕事が終わって、私は地球産の缶ビールを開ける。これは、この星のものの中では悪くない。いや、全宇宙の中でもかなり上位に入る逸品だと思う。

 この一杯の為に地球で働いていると言っても過言では無い。

 防衛隊の仲間達と食事に行ったときにもいつも勧められるのだが、涙を飲んで断っている。万が一にも酔いが回って私たちの本当の目的を話してしまっては困るからだ。

 しかし、不思議だ。

 こんな美味しいものを作れるこの星の人類が、好戦的な性質を持っているとは。

 スーパーグレイトマンとして戦うだけではなく、この星の人類の監視も私の役割なのだが、こうしてこの星で暮らしてみてわかった。それは全てのこの星の人類に当てはまる性質ではない。

 しかし、こうして我々が敵を送り込まずにいれば、人類は技術を進歩させて地球外に進出してしまう。

 この星の上でだけ戦争行為をしてくれている分には、他の星に影響は無い。が、他の星に矛先を向けるようになってしまったら、それは宇宙全体にとって脅威となる。

 そこで、私たちスーパーグレイト星人が、人類がこれ以上宇宙の脅威とならないよう管理しているのだ。

 宇宙へ進出するようなリソースを持たせない為に、わざと地球人類の力を削ぐような活動も行っている。それが、毎週の大怪獣襲来だ。もちろん、それを撃退する為にあまりに技術を発達させられても困るので、私がスーパーグレイトマンエンデになってトドメを刺すことも決められている。

 大怪獣はもちろん、スーパーグレイト星で製造している、いわゆる作り物だ。自作自演と言えば聞こえは悪いが、これも宇宙全体の為だ。それで、宇宙の平和が保たれるならこの仕事をしている甲斐があるというものだ。

 私たちの母星スーパーグレイト星の技術を持ってすれば、この星の人類を滅ぼしてしまうことも難しくはない。だが、それでは好戦的なこの星の人類と同じになってしまう。私たちは殺戮を行いたいわけではない。

 出来れば、独自の文化を持つこの星には存続していて欲しい。そういうことで、この星の管理にはこうした特殊な方法をとっている。

 だから私は、この宇宙を守る為、来週も大怪獣との戦いを演じてみせるのだ。


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